マーケターのAIスキルを何で測るか|デジタルスキル標準ver.2.0のロールにマーケ職を当てはめる
マーケターのAIスキルは、IPAのデジタルスキル標準(DSS)ver.2.0でどう測れるのか。DSSに「マーケター」のロールは無いため、CRM企画・広告運用・分析・クリエイティブを新設のコミュニケーションデザイナーなどのロールに当てはめ、AI関連スキルの目標水準と、自社で決める測り方を整理しました。
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この記事の要点
- デジタルスキル標準(DSS)ver.2.0に「マーケター」のロールは無い。マーケティングは各ロールが身につけるスキルの1つなので、職務ごとに近いロールを選び、そのロールに付いているスキルの重要度(a〜d)を目標の水準として読む。
- 当社の当てはめでは、CRM企画・広告運用・クリエイティブはコミュニケーションデザイナー、分析はデータサイエンスプロフェッショナルに近い。「データ・AI理解・活用」は当てはめた5つのロールすべてでb以上、「AI実装・運用」がaなのは分析に当てたロールだけ。
- DSSは、到達したかどうかを判定する詳細な評価指標を設けていない。重要度の定義を「何を見れば確かめられるか」に置き換えて、測り方を自社で決める。
マーケ職のAIスキルを、DSS ver.2.0で測る手順
全員に共通する土台:DXリテラシー標準の生成AIの項目
DSSが決めていないこと:到達したかどうかを判定する詳細な評価指標(p.55)
当社が勧める進め方。出典:IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」p.55・56・74
マーケターのAIスキルを、IPA(情報処理推進機構)と経済産業省の「デジタルスキル標準(DSS)」で測ろうとすると、まず「マーケター」というロールが見つからないことに気づきます。2026年4月に公開されたデジタルスキル標準 ver.2.0でも、マーケティングは独立したロールではなく、各ロールが身につけるスキルの1つとして定義されています(本体PDF p.56)。そのため当社は、職務ごとに近いロールを選び、そのロールに付いているスキルの重要度(a〜d)を目標の水準として読む方法をとっています。
ver.2.0では、顧客との接点のメッセージと施策の改善を担う「コミュニケーションデザイナー」がデザイナー類型に加わり(グラフィックデザイナーは削除)、事業部門でデータの品質や利用ルールを担う「データスチュワード」を含むデータマネジメント類型が新設されました。当社の見立てでは、この2つのロールを使うと、CRM企画、広告運用、分析、クリエイティブの4つの職務を以前の版より当てはめやすくなりました。ただしDSSは、目標の水準は示していても、到達したかどうかを判定する詳細な評価指標は設けていません(p.55)。何を見て「できる」とみなすかは、各社が決める部分として残ります。
現場の利用は先に進んでいます。IPAの「DX動向2026」(2026年4月中旬から6月中旬に実施、国内企業1,799社が回答)では、生成AIを導入・試験利用・検討している企業のうち、広報・宣伝・マーケティング部署で生成AIを利用している企業が59.3%でした(図表3-7)。一方で、DXに取り組む企業の76.1%はDX人材の評価基準を持っておらず(図表4-6)、従業員1,001人以上の企業に限っても63.0%が基準を持っていません(データ集のp.88)。回答企業全体で見ると、DSSを「活用している」と答えた企業は11.2%です(図表5-1)。この記事では、ver.2.0の改訂点のうちマーケ職に関わるものを整理したうえで、4職務をロールに当てはめた表(当社の解釈)、ロールごとのAI関連スキルの目標水準、その測り方の決め方を順に説明します。従業員1,000人以上の企業で、マーケティング人材の育成計画を作る部門長や人材開発の担当者を読み手に想定しています。
この記事の表記:DSS=デジタルスキル標準。ページ番号は、IPAが公開しているver.2.0本体PDFに印字されたページです。DX動向2026の数字は、報告書で「2025年度調査」と表記されている回(2026年4〜6月実施)の値で、図表番号は報告書本文、「データ集」のページはデータ集PDFのページです。
デジタルスキル標準に「マーケター」のロールはない
DSSは2つの標準でできています。全てのビジネスパーソンを対象にした「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材の役割(ロール)と必要なスキルを定めた「DX推進スキル標準」です(p.5〜6)。職務による違いを扱うのは後者で、ver.2.0では6つの類型の下に17のロールが置かれています(p.63)。
| 類型 | ロール(ver.2.0) |
|---|---|
| ビジネスアーキテクト | ビジネスアーキテクト/ビジネスアナリスト/プロダクトマネージャー |
| デザイナー | サービスデザイナー/UX/UIデザイナー/コミュニケーションデザイナー |
| データサイエンティスト | データビジネスストラテジスト/データサイエンスプロフェッショナル |
| データマネジメント(新設) | データスチュワード/データエンジニア/データアーキテクト |
| ソフトウェアエンジニア | フロントエンドエンジニア/バックエンドエンジニア/クラウドエンジニア/SRE/フィジカルコンピューティングエンジニア |
| サイバーセキュリティ | サイバーセキュリティマネージャー/サイバーセキュリティエンジニア |
出典:IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」p.63のロール一覧をもとに当社で作成
この中に、マーケティングを名前に持つロールはありません。DSSは、プロジェクト管理や人材育成と同じく、マーケティングの担い手はプロジェクトの性質によって変わりうるため、独立したロールにはせず「ロールに必要なスキル」として定義したと説明しています。本体の図でも、マーケティング戦略策定とデジタルマーケティングは、ロールではなくスキルの枠に置かれています(p.56)。この扱いは1つ前のver.1.2と同じです。
スキルの側を見ると、共通スキルリストの「ビジネス変革」カテゴリーに「マーケティング」という項目があります(p.66)。顧客と市場のニーズをつかんで製品と市場の適合(PMF)を確立し、市場投入(GTM)の戦略を設計・実行して、収益化の仕組みを改善し続けるスキル、という説明です。学習項目例にはWebマーケティング、SEO、SNSマーケティング、AI活用マーケティングなどが並びます。この項目を最も高い重要度(a)で求めているのは、プロダクトマネージャー、サービスデザイナー、コミュニケーションデザイナーの3ロールです。
つまりDSSでマーケ職を扱うときは、全員に1つの「マーケター」を当てるのではなく、職務の中身に近いロールを選ぶことになります。DSSも、1人が複数のロールを兼ねることや、1つのロールを複数人で担うことを想定しています(p.55)。
ver.2.0で変わった点のうち、マーケ職に関係するもの
ver.2.0は2026年4月16日に公開されました(IPAのプレス発表)。本体末尾の改訂履歴(p.146)と、1つ前のver.1.2(2024年7月)を突き合わせ、マーケ職の当てはめに関わる変更を抜き出すと次のようになります。
| 変更点 | ver.1.2まで | ver.2.0 | マーケ職への影響(当社の見方) |
|---|---|---|---|
| デザイナー類型のロール | サービスデザイナー、UX/UIデザイナー、グラフィックデザイナー | グラフィックデザイナーを削除し、コミュニケーションデザイナーを新設 | 顧客接点のメッセージ設計と施策の改善を担うロールができ、CRM企画とクリエイティブの受け皿になった |
| ビジネスアーキテクト類型のロール | 3つとも「ビジネスアーキテクト」の名前で、新規事業開発・既存事業の高度化・社内業務の高度化/効率化の対象別。プロダクトマネージャーは補記で定義 | ビジネスアーキテクト、ビジネスアナリスト、プロダクトマネージャーの3ロール | 施策の成果をKPIで持つマーケ企画の責任者を、プロダクトマネージャーに当てやすくなった |
| データマネジメント類型 | なし(データエンジニアはデータサイエンティスト類型の中) | 新設。データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクト | 顧客データの定義・品質・利用ルールを事業部門の側で持つ役割が明確になった |
| スキル項目「マーケティング」 | 「ビジネスモデル・プロセス」の1項目。別に「ブランディング」の項目があった | 「プロダクトのマネジメント」に移り、PMFとGTMを軸にした説明に変わった。学習項目例に継続・解約・VOCの計測設計が加わり、「ブランディング」は独立した項目ではなくなった | 施策を計測の設計から考えることが、マーケティングのスキルの中に入った |
| データ・AI関連のスキル項目 | 「データ理解・活用」など。生成AIは学習項目例と補記で扱われていた | 「データ・AI理解・活用」に生成AIの仕組みとリスクを踏まえた活用が入った。「AI実装・運用」と、AIガバナンスを含む「ガバナンス体制の構築・運用」が新設 | マーケ職のAIスキルを、これらの項目の重要度で読めるようになった |
出典:IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」p.63・66・69・146、「デジタルスキル標準 ver.1.2」、各版の共通スキルリストExcel版をもとに当社で作成
マーケ職の当てはめで効いてくるのは、コミュニケーションデザイナーの中身です。名前はデザイナーですが、主な業務として、ユーザージャーニーをもとに顧客との接点(Web、メール、SNSなど)とチャネル配分を設計すること、KPIと計測を設計し、A/Bテストや定量・定性の分析から得た気づきでメッセージや体験を改善し続けることが挙げられています(p.97)。見た目を作る役割というより、接点の施策を設計して回す役割として書かれています。
デザイナー類型には、Web、SNS、メール、広告などで使うメッセージや表現が誤解や誘導を生まないよう、表現の基準を倫理面から策定・レビューし、運用のガイドラインにまで落とし込むことも期待されています(p.92)。生成AIで広告文や画像の案を大量に作れるようになると、この確認を誰が持つかが問題になります。DSSの整理に沿えば、マーケ部門ではコミュニケーションデザイナーに当てた人の仕事になる、と当社は考えています。
CRM企画・広告運用・分析・クリエイティブを、どのロールに当てるか
ここからは当社の解釈です。4つの職務でふだん行っている仕事を、IPAが本体PDFの各ロールのページに書いている「担うべき責務」と「主な業務」に照らして、近いロールを選びました。図の下の表の3列目は、根拠にしたIPAの記述の要旨です(「」内は原文の語句、それ以外は要約)。
マーケ職と、近いロール(当社の解釈)
施策全体の優先順位と予算を持つ責任者・部門長:プロダクトマネージャーかビジネスアーキテクトに近い
出典:IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」の各ロールのページ(p.80・82・92・96・97・105・106・112)。どのロールを選ぶかは当社の解釈
当てはめの根拠(IPAの記述の要旨)を表で見る
| マーケ職 | 近いロール(当社の解釈) | 根拠にしたIPAの記述(要旨) | あわせて当てることが多いロール |
|---|---|---|---|
| CRM企画(会員や既存顧客への配信の設計、セグメント、効果検証) | コミュニケーションデザイナー | 顧客との接点とチャネル配分をユーザージャーニーから設計し、KPI・計測の設計とA/Bテストで改善を続ける。責務は「顧客データやフィードバックを活用」して施策を継続的に最適化すること(p.97) | データスチュワード:データのルールやメタデータを整え、品質と安全性を保つ運用を事業部門で担う(p.112) |
| 広告運用(配信の設計、予算配分、計測、レポート) | コミュニケーションデザイナー(配分と計測の設計の部分) | 「チャネル配分を設計」し、KPI・計測の設計と分析から最適化を続ける(p.97)。広告を含む各チャネルの表現が誤解や誘導を生まないよう、基準を作ることもデザイナー類型に期待されている(p.92) | プロダクトマネージャー:成果責任をKPIで具体化し、検証と改善を続ける(p.82)。広告の成果に責任を持つリーダーの場合 |
| 分析(効果検証、顧客分析、ダッシュボード) | データサイエンスプロフェッショナル | データを処理・解析して結果を評価し、業務の変革や改善につながる知見を導き出して可視化する。現場部門でデータを使う仕組みづくりと、利用者への教育・サポートも担う(p.106) | データビジネスストラテジスト:事業戦略に沿ってデータ・AIの活用戦略を考え、現場部門と一緒に業務を設計する(p.105)。データスチュワード:指標の定義やデータのルールを持つ場合 |
| クリエイティブ(広告・販促物・コンテンツの企画と制作) | コミュニケーションデザイナー | ブランド方針とコミュニケーション戦略を、メッセージの枠組みやトーン&マナーとして言語化し、一貫した伝え方を保つ(p.97)。スキル「クリエイティブディレクション」の重要度はa | UX/UIデザイナー:マーケティング施策と連動したWebやアプリのプロトタイプ作成が中心の場合(p.96) |
IPAの記述の出典:「デジタルスキル標準 ver.2.0」の各ロールのページ(p.82・92・96・97・105・106・112)。どのロールを選ぶかは当社の解釈
当てはめで迷いやすい点を補足します。広告運用をデザイナー類型に置くことには、違和感があるかもしれません。ただDSSの定義では、チャネル配分と計測の設計、A/Bテストによる改善はコミュニケーションデザイナーの主な業務に入っています。データサイエンティスト類型のロールは、データ・AIの活用戦略づくりと、データの解析から知見を導くことが中心です。ここでは、媒体の管理画面を操作する作業よりも、どの接点に何を届けて何で測るかを設計する仕事に重心を置いて当てはめました。
施策全体の優先順位と予算を持つマーケ企画の責任者や部門長は、成果責任をKPIで持つプロダクトマネージャー(p.82)か、施策のポートフォリオを立てて経営者の投資判断を支えるビジネスアーキテクト(p.80)に近くなります。スキル「マーケティング」の重要度は、プロダクトマネージャーでa、ビジネスアーキテクトでcです。
AIスキルの目標水準は、ロールの重要度から読む
DSSは、ロールごとに共通スキルリストの各項目へ4段階の重要度を付けています(p.74)。aは高い実践力と専門性、bは一定の実践力と専門性、cは知識として説明できるレベルの理解、dは全体の中での位置づけや他の項目との関係の理解が必要、という意味です。共通スキルリストは5つのカテゴリーと13のサブカテゴリーで整理されていて、項目の数はp.64の一覧で67あります。
前の節で当てはめたロールについて、AIとデータに関わる項目の重要度を抜き出したのが次の表です。値は本体PDFの各ロールのページと、IPAのダウンロードページにある共通スキルリストExcel版(スキルマッピング)で同じです。
| スキル項目 | コミュニケーションデザイナー(CRM企画・広告運用・クリエイティブ) | プロダクトマネージャー(マーケ企画の責任者) | データビジネスストラテジスト | データサイエンスプロフェッショナル(分析) | データスチュワード |
|---|---|---|---|---|---|
| データ・AI理解・活用 | b | b | a | b | b |
| データ・AI技術・社会動向の洞察 | c | b | a | b | c |
| データ・AI活用戦略設計 | c | b | a | c | c |
| データ・AI活用業務の設計・事業実装・運用 | c | c | a | b | b |
| ガバナンス体制の構築・運用 | c | c | a | b | b |
| AI実装・運用 | c | d | b | a | c |
| 数理統計・多変量解析・データ可視化 | d | d | b | a | c |
| データ関連法令などの理解やルール整備と遵守の推進 | c | b | b | b | a |
| データの品質・安全性向上 | c | c | c | c | a |
| 参考:マーケティング | a | a | b | c | c |
重要度の意味(p.74):a=高い実践力と専門性が必要/b=一定の実践力と専門性が必要/c=知識として説明可能なレベルでの理解が必要/d=体系の中での位置づけや他項目との関連の理解が必要。出典:IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」共通スキルリストExcel版(スキルマッピング)、本体p.82・97・105・106・112。ロール名の後ろの括弧は当社の当てはめ
表を横に見ると、同じ「AIスキル」でも職務で求められる水準がかなり違います。生成AIやAIエージェントなどの仕組みを実装して現場に定着させる「AI実装・運用」は、分析に当てたデータサイエンスプロフェッショナルではa、CRM企画・広告運用・クリエイティブに当てたコミュニケーションデザイナーではc、プロダクトマネージャーではdです。一方、データを読み解く力に加えて、生成AIの基礎的な仕組みとリスクを踏まえて使う力を含む「データ・AI理解・活用」は、5つのロールすべてでb以上になっています。
当社はこの表を、マーケ部門の全員には業務で生成AIを使いこなす力(「データ・AI理解・活用」のb)を求め、AIの仕組みを作る力(「AI実装・運用」)は分析の担当に寄せる、という配分の根拠として読んでいます。CRM企画やクリエイティブの担当者に、AIシステムの実装までは求めません。ただしcは、知識として説明できることを求める水準です。配信の自動化やAIエージェントが何を材料に何を決めているのかを、担当者が自分の言葉で説明できることは求められます。
顧客データを扱う職務では、データマネジメントの項目も見落とせません。AIの活用を含むデータ利用のルールや基準を設計するスキルは「データ関連法令などの理解やルール整備と遵守の推進」に含まれ(p.70)、コミュニケーションデザイナーではc、データスチュワードではaです。CRMの配信に生成AIを組み込むと、どの顧客データをAIに渡してよいかを決める人が要ります。DSSの整理に照らすと、その中心になるのはCRM企画の担当者ではなく、データスチュワードに当てた人だと当社は考えています。
こうした人材は多くの企業で足りていません。DX動向2026では、「データマネジメントの知見があり、社内で企画、推進できる人材」が不足していると答えた企業が71.9%、「AIツールでデータ分析を行い、自社の事業に活かせる従業員」が不足しているとした企業が66.5%でした(図表4-12)。
不足していると答えた企業の割合
出典:IPA「DX動向2026」図表4-12
DSSが決めていない「測り方」を自社で決める
重要度は目標の水準であって、到達したかどうかを判定する方法ではありません。DSSの本体は、全体として詳細なレベル評価指標を設けず、独力で業務を遂行でき、後進の育成もできる水準(ITSS+のレベル4相当)を想定していると書いています(p.55)。学習項目例についても、あくまで例であり、全項目の学習を必須とするものではないとしています(p.61)。
IPAのデジタルスキル標準の紹介ページにあるFAQも同じ立場です。DX推進スキル標準には、業種や職種を問わず使える統一的な達成基準の一覧を設けていないこと、DSSに基づく効果測定用のチェックシートはIPAでは用意していないことを示したうえで、学習項目例から必要な項目を選び、自社の評価指標を作ることを勧めています(FAQのQ4・Q10)。
企業の側も、測る仕組みを持っているところはまだ少数です。DX動向2026によると、DXに取り組む企業のうち、DX人材の評価基準について「基準はない」と答えた企業は76.1%で、基準を処遇に連動・反映している企業は4.1%でした(図表4-6)。従業員1,001人以上の企業に限ると、基準がない企業は63.0%、処遇に連動・反映している企業は7.2%です(データ集のp.88)。「必要なスキルは把握できていない」と答えた企業は52.8%、必要なスキルと今いる人材のスキルの過不足をどちらも把握している企業は12.0%です(図表4-8)。
DX人材の評価基準(DXに取り組む企業)
必要なスキルと今いる人材のスキルの過不足を、どちらも把握している企業は12.0%(図表4-8)
出典:IPA「DX動向2026」図表4-6・4-8、データ集p.88(従業員1,001人以上)
そこで当社は、重要度の定義に書かれた言葉を「何を見れば確かめられるか」に置き換えて、測り方を決めることを勧めています。次の図はその置き換えの一例です。
重要度ごとの、確かめる材料と確かめ方(当社の解釈)
重要度 a高い実践力と専門性
確かめる材料:自分でできるうえに、他の人の成果物を直せる。手順や基準を作って人に渡せる
確かめ方の例:作った手順書や基準と、他の人の成果物へのレビュー記録
重要度 b一定の実践力と専門性
確かめる材料:自分の業務で、決まった手順に沿って成果物を出せる
確かめ方の例:業務で作った成果物と、その過程(何を確かめ、どこを直したか)
重要度 c説明できるレベルの理解
確かめる材料:仕組みと注意点を、自分の言葉で説明できる
確かめ方の例:面談での説明や、短い記述式の確認
重要度 d位置づけと関連の理解
確かめる材料:自分の業務との関係と、どこから先が誰の担当かを説明できる
確かめ方の例:業務の流れ図の上で、自分の担当範囲を示してもらう
重要度の名前はIPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」p.74の定義の要旨。確かめる材料と確かめ方の例は当社の解釈
職務ごとに当てはめると、たとえば次のようになります(いずれも当社の例示です)。
- CRM企画(コミュニケーションデザイナー):「データ・AI理解・活用」のbは、配信文面やセグメントの仮説づくりに生成AIを使い、出力の誤りや表現の問題を見つけて直した記録を、成果物と一緒に出してもらう。「AI実装・運用」のcは、配信ツールの自動化機能が何を材料に何を決めているかを説明してもらう
- 広告運用(コミュニケーションデザイナー):「データ・AI理解・活用」のbは、生成AIで作った広告文の案を、社内の表現基準で確かめてから入稿した記録を見る。「AI実装・運用」のcは、自動入札や自動配信が何を学習の材料にしているかを説明してもらう
- 分析(データサイエンスプロフェッショナル):「AI実装・運用」のaは、生成AIや分析モデルを組み込んだ集計・レポートの仕組みを作り、他の担当者が使える手順にしているかを見る。「数理統計・多変量解析・データ可視化」のaは、施策の効果を比較対象を置いて確かめる設計ができ、他の人の分析をレビューできるかを見る
- クリエイティブ(コミュニケーションデザイナー):「データ・AI理解・活用」のbは、画像や文章の生成AIを使った制作物について、権利と表現の確認を経た記録があるかを見る
DSSは、独力で業務を遂行できる水準(レベル4相当)の人材を想定しているので、若手には途中の目標を置いたほうが運用しやすくなります。たとえばaが目標の項目でも、最初の1年はbの材料がそろうことを目標にする、といった置き方です(当社の解釈)。なお、「データ・AIの戦略的活用」と「AI・データサイエンス」の学習項目例は、データサイエンティスト協会の「スキルチェックリスト」を参考にしているとDSSに書かれています(p.134)。分析の担当者の到達度を細かく見たい場合は、このチェックリストを併用する方法もあります。
全員に共通する土台は、DXリテラシー標準の生成AIの項目
ロールの表は職務による差を決めるものです。マーケ部門の全員に共通する最低線は、全てのビジネスパーソンを対象にしたDXリテラシー標準でそろえられます(p.6)。生成AIについては、2023年8月の改訂で記述が加わりました(p.145)。マーケの仕事に関わるのは主に次の項目です。
| 項目 | 生成AIに関わる記述(要旨) | マーケ部門で確かめたいこと(当社の解釈) |
|---|---|---|
| マインド・スタンス | 生成AIを、問いや仮説を立てて検証するといったビジネスのスキルと組み合わせて使う。期待しない出力、著作権などの権利侵害、情報漏洩、倫理的な問題に注意する(p.20) | 施策の仮説を自分で立ててから、AIを使っているか |
| How:ツール利用 | 文章・画像・音声を生成するツールの概要と、指示(プロンプト)の手法(p.47) | 業務に合ったツールを選び、指示の出し方を説明できるか |
| How:モラル | SNSや生成AIに入力した情報がどう使われるかを理解して入力する。結果の捏造や「恣意的な結果の抽出」はデータ利用の禁止事項(p.49) | 効果の報告で、都合のよい期間や対象だけを切り出していないか |
| How:コンプライアンス | 個人情報保護法、著作権などの権利、サービス利用規約を踏まえたデータの利用範囲、社内の利用ルールの確認(p.50) | 顧客データや他者の著作物をAIに入れる前に、ルールを確かめているか |
出典:IPA「デジタルスキル標準 ver.2.0」第Ⅱ部 DXリテラシー標準(p.20・47・49・50)。右列は当社の解釈
この層は職務で差をつける必要がなく、全員に同じ確認をかけられます。ロール別の目標は、この土台の上に重ねる形になります。
育成計画に落とすときの順番
最後に、この記事の表を育成計画に使う順番をまとめます(当社が勧める進め方です)。DSS自身も、スキル標準から戦略を描いたり、スキルをやみくもに身につけたりすればDXが進むわけではない、と注意しています(p.53)。先に決めるのは、マーケ部門でAIを使って何を変えたいかです。
- 職務を棚卸しする:担当者ごとに、CRM企画・広告運用・分析・クリエイティブのどの仕事をどれだけ持っているかを書き出し、近いロールを1〜2個当てる。兼務は前提でよく、全てのロールを最初からそろえる必要もありません(p.8)
- 目標の水準を決める:当てたロールの重要度から、AIとデータに関わる項目を抜き出す。複数のロールを兼ねる人は、担当業務の比重が大きいほうのロールを目標にする
- 測り方を決める:重要度の定義を「確かめる材料」に置き換え、成果物、レビューの記録、本人の説明で確かめる。若手には途中の目標を置く
- 研修の題材を決める:前の節の置き換えでは、bの確認材料を自分の業務の成果物にしました。研修も自社の業務を題材にすると、終わった後の確認とつながります
- 版を記録する:DSSは2022年12月の公開以降、2023年8月、2024年7月、2026年4月に改訂されています(p.145〜146)。どの版の重要度を使ったかを育成計画に書いておくと、次の改訂のときに差分だけを見直せます
研修の費用に人材開発支援助成金を使う場合の、対象になる研修の条件と申請の順番は「生成AI研修に人材開発支援助成金を使うとき」で解説しています。
Aurant Technologiesでは、現場の実業務を題材にするAIセミナーと、役職・職種別の実務ハンズオン研修や社内の推進役の育成を含むAI活用支援で、マーケ部門の研修や推進役の育成についてのご相談をお受けしています。
AI活用支援
Claude・ChatGPT・Gemini・Copilotのどれをどの業務に使うかの見極めから、社内のAIチャット環境、権限と情報の扱いの設計、MCPやAPIでの既存システム連携、研修・伴走までを支援します。
