マーケティング部門のAI導入の進め方|企画から報告まで、工程ごとに「人が持つ判断」を先に決める

マーケティング部門にAIを入れるときは、ツールより先に、企画・制作・配信・分析・報告の工程ごとに人が持つ判断を決めます。だれがOKを出すか、AIに渡すデータ、検収の基準を、研究論文・公的調査・行政の指針・広告媒体の公式ヘルプで確かめられる範囲で分担表にし、AIを入れる順番まで整理しました。

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この記事の要点

  1. 企画・制作・配信・分析・報告の工程ごとに、人が持ったままにする判断を先に決める。決めるのは、だれがOKを出すか、AIにどのデータを渡すか、AIが出したものを何で検収するかの3つ。
  2. 工程で分けるのは、AIを使うと成果が上がる作業と、かえって誤りが増える作業が、同じ部門の仕事に混ざっているから。案出しや下書きではAIが効き、数字と聞き取りを読み合わせる提案では正答率が下がった(BCGの実験)。
  3. AIは、人が検収しやすい企画・制作から入れる。配信はすでに入札を任せている媒体のAIの設定を決め直し、分析と報告は人の作業と並走させてから任せる範囲を広げる。

工程ごとの分担:AIに任せる作業と、人が持つ判断

企画AIが案を出し、人がやる案とやらない案を決める
制作AIが下書きし、人が世に出してよいかを決める
配信AIが入札し、人が何を成果と数えるかを決める
分析AIと並走し、人が指標の定義と比べる条件を持つ
報告AIと並走し、人が結論と次の打ち手を決める

どの工程でも先に決める3つ:だれがOKを出すか・AIに渡すデータ・検収の基準

並走=AIと人が同じ作業を別々に行い、結果が一致するかを確かめる

当社の整理。根拠は、各工程の節で出典とあわせて説明しています

マーケティング部門にAIを入れるときは、ツールや施策を選ぶより先に、企画・制作・配信・分析・報告の工程ごとに、人が持ったままにする判断を決めます。決める中身は、だれがOKを出すか、AIにどのデータを渡すか、AIが出したものを何で検収するか(受け取ってよいと判断する基準)の3つです。そのうえで、人が検収しやすい工程からAIを入れます。企画の案出しと制作の下書きから始め、配信は、すでに入札を任せている広告媒体のAIの設定を決め直し、分析と報告は人の作業と並走させる期間を置いてから、任せる範囲を広げます。

工程で分けるのは、同じ部門の仕事の中に、AIを使うと成果が上がる作業と、かえって誤りが増える作業が混ざっているからです。ボストン コンサルティング グループ(BCG)のコンサルタント758人を対象にした実験では、新しい靴の案を出す、市場を顧客で切り分ける、広報文を書くといった課題で、AIを使った人はこなした課題が12.2%多く、25.1%速く終えました。一方で、売上データと社内の聞き取り記録を読み合わせ、どのブランドに力を入れるべきかを経営者に提案する課題では、正しい結論を出した人が、AIを使わない群の約84.5%に対し、AIを使った群では60%と70.6%でした(Dell’Acquaほか、Organization Science、2026年)。

この記事では、マーケティングの計測・データ整備と、生成AIの業務への組み込みを支援しているAurant Technologiesが、研究論文、公的な調査、行政の指針、広告媒体の公式ヘルプで確かめられる範囲に絞って、工程ごとの分担表と、部長が決めていく順番をまとめます。数字と仕様は、2026年9月25日に各出典で確認したものです。

施策ごとではなく、工程ごとに決める理由

大企業の導入は進んだが、手応えは効率化の先に広がっていない

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2026」(2025年度調査、957社が回答)では、言語系の生成AIを「導入済み」と答えた企業は全体で33.9%、年間売上高(単体)1兆円以上の企業(47社)に限ると85.1%でした(速報、報告書)。報告書は、売上高1兆円以上の企業では導入が一巡したとみています。ただし、これは各社のIT部門長が会社全体について答えた数字です。マーケティングの工程のどこまでAIが入っているかは、この調査からは分かりません。

効果の受け止め方は、効率化の先にあまり広がっていません。総務省の令和7年版 情報通信白書は、日本・米国・ドイツ・中国の企業に勤める人に、生成AIの活用が自社にどんな影響を与えるかを尋ねています(図表Ⅰ-1-2-16)。日本で最も多かった回答は「業務効率化や人員不足の解消につながる」(32.8%)で、この割合は米国(33.3%)やドイツ(34.3%)とほとんど変わりません。差が大きいのは、「ビジネスの拡大や新たな顧客獲得につながる」(日本22.7%、米国50.2%)と、「特に影響はない」(日本29.5%、米国3.2%)です。

生成AIの活用が自社に与える影響(企業に勤める人への調査)

「〜につながる」と答えた割合。効率化は日米でほとんど変わらず、差が大きいのはビジネスの拡大と「特に影響はない」

日本:業務効率化や人員不足の解消32.8%
米国:業務効率化や人員不足の解消33.3%
日本:ビジネスの拡大や新たな顧客獲得22.7%
米国:ビジネスの拡大や新たな顧客獲得50.2%
日本:特に影響はない29.5%
米国:特に影響はない3.2%

出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」図表Ⅰ-1-2-16

AIを施策ごと、ツールごとに足していくと、一つ一つの作業は速くなります。けれども、案を採るか、表現を出してよいか、数字を信じてよいかを、だれがどの根拠で決めるかは元の形のまま残ります。効率化から先に進みにくい理由の一つはここにある、と私たちは見ています。

案出しや下書きではAIが効き、数字と聞き取りを読み合わせる提案では外れた

冒頭のBCGの実験(学術誌Organization Scienceに2026年3月にオンライン掲載)は、758人を2つの課題群に分けています。385人は、ニッチな市場に向けた靴を企画し、市場を切り分け、発売までの計画や広報文、社員向けのメッセージまで書く18の課題に取り組みました。AIを使った人は、こなした課題の数、速さ、出来の評価のいずれでも、AIを使わない人を上回っています。

残る373人は、ある会社の売上データと社内の聞き取り記録を読み合わせ、どのブランドに力を入れるべきかを経営者に提案しました。聞き取りの中の小さな手がかりを数字と突き合わせないと正解できないように作られた課題です。正しい結論を出した人は、AIを使わない群で約84.5%、AIを使った群では60%(AIの使い方の説明を受けた群)と70.6%(説明なしの群)でした。しかも、AIを使った人の提案は、結論が合っていても間違っていても、筋道と説得力の評価が高く出ています。読んで納得できるかどうかでは、誤りは見分けられないということです。

正しい結論を出した人の割合(売上データと聞き取り記録を読み合わせて提案する課題)

もう一方の課題群(靴の企画や広報文など)では、AIを使った人はこなした課題が12.2%多く、25.1%速かった

AIを使わない群約84.5%
AIを使った群(説明なし)70.6%
AIを使った群(使い方の説明あり)60%

出典:Dell’Acquaほか(Organization Science、2026年)

マーケティング部門に置き換えると、前者は企画の案出しや制作の下書きに、後者は分析と報告に近い仕事です。

経験の浅い人ほど伸び、熟練者の品質はわずかに下がった

組織の設計に関わる結果もあります。顧客サポート担当5,172人を追った研究(Brynjolfssonほか、Quarterly Journal of Economics、2025年)では、AIの支援によって1時間あたりに解決した件数が平均15%増え、経験の浅い人やスキルの低い人では30%増えました。AIを使った入社2か月の担当者は、AIを使っていない入社6か月超の担当者と同じ水準でした。反対に、経験とスキルが最も高い人たちは、速さがわずかに上がったものの、応対の品質はわずかに下がっています。このAIは成績上位の担当者の応対を学んでおり、著者らは、上位者のやり方が経験の浅い人に伝わったと考えると結果と整合する、と述べています。

顧客サポートとマーケティングでは仕事の中身が違うので、数字をそのまま当てはめることはできません。それでも、2つの研究を並べると、工程ごとに決めておくべきことが見えてきます。AIに下書きを任せると、経験の浅い担当者が出すものの水準はそろってきます。そのぶん、品質を決めるのはOKを出す人の目になります。また、熟練者の判断の基準(採ってきた案、出さなかった表現、数字の定義)を書き出してAIに渡しておけば、AIの下書きは熟練者の基準に近づくはずです。この最後の点は研究の結論ではなく、研究から私たちが引き出した運用の考え方です。

以下では、AIとの分担を次の3つで呼び分けます。

  • 任せる:AIが作り、人が確かめて使う
  • 並走:AIと人が同じ作業を別々に行い、結果が一致するかを確かめる
  • 任せない:決めるのは人で、AIは材料を出すところまで

工程ごとの分担表(OKを出す人・AIに渡すデータ・検収の基準)

5つの工程について、AIに任せる作業と、人が持ったままにする判断を並べました。「OKを出す人」は役割の例なので、自社の組織の呼び方に置き換えてください。「検収の基準」は、AIが出したものを受け取る前に、OKを出す人が自分で確かめる点です。

工程ごとの分担表

「任せる」はAIが作り、人が確かめて使う。「並走」はAIと人が同じ作業を別々に行い、結果が一致するかを確かめる

任せる企画

人が持つ判断:どの案をやり、どの案をやらないか。狙う顧客と予算の配分

OKを出す人:施策の責任者

AIに渡すデータ:公開情報、自社の方針、過去の施策結果の集計値。顧客の個人データは使わない

検収の基準:数字と事実に出典があるか。採らなかった案と理由を残したか

任せる制作

人が持つ判断:その表現を世に出してよいか(表示の根拠、権利、ブランド)

OKを出す人:表示等管理担当者とブランドの責任者

AIに渡すデータ:確定した商品仕様、表示の根拠資料、使わない表現の一覧。他社の作品や作品名は渡さない

検収の基準:根拠資料にない効能や数字がないか。既存の作品に似ていないか。指示文を残したか

任せる配信

人が持つ判断:何を成果と数えるか、予算と目標値、評価する時期、媒体に言わせない表現

OKを出す人:広告運用の責任者

AIに渡すデータ:コンバージョンの定義と価値、予算、除外する語句と避ける表現、正確に書かれたランディングページ

検収の基準:成果が定義どおりに数えられているか。学習期間の後に評価したか。生成された広告文を見たか

並走分析

人が持つ判断:指標の定義と比べる条件(期間、対象、税込か税抜か)、数字の読み方

OKを出す人:指標の定義を持つ分析担当

AIに渡すデータ:定義を書いた1枚を添えた集計データ

検収の基準:別の経路で出し直した数字と一致するか。集計や予測の対象から外れた人がいないか

並走報告

人が持つ判断:結論と次の打ち手、言い切れる範囲

OKを出す人:部長

AIに渡すデータ:分析の検収を通った数字だけ

検収の基準:結論の数字を元までたどれるか。未確認の点を未確認と書いたか。OKの理由を自分で説明できるか

当社の整理。「OKを出す人」は役割の例

分担表を表で見る(AIに任せる作業を含む)
工程AIに任せる作業人が持つ判断OKを出す人(例)AIに渡すデータ検収の基準
企画公開資料の要約、案を数多く出す、切り口や顧客像のたたき台(任せる)どの案をやり、どの案をやらないか。狙う顧客と予算の配分施策の責任者公開情報、自社の方針、過去の施策結果の集計値。顧客の個人データは使わない数字と事実に出典があるか。採らなかった案と理由を残したか
制作コピー・構成・画像の下書き、パターン違いの展開(任せる)その表現を世に出してよいか(表示の根拠、権利、ブランド)表示等管理担当者とブランドの責任者確定した商品仕様、表示の根拠資料、使わない表現の一覧。他社の作品や作品名は渡さない根拠資料にない効能や数字がないか。既存の作品に似ていないか。指示文を残したか
配信入札、配信先の拡張、設定していれば広告文の生成(任せる)何を成果と数えるか、予算と目標値、評価する時期、媒体に言わせない表現広告運用の責任者コンバージョンの定義と価値、予算、除外する語句と避ける表現、正確に書かれたランディングページ成果が定義どおりに数えられているか。学習期間の後に評価したか。生成された広告文を見たか
分析集計、グラフ化、いつもと違う動きの検出、仮説の列挙(並走)指標の定義と比べる条件(期間、対象、税込か税抜か)、数字の読み方指標の定義を持つ分析担当定義を書いた1枚を添えた集計データ別の経路で出し直した数字と一致するか。集計や予測の対象から外れた人がいないか
報告要約、資料の下書き、想定される質問(並走)結論と次の打ち手、言い切れる範囲部長分析の検収を通った数字だけ結論の数字を元までたどれるか。未確認の点を未確認と書いたか。OKの理由を自分で説明できるか

分担表の根拠は、次の節から工程ごとに出典とあわせて説明します。

企画と制作:AIには数を出させ、採否と公開は人が決める

企画:案を出すのはAI、やる・やらないを決めるのは人

企画の工程でAIに任せやすいのは、公開資料の要約と、案を数多く出すことです。BCGの実験でも、商品の案出しや市場の切り分けは、AIを使うと成果が上がった側の課題でした。人が持つのは、出てきた案のどれをやり、どれをやらないかの判断です。予算の配分や自社の計画との整合は、AIに渡した資料だけでは決められないからです。

検収では、案の良し悪しより先に、案の中の数字と事実の出どころを確かめます。生成AIの応答には不正確な内容が含まれることがあり、個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起等もこの点に触れています。市場規模や競合の動きのような数字は、出典までたどれたものだけを企画書に残します。採らなかった案とその理由を短く書き残しておくと、次の企画でAIに渡す材料になります。

制作:下書きはAI、世に出してよいかは表示の担当者が決める

制作では、コピー、構成、画像の下書きと、パターン違いの展開をAIに任せます。広報文の作成は、BCGの実験でもAIで成果が上がった課題の一つでした。人が持つのは、その表現を世に出してよいかの判断です。AI事業者ガイドライン(第1.2版)も、精巧な生成物が誤解を招いたり、他者の知的財産権を侵害したりする可能性に留意し、生成物の利用に際して人の判断を挟むなどの対策をとるとしています。

一般消費者向けの表示なら、この判断にはすでに決まった持ち主がいます。景品表示法は事業者に表示を管理するための措置を義務付けており、消費者庁の指針は、表示を管理する担当者か担当部門(表示等管理担当者)をあらかじめ決めておくことを求めています。その役割は、表示の根拠となる情報を自分で確かめ、表示を作る人が適切に作っているかを監督することです(消費者庁「指針に関するQ&A」)。下書きをAIが作るようになっても、この確認の流れは変えません。AIの下書きは、表示等管理担当者の確認の手前に入るものとして扱います。

権利の面では、文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月)が、AIを業務で使う側の取り組みとして、生成物を使う前に既存の著作物と似ていないかをインターネット検索などで確かめること、生成に使った指示文(プロンプト)などを後から確かめられるように残すことを挙げています。指示文に既存の作品そのものや作品名、キャラクター名を入れると、その作品を知っていたと推認されやすくなる、とも説明しています。分担表で、他社の作品や作品名をAIに渡さないとしたのはこのためです。

制作を広告会社に委託している場合

制作を広告代理店や制作会社に出していても、判断の持ち主は自社に残ります。消費者庁のQ&Aは、広告代理店や広告制作会社は、表示の制作に関わっていても、自ら商品やサービスを供給していない限り景品表示法の適用を受けないと説明しています。著作権についても、文化庁の同じ資料は、AI生成物による侵害の責任は原則として、生成した者か、AI生成物を利用した者が負うと整理しています。委託先がAIを使うなら、どの工程で使うか、何を入力してよいか、指示文を残すか、生成した表現をだれが確認するかを、発注の時点で取り決めておきます。

配信:入札は媒体のAIに任せ、成果の定義と言わせない表現は人が決める

何を成果として数えるかは人が決める

配信の工程では、入札がすでにAIの仕事になっています。Google 広告のスマート自動入札は、Google AIを使ってオークションごとにコンバージョン数やコンバージョン値を最適化する入札戦略です(スマート自動入札について)。ここで人が持つのは、AIが何を目指して最適化するかの設定です。

Google 広告では、入札の最適化に使うコンバージョン アクションを「メイン」、観察だけに使うものを「サブ」として分けます。Googleは、この設定を誤ると自動入札の最適化がうまく働かなくなるおそれがあると注意しています。また、自動入札には標準で7〜14日の学習期間があり、その間に予算や目標値、コンバージョン目標を頻繁に変えると、学習がやり直しになることがあります(メインとサブのコンバージョン アクションについて)。何を成果として数えるか、目標値をいくらにするか、いつ評価するかは、運用の責任者が先に決めて書いておきます。広告運用を代理店に任せている場合も、この3つは自社で決めて渡すものです。メールやLINEの配信で、送る相手や時刻の選び方をAIに任せる場合も、何を成果として数え、いつ評価するかは同じように人が決めます。

自動入札で人が決めて渡すものと、評価の時期(Google 広告の場合)

人が決めて渡す何を成果と数えるか(メインのコンバージョン)、予算と目標値、評価する時期
媒体のAIが入札を学習する学習期間は標準で7〜14日
学習期間の後に評価する成果が定義どおりに数えられているかも確かめる

学習期間中に予算や目標値、コンバージョン目標を頻繁に変えると、学習がやり直しになることがある

出典:Google 広告ヘルプ「メインとサブのコンバージョン アクションについて」

媒体が広告文を作る設定を使うとき

配信の工程で、表現そのものが作られることもあります。Google 広告の「テキストのカスタマイズ」(以前の名称は自動作成アセット)は、ランディングページや既存の広告、キーワードをもとに、生成AIなども使って広告見出しと説明文を作り、広告主が入力した文面と組み合わせて配信する設定です(検索キャンペーンのテキストのカスタマイズについて)。Googleは、2026年9月から、自動作成アセットを使っている検索キャンペーンを「AI 最大化設定(AI Max)」へ自動で移し、テキストのカスタマイズを有効にした状態にすると案内しています。移行の前にはアカウントに通知が届くとしています(Googleの公式ブログ、2026年4月15日)。

この設定を使うなら、制作の工程で持っていた「出してよい表現か」の判断を、配信にも延ばします。Googleは、生成の元になるウェブサイトの内容が正確で誤解を招かないことを確かめるよう求め、生成された広告文はアセットの詳細レポートで確かめられると案内しています。ベータ版の「テキストに関するガイドライン」では、生成に使わせない語句(キャンペーンごとに最大25個)と、避ける表現の指定(最大40個)を入れられます(テキストに関するガイドライン)。語句の除外は完全一致で働き、価格を含む文面は語句の除外だけでは止まらないため、価格に触れさせたくない場合は表現の指定のほうに書きます。制作で作った「使わない表現の一覧」は、ここにも渡すデータになります。

分析と報告:AIは集計と下書きまで。結論は並走で確かめてから

AIを入れた効果を部長が報告するときの、使う前に測る数字と、自己申告アンケートの偏りの見方は「生成AIの導入効果の測り方」で解説しています。

分析:指標の定義と比べる条件は人が持つ

分析の工程は、BCGの実験でAIを使うと正答率が下がった課題に最も近い仕事です。売上や広告の数字に、営業や顧客の声を重ねて、どこに力を入れるかを決めるからです。集計、グラフ化、いつもと違う動きの検出、仮説を並べることはAIに任せられます。ただし、しばらくは人も同じ数字を別の経路で出し、結果が一致するかを確かめる並走の形にします。定型のレポートを自動で作るところから早めに始めるのはかまいませんが、それも並走として扱います。

分析と報告の並走:AIの数字を、人が出し直した数字と突き合わせる

AIが集計・下書き集計、グラフ化、いつもと違う動きの検出、仮説の列挙
人も別の経路で出す期間の区切り方、対象、税込か税抜かの定義をそろえる
一致を確かめるAIの数字が、どの範囲の人についての数字かも確かめる
結論にOKを出すなぜその結論でよいのかを、自分の言葉で説明できてから

AIを使った提案は、結論が間違っていても筋道と説得力が高く評価された。読んで納得できるかでは、誤りは見分けられない

当社の整理。根拠はDell’Acquaほか(2026年)とAI事業者ガイドライン(第1.2版)

人が持つのは、指標の定義と、比べる条件です。同じ「売上」でも、期間の区切り方(暦月か、直近30日か)、対象(全顧客か、新規の顧客だけか)、税込か税抜かが違えば、比べた結果は変わります。AIに渡すデータには、この定義を書いた1枚を添えます。顧客データを渡す場合は、個人情報保護委員会の注意喚起にあるとおり、利用目的の範囲内か、入力したデータがサービス側で学習などに使われないかを先に確かめます。

AIの予測にも、対象の範囲があります。たとえばGoogle アナリティクス 4の予測指標(購入の可能性など)は、過去28日間のうち7日間で、予測の条件に当たったリピーターと当たらなかったリピーターがそれぞれ1,000人以上いないと使えません。予測を計算できるだけのデータがないユーザーは、データ探索で別の行に分かれて表示されます([GA4] 予測指標)。AIが出した数字が、どの範囲の人についての数字なのかを確かめることも、検収に含めます。

報告:結論にOKを出す前に、承認する理由を自分で持つ

報告の下書きや要約は、AIに作らせてかまいません。ただ、BCGの実験では、AIを使った提案は、結論が間違っているときでも筋道と説得力が高く評価されていました。報告の検収を「読んで筋が通っているか」で行うと、この誤りを通してしまいます。

AI事業者ガイドライン(第1.2版、2026年3月)は、自動化されたシステムを過度に信頼してしまう自動化バイアスへの対策として、AIの評価や判断を人が承認するときは、承認する理由を人が自分で考えてから承認すべきだという提案を紹介しています。報告でいえば、結論に使う数字が分析の検収を通っているか、言い切れない点を未確認と書いているかを部長が自分で確かめ、なぜその結論でよいのかを自分の言葉で説明できてからOKを出す、ということです。

部長が決めていく順番

分担表は、次の順に埋めていきます。ツールの選定は、この表ができてからで間に合います。

  1. 工程ごとに、いまだれが何を決めているかを書き出します。代理店や制作会社に出している作業も含めます。
  2. 工程ごとに、人が持ったままにする判断と、OKを出す人を決めます。制作なら表示等管理担当者、配信なら運用の責任者、分析なら指標の定義を持つ人、報告なら部長のように、すでにある役割に結びつけます。
  3. AIに渡すデータと、渡さないデータを決めます。顧客の個人データ、他社の作品や作品名、社外秘の資料の扱いは、ここで線を引きます。
  4. 工程ごとの検収の基準を書きます。分担表の「検収の基準」の列です。
  5. AIを入れる順番を決めます(下の図)。

AIを入れる順番と、各段階で人が持つ判断

段階1 すぐに始める

企画・制作

  • AIが出した案や下書きは、人が読めば確かめられる。
  • 採るか、世に出すかの判断を人が持ったまま始められる。

段階2 設定を決め直す

配信

  • 入札はすでに媒体のAIの仕事。
  • 成果の定義、評価の時期、言わせない表現を人が決めて渡す。

段階3 並走してから広げる

分析・報告

  • 人も別の経路で数字を出し、一致を確かめてから任せる範囲を広げる。
  • 結論は最後まで人が持つ。

順番を分けるのは、検収のしやすさが工程によって違うからです。企画と制作は、出てきたものを読めば確かめられます。分析と報告は、同じ数字を出し直さないと確かめられず、しかもAIの出したものは間違っていても説得力があります。検収に手間のかかる工程ほど、並走の期間を長めに取ります。

AIエージェントで工程をつなぐなら、分担表が承認の場所になる

JUASの同じ調査では、AIエージェントの導入を「検討中」と答えた企業が31.2%で、検討中の割合としては、調べたテクノロジーの中で最も高くなっています(速報)。AI事業者ガイドラインは、AIエージェントを、特定の目標を達成するために環境を感知して自律的に行動するAIシステムと定義しています。マーケティングでいえば、広告文を作り、配信を設定し、結果を読んで次の案を出すところまでを一続きで動かす使い方です。

工程をまたいで自動で動くようになると、人が判断していた場所は、あらかじめ決めておかない限り通り過ぎられてしまいます。分担表の「人が持つ判断」の列は、エージェントが止まって人の承認を待つ場所の一覧として、そのまま使えます。「OKを出す人」は承認者、「AIに渡すデータ」はエージェントに与える権限と参照先、「検収の基準」は承認の前に見る項目です。エージェントの話が出る前に表を作っておけば、どこで止めるかの議論を一からやり直さずに済みます。

分担表の列を、AIエージェントの設計に読み替える

人が持つ判断

→ エージェントが止まって、人の承認を待つ場所

OKを出す人

→ 承認者

AIに渡すデータ

→ エージェントに与える権限と参照先

検収の基準

→ 承認の前に見る項目

当社の整理

表を作ってみると、分析と報告の検収は、コンバージョンの定義や計測が正しいことを前提にしていると分かります。Aurant Technologiesでは、計測の設計から指標の定義、ダッシュボードまでをアクセス解析・マーケティングデータ支援で、工程ごとにAIに任せる範囲の切り分けや、AIに入れてよい情報のルールづくり、現場の研修をAI活用支援で、それぞれお手伝いしています。

よくある質問

マーケティング部門でAIを最初に使うなら、どの工程からがよいですか?
企画の案出しと制作の下書きからです。出てきたものを人が読んで確かめられ、採るかどうか、世に出すかどうかの判断を人が持ったまま始められます。BCGのコンサルタント758人を対象にした実験(論文)でも、商品の案出しや広報文の作成は、AIを使うと成果が上がった課題でした。
広告の自動入札を使っていれば、配信はAIに任せていることになりますか?
入札単価はAIが決めていますが、何を成果として数えるか(メインのコンバージョン)、予算と目標値、評価する時期は人が決める設定です。Google 広告の自動入札には標準で7〜14日の学習期間があり、その間に予算や目標値、コンバージョン目標を頻繁に変えると、学習がやり直しになることがあります(Google 広告ヘルプ)。
分析や報告をAIに任せてはいけないのですか?
集計や資料の下書きは任せてかまいません。ただし結論は、同じ数字を別の経路で出し直して一致することを確かめてから出します。BCGの実験(論文)では、数字と聞き取りを読み合わせて提案する課題で、正しい結論を出した人が、AIを使わない群の約84.5%に対し、AIを使った群では60%と70.6%でした。

AI活用支援

Claude・ChatGPT・Gemini・Copilotのどれをどの業務に使うかの見極めから、社内のAIチャット環境、権限と情報の扱いの設計、MCPやAPIでの既存システム連携、研修・伴走までを支援します。

AT
aurant technologies 編集

上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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