企業版ふるさと納税は9年で84倍に — 受領自治体95%・631億円市場の実態と経理の落とし穴

企業版ふるさと納税は2024年度に631億円、9年で84倍。受領自治体は1,590(累計で全自治体の95%)。人材派遣型の活用拡大と計画認定取消事例、寄附企業への報告書作成の手作業負担まで、内閣府公表データを5枚のSVGで整理する。

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個人版のふるさと納税が「1兆円市場」と呼ばれるようになった一方で、企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)は2024年度に631億円に達した。9年間で84倍。とくに2020年度の制度拡充(税額控除最大9割)以降の伸びが顕著で、いまや全国1,590の地方公共団体が寄附を受領し、累計では全自治体の95%が一度は活用している。本記事では、内閣府公表データをもとに、企業版ふるさと納税の市場形成過程と、自治体側で生じている経理・予実管理の論点を5枚のグラフで整理する。

寄附額は9年で84倍 — 2024年度 631億円

企業版ふるさと納税 寄附額の推移(億円)02004006007.523.634.233.8110.1225.7341.1470.0631.42016201720182019202020212022202320249年で約84倍 / 2024年度 631億円(過去最高)出典: 内閣府 地方創生推進事務局 公表データ

2016年度の制度開始時は7.5億円とごく小さい市場だったが、2020年度に税額控除を3割から最大6割(実質損金算入と合わせて最大9割)へ拡充したことを境に急伸し、2024年度には631.4億円・寄附件数18,457件と、いずれも過去最高を更新した。前年からの伸び率は30%超で、市場は依然として明確な拡大局面にある。

制度は2027年度(令和9年度)まで3年延長されることが2025年度税制改正で確定した。これにより「2027年度の630億円超 → 1,000億円規模」が業界内の現実的な見立てになりつつある。

受領自治体数は1,590 — 全自治体の95%が活用経験あり

寄附を受領した地方公共団体数の推移050010001500全自治体数 1,74110824738955881812761276146915902016201720182019202020212022202320242024年度1,590団体/累計(一度でも受領)1,631団体は全自治体の約95%。残るは未活用または計画未認定。

2024年度に寄附を受領したのは1,590団体、累計(一度でも受領実績がある自治体)は1,631団体で、全1,741自治体の約95%に達している。残るのは大都市(東京都、神奈川県、愛知県、大阪府など寄附企業の所在地となる「不交付団体」)と、地方創生推進交付金の活用計画を未策定の小規模自治体に集中する。

制度を「使う側/使われる側」がほぼ全国に行き渡った結果、競争軸は「いくら集めるか」から「どんなプロジェクトに紐づけて、寄附企業との関係をどう継続させるか」へと完全に移行している。

金額の集中度 — 上位10団体で全体の35%

寄附額の自治体集中度(累積パーセンタイル)大阪府/横浜市など大型イベント擁する10団体で全体の3割超を獲得。中小自治体は1団体あたり数百万円規模が中心。0%25%50%75%100%上位10団体で35%0105010020050010001590受領団体(金額順位)出典: 内閣府 地方創生推進事務局 / 大型自治体公表値より試算

金額ベースで見ると寄附は明確に偏っている。大阪・関西万博を控えた大阪府、2027年国際園芸博覧会の横浜市など、大型プロジェクトを擁する10団体で全体の3割超を獲得している。逆に中小規模の自治体は1団体あたり数百万円〜数千万円規模が中心で、件数こそ増えても金額インパクトは限定的というのが現状だ。

この格差を埋めるために、内閣府・地方銀行・コンサルティング会社による「マッチング会」「企業版ふるさと納税担当の伴走支援」が増えているが、これは地方創生人材確保と並んで自治体側の人件費負担が増える方向に働いている。後述する人材派遣型もこの流れの一部だ。

人材派遣型 — 「寄附+出向」モデルの急増と取消事例

人材派遣型 — 活用自治体数の推移(年度ごとの新規・既往含む)寄附+人材派遣を組み合わせた活用が急増。一方、グループ内寄附・経済的利益供与で計画認定取消事案も発生(2024年度)050100150164067981352020年度2021年度2022年度2023年度2024年度出典: 内閣府 まち・ひと・しごと創生寄附活用事業 公表資料

2020年に制度化された「人材派遣型」は、企業が寄附と同時に社員を自治体へ出向させる形式で、2023年度の活用は98団体、2024年度は135団体と1.4倍ペースで増加している。寄附する企業側にとっては、税控除に加えて「自社の社員を地方自治体の現場に1〜2年出すことで関係人口を作る」という戦略的価値があり、地方銀行・大手システムインテグレーターからの活用が目立つ。

一方、2024年度には「経済的利益供与」事案で計画認定が取消されたケースも内閣府から複数公表されている。グループ内企業から子会社所在自治体への寄附(実質的に自社グループへ還流する構造)や、寄附企業に対して契約等で間接的便益を提供した事案が問題視され、2025年度から計画認定段階・実績報告段階のチェック機能が大幅に厳格化された。

寄附する企業の業種 — 建設・製造・情報通信が3大プレーヤー

寄附企業の業種別構成(推計)公共事業との接点が多い建設・不動産が最多。最近は情報通信・金融からの寄附増、関係人口創出を狙う事例が拡大建設・不動産22%製造業18%情報・通信14%金融・保険12%卸売・小売10%サービス業10%運輸6%その他8%出典: 内閣府公表事例の業種分類から試算(n=主要寄附企業300社)

主要寄附企業の業種分布を見ると、建設・不動産が約22%でトップ、次いで製造業18%、情報・通信14%、金融・保険12%。公共事業との接点が多い業種が上位を占めるのは想定通りだが、近年はSaaS/クラウドベンダーや地方銀行からの寄附が継続的に伸びている。これらの企業は人材派遣型と組み合わせ、地方DX案件のフィールド獲得を意図しているケースが多い。

自治体側の経理・予実管理で何が起きているか

当社が企業版ふるさと納税を扱う自治体・伴走支援団体の経理現場に入って繰り返し見るのは、次の3つの構造的論点だ。

論点1:寄附受入と事業執行の「会計年度ズレ」。寄附は年度内に受領しても、紐づく事業の執行が翌年度以降にまたがるケースが大半。基金繰入の処理と、複数年度にまたがる事業の予算管理を別系統で持っているため、「いくら使っていて、いくら残っているか」が即答できない自治体が多い。

論点2:寄附企業への報告書作成が手作業。寄附企業からは「実際に何にいくら使われたか」を年次で求められる。これを事業ごとに按分・整形して提出する作業が、年度末3月の財政課を直撃している。

論点3:人材派遣型の人件費管理が複雑。派遣社員の人件費を「企業版ふるさと納税の対象事業費」に含めるルールが2020年改正で整理されたが、按分の根拠資料を残しておく必要があり、勤怠・業務内容・成果物を毎月集計しないと制度違反のリスクが残る。

解決の方向性 — タグ会計と多年度プロジェクト管理

企業版ふるさと納税を扱う自治体で、当社が最初に手をつけるのは「寄附受入年度 × 事業実行年度 × 事業ID」の3軸タグ会計と、多年度プロジェクト管理ダッシュボードの構築だ。これがあれば「寄附企業 X 社から受領した寄附 1,000万円のうち、823万円は事業 A の人件費に充当、177万円は基金残」というレベルで即時に集計でき、年度末の手作業按分が消える。

同じデータ基盤に人材派遣型の勤怠・業務記録を載せれば、内閣府の実績報告様式もほぼ自動生成できる。詳細は下記の予実管理BIダッシュボードのサービスページに、画面イメージ・タグ運用ルール・5ステップ導入フローまで載せている。

SERVICE / 関連ページ

企業版ふるさと納税を扱う自治体向け 予実管理BIダッシュボード

寄附受入×事業執行の多年度管理、人材派遣型の人件費按分、寄附企業向け年次報告書の自動生成までを1つのデータ基盤でカバー。記帳代行・伴走支援込み。

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関連する調査・解説記事

参照した一次資料

  • 内閣府 地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」公表資料
  • 内閣府「企業版ふるさと納税(人材派遣型)Q&A」(2025年4月1日改訂)
  • 2024年度寄附実績の地方公共団体・企業別公表データ
  • 日本経済新聞「企業版ふるさと納税が最多 24年度に631億円」(2025年9月19日)
  • 令和7年度税制改正大綱(企業版ふるさと納税3年延長)

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aurant technologies 編集

上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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