製造業の開発部門とfreee工数管理 PoC工数と本開発への按分イメージ(概念)

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製造業における研究開発(R&D)の現場では、日々新しい技術の検証や製品の試作が行われています。ここで管理者を悩ませるのが、「この工数は研究開発費として費用処理すべきか、それともソフトウェア資産として計上すべきか」という判断です。特にPoC(概念実証)から本開発へとシームレスに移行する現代の開発スタイルでは、その境界線が曖昧になりがちです。

本記事では、IT実務および会計運用の視点から、freee工数管理を用いて「PoC工数」と「本開発工数」をどのように按分・管理し、freee会計へと連携させるべきか、その具体的な設計イメージと運用手順を徹底解説します。

製造業の開発プロセスにおける「PoC」と「本開発」の定義

まず前提として、日本の会計基準における「研究開発費」の取り扱いを整理する必要があります。製造業において、ソフトウェアや新技術の開発に伴う工数は、その性質によって「費用」か「資産」かに分かれます。

会計上の「研究開発費」と「無形固定資産」の境界線

研究開発費に係る会計基準によれば、「研究」とは新しい知識の発見を目的とした計画的な調査であり、「開発」とは新しい製品・サービスなどの計画や設計を具体化することと定義されています。実務上の大きな分岐点は、「将来の収益獲得が確実であるか(技術的実現可能性が確立しているか)」です。

  • 費用処理(研究開発費): 技術的な実現可能性が不透明な段階、代替案の比較検討、試作機の設計・製作など。
  • 資産計上(無形固定資産/ソフトウェア): 製品化・サービス化の意思決定がなされ、完成に向けた具体的な本開発が開始された後の工数。

PoC(概念実証)期間の工数:費用処理の原則

PoCは、その名の通り「概念が実現可能か」を検証するフェーズです。この段階では、まだ製品化の確度が十分とは言えず、仮に失敗してプロジェクトが中止されるリスクも高いため、原則としてこの期間の工数はすべて「費用(研究開発費)」として処理します。freee工数管理上でも、このフェーズを明確に区別するフラグ管理が求められます。

本開発(資産計上)フェーズへの切り替わり時期の決定要因

資産計上を開始できるのは、社内の「開発会議」などで正式にプロジェクトが承認され、予算が割り当てられた時点(Gate承認後)とするのが一般的です。監査法人との協議においても、「どの議事録をもって資産計上の開始点とするか」が重要になります。この日付を境に、freee上でのプロジェクトコードや作業項目の運用を切り替える必要があります。

なお、開発だけでなく、導入後の保守運用や、経理業務の効率化については、以下の記事も参考にしてください。

【完全版・第4回】freee会計の「月次業務」フェーズ。給与連携・月次締めを爆速化し、決算の精度を高める手順

freee工数管理を活用した工数按分の設計イメージ

freee工数管理(旧称:freee人事労務の一部機能、現在は独立したプロダクトとして強化)を利用して、開発工数を正しく按分するための設計手法を解説します。

プロジェクトコードの設計:PoC用と本開発用の分離

最も確実な方法は、「プロジェクト(親)」の中に「PoC(子)」と「本開発(子)」を分ける、あるいはプロジェクト自体を分断することです。

管理レベル 名称例 会計上の取り扱い 目的
プロジェクトA-1 次世代センサーPoC 研究開発費(販売管理費) 技術検証・プロトタイプ作成
プロジェクトA-2 次世代センサー本開発 ソフトウェア資産(資産) 製品化に向けた実装・テスト

作業項目の設計:資産計上対象と非対象を明示する

プロジェクトを分けるだけでなく、作業項目(タスク)単位で「資産計上対象」か否かを紐付ける運用も有効です。freee工数管理では、作業項目をマスタ登録できるため、以下のような構成にします。

  • 【費用】研究・リサーチ: 先行技術の調査、文献調査。
  • 【費用】PoC実装: 使い捨てのコード、検証用回路の設計。
  • 【資産】本開発・実装: 本番用プログラムのコーディング。
  • 【資産】本開発・テスト: 結合テスト、システムテスト。
  • 【費用】一般・共通: 定例会議、教育、研修。

このように、作業項目名の先頭に【資産】【費用】と付与することで、入力者のミスを防ぎ、集計時のフィルタリングを容易にします。

人件費単価のマスター管理と機密保持

工数を金額(原価)に変換するためには、従業員ごとの「人件費単価」の設定が必要です。これには「給与+法定福利費+諸経費」を含めた労務単価を算出しておきます。freee工数管理では、従業員ごとに単価を設定可能ですが、これらは非常にデリケートな情報です。閲覧権限を「管理者」に限定し、一般ユーザーには金額が見えない設定にすることが鉄則です。

社内のシステム全体のSaaS管理やアカウント管理のセキュリティについては、以下のガイドも役立ちます。

SaaS増えすぎ問題と退職者のアカウント削除漏れを防ぐ。Entra ID・Okta・ジョーシスを活用した自動化アーキテクチャ

【実務手順】freee工数管理による資産計上のフロー

実際に製造現場でどのように工数を収集し、会計データへ昇華させるかのステップを確認しましょう。

STEP 1:開発承認(Gate)に基づいたプロジェクトの起案

開発部門で本開発への移行が決定したら、管理者がfreee工数管理に「本開発プロジェクト」を作成します。この際、freee会計の「プロジェクトタグ」と連動させることが重要です。これにより、工数管理側で集計した金額を、そのまま会計側のプロジェクト別損益に反映できます。

STEP 2:メンバーによる日次・週次の工数入力

エンジニアは、freee工数管理の画面から、その日に行った作業をプロジェクト・作業項目ごとに「時間」で入力します。freee工数管理はカレンダー連携(Google Calendar / Outlook)が可能なため、予定から工数を取り込むことで入力負荷を大幅に削減できます。製造現場では「15分単位」での入力を推奨するのが、精度と負荷のバランスが取れた運用です。

STEP 3:管理者による承認と工数集計

月末などの締め日に、各部署のマネージャーがメンバーの工数入力を「承認」します。承認されたデータは修正ができなくなり、会計上のエビデンスとしての真正性が確保されます。
freee工数管理の「レポート」機能を用い、プロジェクト別の合計工数・人件費合計を出力します。

STEP 4:freee会計への仕訳連携(人件費の資産振替)

集計した人件費(資産計上対象分)を、freee会計で以下の仕訳として登録します。

(借方)ソフトウェア仮勘定 XXX円 / (貸方)給与(または労務費振替) XXX円

この際、仕訳の備考欄に「freee工数管理 レポートID:123に基づく資産振替」と記載し、計算の根拠となった工数レポートをPDFで保存しておくことで、監査対応がスムーズになります。

複雑な配賦計算や、給与ソフトとの高度な連携についてはこちらの解説が詳しいです。

【完全版】給与ソフトからfreeeへの「配賦」連携と原価計算。SaaS標準機能からGCP自動化アーキテクチャまで徹底解説

工数管理ツールの比較表(freee vs 競合製品)

製造業の開発部門で検討に上がる主要なツールを比較します。単なる工数入力のしやすさだけでなく、会計連携(資産計上への親和性)がポイントです。

ツール名 主なターゲット freee会計連携 資産計上への適性 特徴
freee工数管理 全業種・freeeユーザー 純正連携(タグ同期) 高(仕訳連動が容易) カレンダー連携に強み。UIがシンプルで入力率が高い。
TeamSpirit 中堅・大手企業 CSV/API連携 高(経費・勤怠統合) Salesforce基盤。複雑な就業規則や原価管理に対応。
クラウドログ IT・クリエイティブ CSV/API連携 中(工数特化) ドラッグ&ドロップの入力が秀逸。分析機能が豊富。
Jira Software ソフトウェア開発 外部連携ツール経由 中(開発寄り) チケット単位の管理に強いが、会計用の集計には加工が必要。

※料金・詳細は各社公式サイトをご確認ください。

・freee工数管理:https://www.freee.co.jp/kousu/

・TeamSpirit:https://www.teamspirit.com/

運用でよくあるエラーと解決策

承認後に工数修正が必要になった場合の対応

一度承認された工数はロックされます。修正が必要な場合は、管理者が承認を取り消す必要がありますが、これを安易に行うとデータの信頼性が低下します。「修正依頼書」の提出をルール化するなど、牽制機能を働かせることが重要です。

複数プロジェクトを兼務するメンバーの按分ミス防止策

製造業の開発者は、新規開発だけでなく既存製品の保守や、間接業務を兼務することが多いです。
「未割り当て工数(プロジェクトに紐付かない時間)」が発生しないよう、freee工数管理のダッシュボードで、勤務時間(勤怠)と工数入力時間の乖離をチェックする運用を徹底しましょう。乖離率5%以内を目標とするのが一般的です。

退職者や異動者の工数データ不備への対処

退職予定者の工数承認を漏らすと、後から本人に確認することが不可能になります。退職チェックリストに「工数入力の完了と管理者承認」を必須項目として追加してください。

まとめ:精度高い原価管理がもたらす経営判断への寄与

製造業におけるPoCと本開発の工数按分は、単なる事務作業ではありません。これは「会社の投資を正しく資産として評価し、適切な節税(費用計上)を行う」ための高度な財務戦略です。

freee工数管理を導入し、プロジェクト設計と作業項目の粒度を本記事のイメージに沿って構築することで、エンジニアの負担を抑えつつ、監査に耐えうる精緻な原価管理体制が実現します。まずは現在の開発フェーズにおける「資産計上の開始点」を定義することから始めてみてください。

実務担当者が押さえるべき資産計上の継続性と内部統制

freee工数管理を用いた運用を開始するにあたり、単にプロジェクトを分けるだけでなく、会計監査や税務調査で重要視される「継続性の原則」についても考慮が必要です。一度決めた按分基準や資産計上の開始基準は、正当な理由なく変更することはできません。導入前に経理部門と開発部門で合意すべきチェックポイントをまとめました。

資産計上プロセスの健全性を保つチェックリスト

  • Gate承認の証跡: 資産計上を開始した根拠(企画書、役員会の議事録、稟議書等)が日付入りで保存されているか
  • 作業項目の整合性: 研究開発費(費用)として処理すべき「不確実な試作」が、誤って資産計上のプロジェクトに混入していないか
  • 人件費単価の更新: 昇給や社会保険料率の改定に伴い、freee工数管理上の労務単価を最新(原則、年1回以上の見直し)に更新しているか
  • 勤怠乖離の許容範囲: 勤怠打刻と工数入力の差分について、社内で「◯%以内」または「◯分以内」という許容ルールを明文化しているか

よくある誤解:すべての開発工数が資産になるわけではない

「本開発フェーズに入れば、すべての工数を資産に振替えて良い」という考え方は誤解です。例えば、本開発期間中であっても、以下のような工数は「費用(研究開発費または販売管理費)」として処理するのが一般的です。これらを混同すると、利益の過大計上を指摘されるリスクがあります。

項目 会計上の取り扱い 理由
操作マニュアルの作成 費用 制作物の機能自体を高めるものではないため
リリース後のバグ修正 費用(保守費) 現状維持のためのメンテナンスに該当するため
新機能のトレーニング 費用 教育研修費としての性質が強いため

公式ドキュメントと詳細な連携仕様の確認

freee工数管理の具体的な操作方法や、最新のアップデート情報については、以下の公式ヘルプページを必ず参照してください。特に、freee人事労務から給与データを引き継いで労務単価を自動計算する機能などは、設定手順によって集計結果が左右されます。

また、製造業において「部門別配賦」まで含めた精緻な原価計算を目指す場合は、工数管理単体ではなく、給与ソフトとのデータ連携設計が不可欠です。以下の記事では、部門別の仕訳連携におけるアーキテクチャを詳しく解説しています。

【完全版】給与ソフトからfreee会計への「部門別配賦」と仕訳連携。労務と経理の分断を解決するアーキテクチャ

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上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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