公営交通の経営と会計を見える化する — 市営バス・地下鉄の赤字構造、一般会計繰入、上下分離をどう読むか

市営バス・地下鉄など公営交通の経営は、独立採算と生活路線の維持という二つの要請の間で揺れる。本記事は交通事業に絞り、運輸収益と費用の構造、一般会計繰入金の意味、経営戦略・経営健全化、上下分離や事業形態の見直し、そして経営指標をBIで可視化する実務までを、総務省・国土交通省の一次資料に基づいて整理する。

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市営バスや地下鉄、路面電車といった公営交通は、地域の移動を支える社会基盤であると同時に、地方公営企業として独立採算で経営される事業でもある。この二つの性格は、平時には両立しているように見えても、人口減少や燃料費の高騰、運転士不足といった圧力がかかると、たちまち衝突する。乗る人が減っても路線は止められない。費用は上がっても運賃はそう簡単には変えられない。その差は、最終的に一般会計からの繰入や経営健全化の議論となって表面化する。

本記事は、水道・病院を含む地方公営企業全体の概況や、全事業に共通する経営戦略の話ではなく、交通事業に固有の経営と会計の見え方に絞って整理する。3業種を横断した現状把握は地方公営企業(水道・病院・交通)会計の今に、全事業共通の経営戦略の読み方は公営企業の経営戦略に、それぞれ譲る。ここで扱うのは、不採算路線をどう抱え、生活交通をどう維持し、繰入金をどう説明し、事業形態の見直しをどう判断するか、という交通ならではの論点である。

独立採算が成り立ちにくい — 交通事業の費用構造

地方公営企業は、料金収入をもって経費に充てる独立採算を経営の基本原則とする。総務省も、繰出金については必要性・将来見込み・合理化の考え方を明確にしたうえで積算根拠を示すよう求めている(総務省「公営企業の経営」)。しかし交通事業では、この原則が構造的に成り立ちにくい。

理由は費用の硬直性にある。バス事業であれば人件費と燃料費、車両の維持費が費用の大半を占め、運行ダイヤを維持する限りこれらは乗客数とほぼ無関係に発生する。地下鉄や路面電車であれば、線路・電気・車両といった設備への減価償却と更新投資が長期にわたって重くのしかかる。つまり費用の多くが固定費的に振る舞うため、乗客が一定数を割り込むと、収益が費用を下回る局面に容易に入り込む。

収益側にも制約がある。運賃は公共料金として議会の議決や住民への説明を要し、費用の上昇にあわせて機動的に改定することが難しい。需要を喚起しようと増便すれば費用が先に増え、減便すれば利便性が下がってさらに乗客が逃げる。この「ジレンマ」こそが、市営バスの赤字を語るときに本当に見るべき構造である。単年度の赤字額だけを見て是非を論じるのではなく、収益と費用のどこが動かせてどこが動かせないのかを分解することが出発点になる。

一般会計繰入金は「赤字補填」ではない

公営交通の決算を見ると、運輸収益だけでは費用を賄えず、一般会計からの繰入金が計上されているのが通例である。これをもって「税金で赤字を埋めている」と短絡されがちだが、繰入には性格の異なるものが混在している点を押さえたい。

繰入金には、国が定める繰出基準に沿った、本来一般会計が負担すべき経費に対応する部分がある。たとえば、本来は政策判断として維持している不採算路線や、公共政策上の割引、災害対応に備えた設備など、独立採算になじまない経費がこれにあたる。一方で、基準を超えて経営の穴を埋めるための繰入も存在しうる。両者は意味がまったく違う。前者は政策コストの可視化であり、後者は経営課題の先送りになりうる。

したがって、繰入金を議会や住民に説明するうえで最も重要なのは、「どの繰入が、どの政策目的に、いくら充てられているか」を切り分けて示すことである。総務省も、繰出金を受けて経営する事業では、繰出元である財政部門が経営状況や健全化の検討に参画することが効果的だとしている。会計の入口で資金の出どころと使いみちをひも付ける発想は、ふるさと納税など他の歳入の使途管理と通じるものがあり、自治体財政全体での「使途・予実・会計の見える化」という同じ課題の交通版だと捉えるとわかりやすい。

経営戦略と経営健全化 — 何を約束する計画か

総務省は各公営企業に対し、中長期の経営の基本計画である経営戦略の策定・改定を要請している。経営戦略は、施設更新などの投資計画と、それを支える財源の見通しである財政計画を突き合わせ、将来の収支を見通す計画である(経営戦略策定・改定マニュアル)。交通事業の場合、ここに「どの路線を、どのような形態で、いつまで維持するのか」という事業の根幹に関わる選択が織り込まれることになる。

計画策定で陥りやすいのは、収支見通しを楽観に寄せ、繰入金で帳尻を合わせる形にしてしまうことだ。それでは計画が実績から乖離したときに修正が効かない。むしろ重要なのは、需要の減少や費用の上昇という不確実性をシナリオとして織り込み、繰入の前提や運賃・運行水準の見直し条件をあらかじめ計画の中に書き込んでおくことである。経営戦略を「一度作って終わり」にせず、実績との差をどう取り込んで改定するかという観点は、交通に限らず公営企業全体の課題でもある。

経営状況が一定の基準を超えて悪化した場合には、地方公共団体財政健全化法に基づき、公営企業ごとに資金不足比率が問われる。経営健全化は、決算統計や経営比較分析表といった全国共通の指標で自らの位置を確認することから始まる(総務省「地方公営企業等決算」)。交通事業の場合、経常収支比率や、運賃水準が費用に見合っているかを示す指標を、単年度ではなく数年の推移で読み、全国の同種事業と並べて評価することが欠かせない。

事業形態の見直しと上下分離という選択肢

赤字構造が容易に反転しないとき、運行の効率化や運賃改定だけでは対応しきれない局面がある。そこで議論されるのが、事業形態そのものの見直しである。直営での運行を続けるのか、民間への運行委託や移譲を進めるのか、あるいは複数の主体で役割を分け合うのか。これらは経営の枠組みを変える選択であり、会計上の見え方も大きく変わる。

その代表的な手法の一つが上下分離である。線路や車両、停留所といったインフラの保有・維持を行政や別主体が担い、その上での運行を交通事業者が担当する、というように、設備(下)と運行(上)の責任を分ける考え方だ。重い設備投資の負担を運行収支から切り離すことで、運行を継続しやすくする狙いがある。鉄軌道だけでなく、地域の交通を維持するための枠組みとして広く検討されている。

国土交通省は、こうした地域公共交通の維持・再構築を「リ・デザイン」と呼び、官民や交通事業者間、他分野との連携・協働を軸に取り組みを進めている(国土交通省「地域公共交通のリ・デザイン」)。令和5年の地域公共交通活性化再生法の改正では、地域の関係者の連携と協働が目的規定に加えられた。生活交通の確保・維持に対しては、地域公共交通確保維持改善事業などの国の支援の枠組みもある(国土交通省「地域公共交通確保維持改善事業」)。公営交通の経営を考えるうえでは、自社単独の収支だけでなく、こうした地域全体の交通政策の中での位置づけを併せて見る必要がある。

経営指標をBIで可視化する — 説明と意思決定のために

ここまで整理してきた論点は、いずれも「数字をどう読み、どう説明するか」に行き着く。不採算路線をどれだけ抱えているのか、繰入金のうち政策コストはどれだけか、経営健全化の指標は全国比較でどの位置にあるのか。これらが決算の数字の中に埋もれていると、議会や住民への説明は決算期にまとめて行う事後報告になりがちで、意思決定も後手に回る。

そこで有効なのが、会計データを経営指標の形に整え、ダッシュボードとして可視化する仕組みである。路線別・系統別の収支、運輸収益と費用項目の推移、繰入金の目的別内訳、経常収支比率などの指標を、月次や四半期で更新し、関係者が同じ画面で見られる状態にする。決算を待たずに乖離の兆候をつかめれば、ダイヤや運賃、事業形態の見直しといった重い判断も、根拠を持って前倒しで議論できる。

この発想は交通に限らない。病院であれば診療科別の収支、水道であれば更新投資と料金回収の関係というように、公営企業はそれぞれ固有の指標を持つ(病院に固有の論点は公立病院の経営と会計で扱っている)。自治体経営全体としての見える化の考え方は自治体DXの全体像も参照されたい。重要なのは、会計システムの中に閉じたデータを、経営判断と住民説明に使える形へと橋渡しすることである。Aurant Technologies は、公営企業や自治体の会計データを予実管理のBIダッシュボードとして可視化し、経営の議論を決算期の事後報告から日常の対話へと移す支援を行っている。

まとめ — 赤字額ではなく構造を見る

公営交通の経営を考えるとき、出発点は赤字額の大小ではなく、収益と費用の構造、繰入金の性格、そして地域交通政策の中での位置づけを切り分けて読むことにある。不採算路線や生活交通の維持は、独立採算とは別の政策判断であり、その判断にかかるコストを可視化して説明することと、経営努力で改善すべき部分を切り分けて取り組むことは、矛盾しない。経営戦略でその両方を計画に織り込み、経営健全化の指標で立ち位置を確認し、必要であれば上下分離や事業形態の見直しという選択肢を地域全体の枠組みの中で検討する。これらを支えるのが、会計データを経営指標として可視化する基盤である。数字を「報告するもの」から「一緒に見て判断するもの」へと変えることが、公営交通の経営を持続可能にする第一歩になる。

会計・経理DX

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AT
aurant technologies 編集

上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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