決算統計(地方財政状況調査)の作成を効率化する:突合・組替の負担をBIと自動取り込みで減らす実務

毎年の決算統計(地方財政状況調査)は、財務会計システムの決算データを手作業で組み替え・突合する負担の大きい業務です。第7表〜第24表の作業実態を踏まえ、自動取り込みとBI化で財政課の負荷を減らす実務的な手順を、総務省の一次資料に基づいて整理します。

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毎年の出納整理期間が明けると、財政課には決算統計(地方財政状況調査)の作成という重い業務が待っています。財務会計システムから科目別の決算データを抽出し、目的別・性質別に組み替え、表と表の整合を取り、端数を合わせる。多くの自治体でこの工程はExcelを介した手作業に依存しており、ミスが起きやすく、特定の職員に負荷が集中する典型的なボトルネックになっています。本記事は、この「作成実務そのもの」をどう軽くするかに焦点を当て、財務会計システムからの自動取り込みとBI(ビジネスインテリジェンス)による突合チェックの実務手順を、総務省など一次資料に基づいて整理します。

なお、当サイトには公会計(統一的な基準による財務書類)を「作ったのに使われていない」構造に踏み込んだ記事があります。決算統計の数値を分析・活用してマネジメントにつなげる論点はそちらが詳しいので、活用フェーズに関心がある方は公会計データがBIで使われない構造に関する記事を参照してください。本記事はその前段、決算統計を「作る」工程の負担軽減に絞ります。

決算統計(地方財政状況調査)とは何か、なぜ負担が大きいのか

地方財政状況調査は、都道府県・市町村など各地方公共団体の決算を統一様式で把握する基幹統計調査です。予算の執行を通じて団体がどのように行政運営を行ったかを見る基礎資料であり、決算カードや財政状況資料集、各種財政指標(実質公債費比率など)の算定もこのデータを土台にしています。現場では「決算統計」と呼ばれることが多く、毎年度、膨大な数の調査表を期日までに仕上げる必要があります。

負担の根っこにあるのは、財務会計システムが日常的に出力できる情報と、調査で求められる情報の「粒度のずれ」です。地方財務協会の実務検討会(総務省協力)が令和7年3月にまとめた報告書では、財務会計システムが出力可能な情報よりも決算統計で求められる情報の粒度のほうが細かく、システムの仕様を相当作り込まなければ手作業を前提とした対応にならざるを得ない、と指摘されています。日々の会計処理は予算科目(款・項・目・節)で動いている一方、決算統計は同じ歳出を目的別・性質別といった別の切り口で捉え直すため、両者をつなぐ「組み替え」が毎年発生します。

どこに作業が滞留するのか:第7表〜第24表の実態

調査研究報告は、具体的にどの調査表で工数が膨らむかにも踏み込んでいます。要点は次の二つです。

  • 目的別・性質別の分類作業(第7表〜第13表):歳出の目的別・性質別内訳などを扱うこれらの表について、財務会計システムのデータを1件ずつ手作業で分類している団体があり、非常に多くの手作業工数が必要になっている、とされます。1件ずつの仕分けは件数に比例して時間が伸び、職員の経験や判断に依存しやすい部分です。
  • 表間突合と端数処理(第21表〜第24表):第7表〜第13表との整合(表間突合)が必要なこれらの表では、各表との整合を図るための端数処理に時間を要している、と指摘されています。一つの数字を直すと別表の合計が合わなくなる、という連鎖が突合作業を長引かせます。

都道府県や政令指定都市では、部局ごとに回答内容をとりまとめ、Excelで集計しているケースが多く、財政担当課はその正誤チェックや各部局への問い合わせ対応に時間を取られます。職員がシステムから抽出した科目別決算データをExcelに落とし込み、膨大な時間と労力をかけて手作業で組み替える――このプロセス自体が、ミスが発生しやすく業務負荷が集中する最大のボトルネックの一つだと報告書は述べています。

現状の仕組みと、効率化の現実的な落としどころ

現在の標準的な流れは、(1) 財務会計システムから決算データを出力し、(2) 調査様式に整合するようデータを調整し、(3) 調整後データを財務会計システムに取り込んで各表を作成する、というものです。つまりデータを取り込めば各表が自動作成される仕組み自体は存在しており、ボトルネックは「(2) 調整作業」に集中しています。効率化の本丸は新しい大掛かりなシステムの導入ではなく、この調整・組み替え・突合をどれだけ自動化・省力化できるかにあります。

政策面でも追い風があります。自治体の基幹業務システムは標準準拠システムへの移行が進められており、人的・財政的負担の軽減が目的の一つに掲げられています。標準化でデータの持ち方がそろえば、決算統計向けの組み替えロジックも団体ごとの作り込みから共通化しやすくなります。あわせて総務省はデジタル庁と連携し、地方財政状況調査を基に歳入歳出の内訳や財政指標の経年変化、団体間比較を見られるダッシュボードを公開しており、「作ったデータを比較・可視化する」基盤は国の側でも整いつつあります。作成側の自治体も、同じ発想で内部の作成工程に可視化と自動チェックを取り込む余地があります。

自動取り込み:手作業の組み替えを「ルール」に置き換える

効率化の第一歩は、職員の頭の中にある分類ルールを、繰り返し使える形に外出しすることです。具体的には次の順序で進めます。

  • 科目と調査区分の対応表をマスタ化する:予算科目(款・項・目・節)と、目的別・性質別など決算統計の区分との対応を、Excelやデータベース上のマスタとして整備します。毎年ゼロから判断するのではなく、前年のマスタを起点に改正分だけ更新する運用にすれば、属人化が大きく減ります。
  • 1件ずつの仕分けを一括変換に変える:第7表〜第13表で問題になる「1件ずつの手作業分類」は、対応表を使った一括マッピングに置き換えられます。マスタに載っていない科目だけを例外として人が確認する「例外管理」に切り替えれば、確認対象が大幅に絞り込まれます。
  • 抽出フォーマットを固定する:財務会計システムからの出力レイアウト(列構成・コード体系)を毎年固定し、取り込み側の処理を使い回せるようにします。出力仕様が安定すれば、組み替えから各表作成までを定型処理として再実行でき、年度替わりの立ち上げ時間が縮みます。

ここで重要なのは、財務会計システムを置き換える必要はないという点です。日々の会計は現行システムのまま、その出力データを受け取って組み替え・チェックする層を上に重ねる発想が、移行リスクを抑えつつ効果を出しやすい構成です。

BIによる突合チェック:合計差・端数を自動で炙り出す

表間突合と端数処理は、人が目視で合計を追うほどミスが入り込みます。ここはBIや表計算の自動チェックが効く領域です。

  • 表間の合計一致を自動検証する:第7表〜第13表の集計値と、それと整合すべき第21表〜第24表の対応値を突き合わせ、差額が出た箇所だけを色付けや一覧で示します。「どこが合っていないか」を探す時間がほぼゼロになり、原因の特定に集中できます。
  • 端数・符号・桁の異常を検知する:合計が単位未満でずれる端数、想定外のマイナス、桁誤りなどをルールで検知します。端数処理は最後にまとめて当てるのではなく、チェックを回しながら早期に潰すほうが手戻りが減ります。
  • 前年比の異常値を可視化する:科目別・区分別に前年度と比較し、極端な増減があれば注意喚起します。組み替えミスは前年比の不自然な振れとして表面化することが多く、内容の妥当性チェックと統計表の整合チェックを同じ画面で行えます。
  • 査読・問い合わせの記録を残す:財政担当課が各部局に投げた確認事項とその回答を、表計算やBIのコメントとして履歴化します。翌年度の担当者が経緯をたどれるようになり、引き継ぎ時の知識喪失を防げます。

こうした突合・異常検知は、財政の健全性を測る各指標の精度にも直結します。実質公債費比率など健全化判断比率は決算統計の数値を土台に算定されるため、入口の作成精度が上がれば指標の信頼性も高まります。健全化判断比率そのものの考え方は地方財政健全化法の4指標に関する記事で詳しく扱っています。

「作る」から「使う」へ:可視化を作成工程の副産物にする

自動取り込みと自動チェックの仕組みを整えると、副産物として分析用のきれいなデータが手元に残ります。決算統計を仕上げるためにそろえたデータは、目的別・性質別の歳出構造や経年変化をそのまま可視化できる素材でもあります。作成のためだけに作って眠らせるのではなく、議会説明や住民向けの財政公表、団体間比較に転用すれば、同じ労力から得られる成果が増えます。

この「作ったデータを意思決定に使う」段階の論点――公会計が整備されても活用が進まない構造や、BIで何を見るべきか――は、前述の公会計活用の記事に整理しています。本記事の作成効率化と合わせて読むと、入口(作る)から出口(使う)までが一本でつながります。ふるさと納税の歳入・充当事業を同じ発想で可視化する具体例はふるさと納税データダッシュボードで確認できます。

進め方の現実:小さく始めて毎年の定型に育てる

一度に全表を自動化しようとすると頓挫しがちです。負荷が集中する第7表〜第13表の組み替えと、第21表〜第24表の表間突合という、効果の大きい二つの工程から着手するのが現実的です。初年度は対応表マスタの整備と突合チェックの仕組み作りに時間がかかりますが、二年目以降は改正分の更新と例外確認だけになり、立ち上げのたびに費やしていた時間が定型作業に変わります。標準準拠システムへの移行や、自治体DX全体の流れと歩調を合わせれば、個別最適ではなく庁内の共通基盤として育てることもできます。自治体DXの全体像は行政・自治体DXの完全ガイドにまとめています。

決算統計の作成は、制度上避けられない毎年の業務です。だからこそ、職員の経験と気力に頼って毎年作り直すのではなく、組み替えルールのマスタ化・自動取り込み・BIによる突合チェックという形で「仕組みに記憶させる」ことの効果が大きい領域だと言えます。まずは自団体のどの表に手作業が滞留しているかを棚卸しすることから始めてみてください。財政データの可視化・連携に関する取り組みは自治体向けデータ活用ソリューションでも紹介しています。決算統計を含めて自治体の予算・決算データを一気通貫で見える化する全体像は、予実・会計の可視化でも整理しています。

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上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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