中期財政計画の作り方|財政収支見通し・中長期財政推計を予算編成とBIでつなぐ実務手順
中期財政計画(財政収支見通し)の作り方を、歳入歳出の複数年度推計から財源不足の見える化、予算編成・実施計画との接続、BIでの毎年度更新まで実務手順で解説します。
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中期財政計画(中期財政見通し・財政収支見通し)は、複数年度の歳入歳出を推計し、財源不足がいつ・どの程度生じるかを早めに見える化するための前向きの計画ツールです。決算後に財政状態を診断する財政健全化判断比率(実質公債費比率など)が「事後の健康診断」だとすれば、本計画は「将来の家計簿の試算」にあたります。本記事では、推計の組み立てから財源不足の表現、予算編成・実施計画との接続、そして毎年度のローリング更新をBIで運用するところまで、財政・企画担当の実務手順として整理します。
中期財政計画とは何か:地方財政計画との違いと位置づけ
国レベルでは、総務省が毎年度「地方財政計画」を策定します。これは全国約1,800団体の歳入歳出の見積もりであり、令和6年度の規模(通常収支分)は約93.6兆円です。地方交付税や地方債を通じて、税収の地域差や経済変動にかかわらず必要な行政サービスを提供できるよう一般財源総額を保障する役割を担っています(総務省 地方財政制度)。財源不足が生じる年度には、国と地方が折半して補てんする折半ルールが基本とされています。
これに対して各団体が作る中期財政計画は、この国の枠組みを前提に、自団体固有の事情(人口動態、施設更新、起債残高、基金残高)を織り込んだ将来推計です。地方財政計画は「制度の器」、中期財政計画は「自団体の中身」と捉えると、両者の役割分担が理解しやすくなります。総務省は近年、臨時財政対策債の抑制や緊急防災・減災事業費の令和8年度地方財政計画における延長など、中長期の財政運営を見据えた措置を示しており、計画策定はこうした制度動向の反映も含みます。
歳入の推計:一般財源の柱を年度別に置く
歳入推計の出発点は一般財源です。地方税は、人口・課税対象の趨勢に加え、固定資産の評価替え年度(3年ごと)の段差を反映させます。地方交付税は、地方財政計画の一般財源総額の動向と自団体の基準財政需要額・収入額の見込みから置きますが、単年度の制度改正の影響が大きいため、確度の高い直近値を起点に保守的に見るのが実務的です。
国庫支出金や地方債は、原則として事業に紐づけて推計します。普通建設事業の財源として起債を見込む場合は、後年度の公債費(元利償還)として歳出側に必ず跳ね返る点を忘れないことが重要です。歳入を楽観的に積み上げ、後年度負担を歳出に反映し損ねると、見通しは構造的に甘くなります。
歳出の推計:義務的経費と投資的経費を分けて見る
歳出は性質別に分けると推計しやすくなります。人件費は定員適正化計画と給与改定の前提を、扶助費は対象者数と単価の伸びを、公債費は既往債の償還予定と新規発行の見込みを積み上げます。これらの義務的経費は裁量の余地が小さいため、まず固めるべき土台です。
投資的経費は、実施計画や公共施設等総合管理計画・個別施設計画に位置づけた更新・新設事業を年度配置します。施設の老朽化に伴う更新需要は特定年度に山が立ちやすく、その山が公債費の山を後年度に作ります。繰出金(特別会計・企業会計への負担)も、上下水道や国民健康保険などの収支見通しと連動させて置くと、一般会計だけでは見えない圧力を捉えられます。
財源不足の見える化:基金で埋める構造を可視化する
歳入と歳出を年度別に並べると、多くの団体で後年度ほど収支差(財源不足)が拡大する形が現れます。実務では、この不足を財政調整基金などの取り崩しで埋めることになりますが、ここで重要なのは「基金繰入で帳尻が合っている」状態を、基金残高の推移として正面から見せることです。
収支差を基金で補てんし続ければ、いずれ基金が枯渇する年度が見えてきます。その「基金がゼロに近づく年度」こそ、構造的な対策(事業の優先順位付け、受益者負担の見直し、起債の平準化)に着手すべき期限です。財源不足額そのものより、基金残高の枯渇時期を意思決定のトリガーに据えると、計画が行動につながりやすくなります。なお、見通しのアウトプットは将来の健全化判断比率の試算にも接続でき、事後診断である比率の悪化を未然に避ける材料になります。
予算編成・実施計画との接続:枠配分の財源根拠にする
中期財政計画は、作って終わりでは意味がありません。最大の使いどころは予算編成の起点です。自治体の予算編成では、9月頃に財政課が次年度の歳入を見積もり、首長が編成方針を決定し、11月頃に各部のヒアリング・査定を行うのが一般的な流れです。この入口で、中期財政計画が示す財源総額を根拠に、義務的経費などの特定配分を先に確保し、残りを各部局へシーリング率付きで配る枠配分方式を採る団体が増えています。
つまり中期財政計画は、枠配分の「配れる原資」を裏付ける役割を持ちます。実施計画(3〜5年程度の事業計画)とも期間をそろえ、計画に載せた事業費を見通しの投資的経費に確実に反映させることで、計画・予算・財政見通しの三者が同じ数字で動くようになります。逆に三者がばらばらだと、見通しは現実から乖離し、査定の説得力も失われます。
BIで毎年度ローリング更新する運用
中期財政計画の価値は精度と鮮度で決まります。前提(人口、単価、金利、事業費)は毎年変わるため、年に一度のローリング更新が前提です。Excelの単発ファイルで属人的に作ると、更新のたびに前提の差し替え漏れや式の破損が起き、前年版との差異要因も追えなくなりがちです。
ここでBI(ビジネスインテリジェンス)が効きます。決算統計(地方財政状況調査)や予算データを取り込み、歳入歳出の推計ロジックをパラメータ化しておけば、決算確定や地方財政計画の改定といった反映点で前提を更新するだけで、収支差と基金残高の推移が自動で引き直されます。前提を変えたときの感応度(金利が上がったら、扶助費の伸びが想定を超えたら)をシナリオとして並べられる点も、単発資料にはない強みです。実際、デジタル庁の地方財政(市町村ごと)に関するダッシュボードは、地方財政状況調査をもとに歳入歳出や将来負担比率、類似団体比較を可視化しており、こうした公開データと自団体の推計を同じ画面で扱う運用の参考になります。
公会計情報(財務書類)まで取り込めれば、現金主義の収支見通しに減価償却や負債の発生主義の視点を重ねられます。ただし公会計は整備されても活用が進みにくい構造的な課題があり、この点は自治体公会計のBI活用で詳しく扱っています。自治体DX全体の中での財政データ活用の位置づけは行政・自治体DX 完全ガイドもあわせてご覧ください。
策定の実務チェックポイント
最後に、見通しを実務で機能させるための要点を整理します。第一に、歳入は保守的に、後年度負担(公債費・繰出金)は漏れなく。第二に、財源不足は基金残高の枯渇時期で語る。第三に、推計期間と区切りを実施計画・施設管理計画にそろえる。第四に、前提と実績の差異要因を毎年残し、翌年の精度に還元する。第五に、更新の手間を下げて鮮度を保つ仕組み(BI・パラメータ化)を持つ。これらが揃って初めて、中期財政計画は予算編成と意思決定を支える生きた道具になります。
歳入面では、ふるさと納税のように年度変動が大きく、かつ指定取消などの制度リスクを伴う財源を、本体の税収とは分けて感応度を見ておくと推計が安定します。寄附額の推移や費用構造を全国比較で押さえたい場合はふるさと納税データダッシュボードが、自団体の寄附・経費・指定リスクを予実で管理する考え方は予実管理BIの取り組みが参考になります。中期財政計画という骨格に、こうした個別財源の見える化を重ねていくことが、鮮度の高い財政運営につながります。単年度の推計だけでなく、ふるさと納税のような変動財源を含めて「集めた後」をどう管理するかは、ふるさと納税の使途・予実・会計の可視化で詳しく整理しています。
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