自治体の基金マネジメント|財政調整・減債・特定目的の違いと、残高の適正水準の説明のしかた
自治体の基金の残高の適正水準に、法令や総務省の公式の基準はありません。財政調整・減債・特定目的の3類型に分け、類型ごとの物差しと財政状況資料集の基金のシートで説明する方法を、条文と総務省の数字でまとめます。
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この記事の要点
- 基金の残高の「適正水準」に、法令や総務省の公式の基準はありません。総務省の2017年の調査では、財政調整基金の規模の考え方は団体ごとに違い、市町村で多かったのは「決算状況を踏まえ、可能な範囲での積立て」でした。
- 令和6年度末の全国の基金残高29兆4,802億円のうち、56.3%は特定目的基金です。合計の額だけでは、年度間の調整に使える余力は分かりません。
- 残高は、類型ごとに違う根拠で説明します。財政調整基金は何に備えるか、減債基金は償還の予定、特定目的基金は条例の目的と事業の計画です。材料は財政状況資料集の基金のシートにあります。
3つの基金は、何で残高を説明するかが違う
財政調整基金
年度間の財源の不均衡を調整する
- 令和6年度末の全国 9兆7,786億円(33.2%)
- 標準財政規模に対する比率で目安を置く団体もある(基準ではない)
減債基金
地方債の償還を計画的に行う
- 令和6年度末の全国 3兆938億円(10.5%)
- 満期一括償還の分は統計の数字に入らない
その他特定目的基金
上の2つ以外の、条例で決めた目的
- 令和6年度末の全国 16兆6,078億円(56.3%)
- 目的のためでなければ処分できない(第241条第3項、3類型に共通の定め)
「財政調整基金はいくらあれば適正か」という問いに、法令や総務省が示した公式の基準はありません。団体ごとに考え方が違うので、残高は正解の額を探すのではなく、3つの類型ごとに違う根拠で説明することになります。
当社は、予算と実績を比べる管理(予実管理)や、ふるさと納税の寄附データを、画面に並べて見えるようにする支援をしています。基金を持つ立場ではありません。財政課や企画課で予算・決算の説明資料を作る方に向けて、条文と総務省の公表資料で確かめられることだけをまとめます。健全化判断比率の詳しい話と、予算の執行の管理は別の記事に譲ります。
例は、総務省の「令和8年版地方財政白書」が示す令和6年度末の全国の積立金現在高 29兆4,802億円です。都道府県と市町村の普通会計の合計で、市町村には特別区・一部事務組合等を含みます。
基金は、条例で目的を決めて別に持つお金:地方自治法 第241条
地方自治法 第241条第1項で、団体は条例の定めるところにより、特定の目的のために財産を維持し、資金を積み立て、または定額の資金を運用するための基金を設けることができる、とされています。各項を、実務で問われる場面と並べると次のとおりです。
| 条文 | 定めていること | 実務で問われる場面 |
|---|---|---|
| 第1項 | 条例で、特定の目的のための基金を設けられる | 基金ごとに設置条例がある。目的は条例の文言で確かめる |
| 第2項 | 条例で定める目的に応じ、確実かつ効率的に運用する | 預けている先・債券での運用の方針 |
| 第3項 | 積み立てるための基金は、その目的のためでなければ処分できない | 特定目的基金を別の事業に充てられるか |
| 第4項 | 運用から生じる収益と管理の経費は、毎年度の歳入歳出予算に計上する | 利子が予算にどう載っているか |
| 第5項 | 定額の資金を運用する基金は、運用の状況を示す書類を監査委員の審査に付し、意見を付けて議会に出す | 土地開発基金などの運用状況の報告 |
| 第7項 | 管理は、基金に属する財産の種類に応じて、収入・支出の手続や公有財産の管理などの例による | 現金なら歳計現金と同じ扱い、土地なら公有財産の扱い |
| 第8項 | 第2項から第7項のほか、管理と処分に必要なことは条例で定める | 取崩しの条件・手続を条例で決めているか |
この条文には、残高をいくらにすべきかの定めはありません。決めているのは目的・目的外の処分の禁止・運用と管理の手続で、水準の判断は団体に任されています。
3類型は総務省の統計の分け方:令和6年度末の全国の例
財政調整基金・減債基金・その他特定目的基金という分け方は、法律の名前ではなく、総務省の決算統計(地方財政状況調査)の分け方です。財政状況資料集の用語説明の定義は次のとおりです。
- 財政調整基金:年度間の財源の不均衡を調整するための基金。
- 減債基金:地方債の償還を計画的に行うための資金を積み立てる目的で設ける基金。
- その他特定目的基金:上の2つの目的以外の特定の目的のために財産を維持し、資金を積み立てるために設置される基金。例として、庁舎等の建設、社会福祉の充実、災害対策の基金が挙げられています。
例の29兆4,802億円の内訳は冒頭の図のとおりで、合計は前年度末より2.1%増です。類型ごとには、財政調整基金は2.8%増、減債基金は3.4%増、その他特定目的基金は1.5%増でした。都道府県だけで見ると財政調整基金は11.2%増の2兆7,567億円、市町村では0.2%減の7兆219億円です。同じ類型でも、都道府県と市町村で増減の向きが逆です。白書は、全体が増えた主な理由を2つ挙げています。1つは、地方税が当初見込みより増えたことを踏まえた、将来の普通交付税の減額精算への備えです。もう1つは、令和6年度補正予算で「臨時財政対策債償還基金費」として普通交付税が増額交付されたことです(令和8年版地方財政白書)。
合計の半分以上は特定目的基金で、財政調整基金は3分の1ほどです。また、統計の数字に入らないものがあります。白書の減債基金は「満期一括償還地方債に係るものを除く」と断っています。定額の資金を運用する基金(土地開発基金など)は、2017年の総務省の調査でも対象から外されています。財政状況資料集の総括表でも、定額運用基金は積立金現在高の3類型とは別の欄です。自団体の決算書の基金の合計と、統計の数字が合わないときは、まずこの2点を疑います。
お金が入る道と出る道は、別々の決まりで動く
財政調整基金に入る道の代表は、決算の剰余金です。地方財政法 第7条は、決算で剰余金が出たとき、その2分の1を下らない額を、剰余金が出た年度の翌々年度までに積み立てるか、地方債の繰上償還の財源に充てなければならないと定めています。また第4条の3は、地方交付税と基準財政収入額の合計が基準財政需要額を著しく超えるときなど、収入が大きく増えた年度に、その著しく超える額を積み立てるなどして翌年度以降に備えるよう定めています。第4条の3の見出しは「年度間の財源の調整」で、財政調整基金の定義と同じ言葉です。
出る道は狭く決められています。地方財政法の第4条の3と第7条で積み立てた積立金を処分できるのは、第4条の4の次の5つの場合に限られます。
- 経済事情の著しい変動などで財源が著しく不足する場合に、その不足を埋めるとき
- 災害で生じた経費の財源、または災害で生じた減収を埋めるとき
- 緊急に実施することが必要になった大規模な土木その他の建設事業の経費など、やむを得ない理由で生じた経費の財源に充てるとき
- 長期にわたる財源の育成のための財産の取得などの経費に充てるとき
- 償還期限を繰り上げて行う地方債の償還の財源に充てるとき
自団体の財政調整基金がこの積立金に当たるかどうか、取崩しの条件をどう書いているかは、財政調整基金の設置条例で確かめてください。特定目的基金なら、取り崩せるのは条例の目的に合う事業に充てるときだけです(地方自治法 第241条第3項)。
基金に入る道と出る道
取り崩すときは、予算に載せます。地方自治法は、1会計年度の一切の収入と支出を歳入歳出予算に入れるよう定め(第210条)、予算は議会の議決を経ます(第96条第1項第2号、第211条)。予算に載せた額を超えて取り崩すなら補正予算です(第218条)。予算を年度の中でどう執行し、補正や決算にどうつなぐかは、自治体の予算執行管理の記事で書いています。
財政状況資料集の「実質収支比率等に係る経年分析」のシートは、財政調整基金の残高を実質収支額・実質単年度収支と並べ、標準財政規模に対する比率(%)で5年度分示しています。財政状況資料集の用語説明では、実質単年度収支を、単年度収支に財政調整基金への積立額と地方債の繰上償還額を加え、財政調整基金の取崩し額を差し引いた額としています。決算の黒字が取崩しの結果かどうかは、この指標で見分けられます。
適正水準に公式の基準は無い:総務省の調査で団体はどう決めていたか
では団体は財政調整基金の規模をどう決めているのか。総務省は2017年11月、「基金の積立状況等に関する調査」の結果を公表しました。都道府県・市町村・一部事務組合等を対象に、地方財政状況調査とあわせて行った調査で、財政調整基金の規模の考え方も聞いています。
財政調整基金の規模の考え方(市町村、複数回答)
回答した市町村に占める割合。団体数は順に1,324・421・279・174・200(一部事務組合等を含まない)
都道府県(47団体)では「過去の取崩実績(災害等)から必要と考えられる額」と「決算状況を踏まえ、可能な範囲での積立て」がそれぞれ16団体、「標準財政規模等の一定割合」が15団体です。標準財政規模とは、団体が標準的な状態で通常収入されるであろう経常的な一般財源の規模で、標準税収入額等に普通交付税と臨時財政対策債の発行可能額を加えた額です(財政状況資料集の用語説明)。
標準財政規模に対する比率として答えた水準(市町村 376団体)
団体が自分で決めた目安の分布で、基準ではない。割合は順に5.3・39.1・37.8・8.8・7.4・1.6%
出典:総務省「ポイント及び分析」p.11。都道府県で同じ答えをした14団体は「5%以下」10団体、「5%超10%以下」4団体
この分布は団体が自分で置いた目安を集めたもので、「10%前後が適正」という基準として読むのは誤りです。
何に備えて積んだかも聞いています。財政調整基金の積立ての理由(3つまで)の第1位は、都道府県では「景気の動向による法人関係税等の変動」と「災害」、市町村では「公共施設等の老朽化対策等に係る経費の増大」と「災害」が多く挙がりました。
2017年の調査が示した、残高が増えた理由
同じ調査で、基金の残高(東日本大震災分を除く)は平成18年度末の13兆6,022億円から平成28年度末の21兆5,461億円へ、7兆9,439億円増えていました。内訳の増加額は、財政調整基金が3兆4,521億円、減債基金が4,042億円、特定目的基金が4兆876億円です。総務省の試算では、国の施策や市町村合併の特例措置の終了への備えといった「制度的な要因」が2.3兆円、税収の変動・人口減少による税収減・公共施設等の老朽化対策・災害・社会保障関係経費の増大といった「その他の将来の歳入減少・歳出増加への備え」が5.7兆円です。一部前提を置いた機械的な試算だと資料が断っています(ポイント及び分析 p.5)。
同じ調査で、今後3〜5年程度の見込みを具体的な額で答えた6,098基金の合計は、2兆6,104億円の減少見込みでした。
この2017年の数字と例の29兆4,802億円は、集計の範囲(東日本大震災分の扱いなど)が同じか確かめられないので、差を計算していません。
基準が無いなら、類型ごとに違う根拠で説明する
議会や住民に示せるのは「この残高は、何のために、いつまでに、いくら要るから」という説明です。その根拠は、類型ごとに違います。
| 財政調整基金 | 減債基金 | その他特定目的基金 | |
|---|---|---|---|
| 説明の根拠 | 何に備えて積むか(税収の変動・災害・施設の更新など)。目安を標準財政規模の比率で置くなら、その比率と理由 | 将来の地方債の償還の予定に対して、積み立てた額で足りるか | 設置条例の目的と、その目的で充てる事業の計画(いつ、いくら) |
| 取り崩せる場面 | 設置条例の定め。地方財政法の積立金なら第4条の4の5つの場合 | 償還の財源 | 条例の目的に合う事業の財源だけ(第241条第3項) |
| 間違えやすい点 | 合計の残高を、そのまま調整に使える余力と読む | 満期一括償還の分が統計の数字に入らない | 基金の数が多く、目的と事業の対応が担当課ごとに分かれる |
| 公表資料で見る所 | 財政状況資料集の基金のシート、実質単年度収支 | 財政状況資料集の実質公債費比率(分子)の構造のシート | 財政状況資料集の基金のシートの分析欄、各基金の設置条例 |
財政調整基金で標準財政規模の比率を使うなら、他団体と比べて多い少ないを決めつけず、その比率を選んだ理由(過去の災害で取り崩した額、税収の振れ幅など)と一緒に示します。2017年の調査で、都道府県では「過去の取崩実績から必要と考えられる額」が、「決算状況を踏まえ、可能な範囲での積立て」と並んで最も多い答えの1つ(47団体中16団体)でした。
減債基金のうち、満期一括で償還する地方債のために積み立てている分は、実質公債費比率の計算で、積立ての不足を見るのに使われます。財政状況資料集の「実質公債費比率(分子)の構造」のシートには、満期一括償還地方債の償還の財源に係る減債基金だけを記入する欄があります。指標の読み方は財政健全化の4指標の記事にまとめています。
2017年の調査で、市町村の特定目的基金の使途は、基金の数でも残高でも「庁舎以外の公共施設の整備」が最も多く、次いで「まちづくり推進」でした(調査結果)。ふるさと納税の寄附金のように寄附者が使い道を選ぶ財源では、選ばれた使い道と充てた事業の対応を記録します。進め方は寄附金の使途・予実・会計の管理の記事で書いています。
説明の材料は、財政状況資料集の基金のシートにある
説明の材料を一から作る前に、総務省の財政状況資料集を開いてください。団体ごとの Excel が年度別に公開され、令和6年度分も出ています。市町村(政令指定都市を除く)の分は、総務省のページから各都道府県のサイトに案内されています。令和8年版地方財政白書は、財政状況資料集で基金の使途・増減理由・今後の方針等を公表している、と書いています。
実際に令和6年度の Excel を開くと、「基金残高に係る経年分析」というシートがあり、財政調整基金・減債基金・その他特定目的基金と、その他特定目的基金の主な基金の、直近3年度の年度末残高が並んでいます。グラフの題は「基金残高(東日本大震災分を含む)に係る経年分析」で、2017年の調査と違い東日本大震災分を含みます。横には団体が書く分析欄があり、増減の理由、今後の方針、基金の使途が文章で載っています。自団体のこのシートは、すでに公表している説明そのものです。
どの資料で何を確かめるか
出典:総務省「財政状況資料集」(令和6年度分の Excel のシート名)、令和8年版地方財政白書 第3部
年度の途中の動きは、団体の側で並べる
財政状況資料集の基金のシートに載るのは、年度末の残高と分析欄です。当初予算の取崩し見込みが補正でどう変わり、決算でどう着地したかは入っていません。特定目的基金の目的と事業の対応も、分析欄の文章で書ける範囲にとどまります。「いくら取り崩す予定だったのか」「何の事業に、いつ使うのか」に答えるには、この2つを団体の側で並べておきます。
| 並べる項目 | 何と何を並べるか | いつ更新するか |
|---|---|---|
| 3類型別の残高 | 財政調整・減債・特定目的の年度末残高と、積立て・取崩しの額を分けて | 決算のたび |
| 取崩しの予定と実績 | 当初予算の取崩し額、補正後の額、決算の額 | 当初予算・補正予算・決算のたび |
| 財政調整基金の目安 | 自団体で決めた目安(標準財政規模の比率など)と、その理由 | 目安を見直したとき |
| 減債基金と償還 | 積み立てた額と、将来の償還の予定 | 地方債を発行・償還したとき |
| 特定目的基金と事業 | 基金ごとに、条例の目的、充てる事業、使う年度と額 | 事業の計画が変わったとき |
予算は補正のたびに変わるので、表は予算と決算の節目ごとに更新します。表計算ソフトでも、会計のデータを自動で集めて並べる仕組み(BI)でも作れますが、先に決めるのは並べる項目です。この表は残高の適否を判定する道具ではなく、決めた目安と理由、予定と実績を同じ画面に置いて説明をそろえるためのものです。
最初にやること
自団体の令和6年度の財政状況資料集を開き、「基金残高に係る経年分析」のシートで、3類型の残高と分析欄に書いた理由を確かめてください。次に主な基金の設置条例を開き、条例の目的と分析欄の理由が同じ言葉で説明できるかを見ます。言葉がそろわなかった基金から、説明を書き直します。
予算と決算の数字を並べる表を作る段階で手が足りない場合は、当社のふるさと納税・自治体の予実管理の支援で、並べる項目の整理から一緒に進められます。画面に並べる仕組みづくりはデータ分析・可視化の支援でもお手伝いしています。自治体のDX全体の話は自治体DXの全体像の記事にまとめています。
条文は e-Gov 法令検索で、数字は総務省の「基金の積立状況等に関する調査結果」(2017年11月)、「令和8年版地方財政白書」、財政状況資料集で、2026年10月13日に確かめたものです。
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