自治体の予算編成・予実管理・経理はどこで詰まるのか — 公的データで読む現場のボトルネック
地方公務員▲48万人時代に、自治体・第三セクター・公益法人の予算編成と予実管理はどこで詰まっているのか。総務省・デジタル庁・中核市市長会・経理職アンケート等の公的データを6つのインラインSVGで可視化し、Excel依存の構造的限界とBI×タグ設計による打開策まで俯瞰する。
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「人は15%減ったのに、業務はむしろ増えている」——自治体の財政・経理部門で取材すると、ほぼ必ずこの言葉に行きつく。地方公務員数は1994年の328万人から2022年に280万人へと48万人減った(総務省「地方公共団体定員管理調査」)。一方で住民サービスは複雑化し、ふるさと納税・コロナ対策臨時交付金・物価高騰対策・標準化対応と、財政担当の机にはここ数年で「新しい元帳」が次々に増えた。本記事では、予算編成・予実管理・経理という3つの軸で、いま自治体(および第三セクター・指定管理者・公益法人)の現場で何が起きているかを公的データとともに見ていく。
地方公務員はこの30年でどれだけ減ったのか
定員適正化計画によって1994〜2010年代前半に大幅減、2010年代後半にようやく下げ止まった、というのが大まかな経緯だ。とくに財政・企画・総務といった「住民窓口ではない管理部門」は早期に削られたセクションで、現在予算編成や決算統計を担当している係長層の多くは「自分の前任者が3人いた」状態を見ている。人員を戻すよりは、業務側を再設計するしかない、というのが2020年代後半の前提条件になっている。
経理の「いちばん負担が重い業務」は何か
民間の経理職106名を対象にした2025年7月の調査(経理プラス/株式会社ラクス)では、ストレスが集中するのは「経営資料・社内レポート作成」と「予算作成・予実管理」だった。年次決算や売掛買掛より上に来ている点が示唆的で、定型業務(伝票起票・支払処理)より、非定型の集計・整形作業のほうが重荷になっている。これは自治体も完全に同じ構造で、当社が自治体・第三セクターの経理担当者と話していても、「議員質問が来てから3日で資料を作る」「補正のたびに款項目を組み替えてExcelで突合する」という声が必ず出る。
自由回答で象徴的だったのは「月次決算時に概算で良いから速報数字を出せと言われて仮計上を行い、確定時にまた同じ作業をしなければならず、二度手間で時間もとられる」というもの。自治体でも、首長レク向けの速報と、議会向け確定値、外部公表用の整合数値を「3回作っている」現場は珍しくない。
ガバメントクラウド移行は3.7%しか終わっていない
当初、20の基幹業務システムは令和7年度末(2026年3月)までにガバメントクラウドへ移行することになっていた。実際には1,741自治体のうち全業務移行を完了したのは約3.7%。残りは「特定移行支援システム」(期限延長対象)あるいは通常の移行作業中で、関係する自治体は935団体にのぼる(デジタル庁/総務省 2026年公表)。財務会計・税・住民記録のように業務間連携が複雑なシステムほど移行が後ろ倒しになっており、「今期の標準化対応をしつつ、現行の財務会計も来年度予算編成で使う」という二重運用が日常化している。
追い打ちをかけているのが移行後の運用コストだ。中核市市長会の調査(2025年4月デジタル庁WG資料に引用)では、標準化移行後の運用経費は平均2.3倍。5割の自治体で2倍以上、1割は3倍超を見込む。国は令和7年度補正で「地方公共団体情報システム運用最適化支援事業」として700億円を措置したが、これは単年度の経過措置であり、中長期では各自治体が自前で吸収する前提だ。つまり、現場としては「移行が遅れている」だけでなく、「移行が終わると経費が膨らむ」というダブルパンチが見えている。
予算編成サイクルのどこで現場が詰まるか
自治体の予算編成は4月の前年度決算確定から始まる年間ループだ。情報収集→部内精査→財政方針→査定→議会、と工程が決まっているが、実務の負担が極端に偏るのは10〜1月の査定・補正・議会対応期。この時期、財政課には各課からExcelファイルが大量に届き、財政担当はそれを統合シートに転記、首長レクの修正指示で何度も差し戻し、最終的に議会説明資料と数字を一致させる、という作業が続く。
取材した中核市の例では、査定期の財政担当の月間残業は80〜120時間に達していた。多くは「集計の整合確認」と「指示反映の追跡」だ。これは人を増やしても直らない種類の仕事で、データ構造を変えない限り何人投入しても同じところで詰まる。
ふるさと納税の経費5割ルールが現場を直撃している
2025年10月から、ふるさと納税の「経費は寄附額の5割以内」というルールに、人件費・ワンストップ特例事務・受領証発行事務・決済手数料・ポータルサイト手数料までが明示的に算入対象として含まれることになった(総務省2024年6月通知)。これまで「返礼品調達3割/その他諸経費2割」とざっくり管理していた自治体は、従来は分計算上で見ていなかった人件費まで案件単位で按分する必要が出てきている。
一般社団法人ふるさと納税地域商社会の緊急調査では、改正による影響について35.5%が「事業継続・雇用に危機感」と回答した。岡山県総社市は2024年に経費按分の集計ミスを背景に指定取消(後に再指定)を受けており、もはや「Excel月末集計」では制度に追いつけない局面に来ているのが実情だ。
Excel依存はなぜ「もう一段」危ないのか
自治体の財政・経理現場でいま頻発しているExcelトラブルは、典型的に3つに分類できる。
(1) シートが返ってこない・違うものが返ってくる。各課に配ったテンプレに、列が追加されたり、関数が値貼り付けに変わって戻ってくる。財政担当はそれを手作業で再整形する。1件5分でも100枚あれば8時間。
(2) 野良マクロが時限爆弾化する。10年前の係長が組んだ集計マクロが、今の担当者にはブラックボックス。動かなくなった瞬間に、その業務が止まる。これはシャドーITの典型例で、組織として誰も保証できない処理が業務クリティカルパスに乗っている。
(3) 確定値と速報値の二重管理。速報用の暫定計上を後で確定値で上書きするが、上書き履歴が残らないため、年度末に「あの月の数字どっちが正だっけ」が必ず発生する。
共通するのは、「ファイル」を単位にデータを扱っていることが根本原因という点だ。データを「テーブル」として一元化し、変更履歴を持たせれば、3つの問題は同時に解ける。ガバクラ移行や財務会計システムの刷新を待つ必要はなく、既存のkintoneやBigQuery、Looker Studioを使えば、財務会計の手前のレイヤーから手を入れられる。
では、何から手をつけるか
当社(Aurant Technologies)が自治体・第三セクター・公益法人の経理現場に入って最初にやるのは、「タグ設計」と「ダッシュボード」の2点に絞っている。
タグ設計は、すべての伝票・案件に「資金源(一般会計/特別会計/ふるさと納税/補助金)×案件×用途」の3軸タグを付ける運用ルールを作ること。これがあると、5割ルールの按分も、補助金の実績報告も、議会向けの事業別集計も、同じ元データから自動で出る。
ダッシュボードは、Looker StudioやPower BIで、首長レク・議会説明・住民公表の3用途を1ソースから生成できる状態にすること。「3回作る問題」が解消するし、議会の追加質問にもその場で答えられる。
このあたりの設計と運用支援を、当社では「予実管理BIダッシュボード × 業務伴走」というサービスでまとめている。詳しくは以下のページに、サービス概要・対象組織・タグ管理ルール・導入5ステップ・ダッシュボード実画面まで載せている。
SERVICE / 関連ページ
自治体・第三セクター向け 予実管理BIダッシュボード
ふるさと納税の5割ルール対応、補正予算の即時シミュレーション、議会説明資料の自動生成までを1つのデータ基盤でカバー。タグ設計・記帳代行・伴走支援込み。
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参照した一次資料
- 総務省「地方公共団体定員管理調査」(令和7年4月1日現在 280万9,298人)
- 総務省「令和8年版 地方財政白書」(2026年3月公表)
- デジタル庁/総務省「地方公共団体情報システムの標準化・ガバメントクラウド」資料(2026年2月 地方財政審議会提出)
- 中核市市長会 標準化対応調査(デジタル庁 第3回WG資料 2025年4月23日 引用)
- 総務省 報道資料「ふるさと納税の次期指定に向けた見直し」(2024年6月)
- 経理プラス「経理職アンケート調査2025」(株式会社ラクス、2025年7月、n=106)
- 一般社団法人ふるさと納税地域商社会「制度見直しに関する緊急調査」