飲食チェーンのfreee人事労務活用|シフトと残業申請の店舗別運用設計

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多店舗展開する飲食チェーンにおいて、労務管理のデジタル化は避けて通れない課題です。特に「店舗ごとに異なるシフト作成」「現場での残業申請」「他店舗への応援勤務」といった複雑な運用を、どのようにSaaS上で再現し、かつ本部の給与計算までシームレスに繋げるかが鍵となります。

本記事では、freee人事労務を中核に据え、飲食現場の実務に即したシフト管理と残業申請の「店舗別運用」を具体的に解説します。単なる機能紹介ではなく、IT実務担当者が直面する権限設計やデータ連携のアーキテクチャについて、公式ドキュメントの仕様に基づいた設計指針を示します。

1. 飲食チェーンにおけるfreee人事労務運用の全体像

飲食業の労務管理をfreee人事労務で構築する場合、まず「どこまでをfreeeで行い、どこからを現場に任せるか」という責務分解を明確にする必要があります。

1.1 店舗別運用で解決すべき3つの壁(シフト・残業・応援)

多くの飲食チェーンが直面する課題は以下の3点に集約されます。

  • シフトの複雑性: 24時間営業やランチ・ディナーの二回転など、従業員ごとに不規則なシフトが発生する。
  • 残業の不透明性: 現場の判断で残業が発生し、事後報告が常態化。36協定の遵守が困難になる。
  • 応援(ヘルプ)勤務: A店のスタッフがB店で勤務した際、労働時間をどの店舗の原価として計上するか。

1.2 本部統制と現場の柔軟性を両立する設計思想

freee人事労務の運用設計では、「権限管理」が最も重要です。店長には自店舗のスタッフの勤怠承認権限を与えつつ、他店舗の時給情報や個人情報(住所・マイナンバー等)は閲覧できないよう、カスタム権限を設計します。これにより、現場に運用を委譲しつつ、本部のガバナンスを維持します。

2. 店舗別シフト作成と管理の実務フロー

freee人事労務でシフト管理を行う場合、主に「基本勤務パターン」の割り当てか、CSVによる「シフトインポート」を利用します。しかし、飲食現場の細かい希望シフト回収まで行うには、外部ツールとの組み合わせが現実的な解となるケースが多いです。

2.1 freee人事労務の標準機能によるシフト管理の限界と活用法

freee人事労務の標準機能では、従業員ごとに「勤務スケジュール」を設定できます。曜日ごとの固定シフトであればこれだけで十分ですが、日ごとに異なる場合は、以下の手順で運用します。

  1. 勤務パターンの作成: 「早番(9:00-15:00)」「遅番(17:00-23:00)」などのパターンを事前に登録。
  2. 従業員への割り当て: 各従業員の勤怠カレンダーに対し、日別にパターンを選択して適用。

ただし、freee標準機能には「時間帯別の必要人数の可視化」や「人件費予算との対照」機能は備わっていません。これらを重視する場合は、専用のシフト管理ソフトを検討すべきです。

関連して、バックオフィス全体のコスト最適化を検討されている方は、こちらの記事も参考にしてください。

SaaSコストを削減。フロントオフィス&コミュニケーションツールの「標的」と現実的剥がし方【前編】

2.2 外部シフト管理ツールとの役割分担(API連携の判断基準)

「Airシフト」や「シフオプ」などの外部ツールを利用する場合、「どちらをマスター(正解)にするか」を決定しなければなりません。一般的には「外部ツールでシフトを作成し、確定した勤怠実績をfreee人事労務へAPI経由で流し込む」というアーキテクチャが推奨されます。これにより、現場の利便性と会計・給与の正確性を両立できます。

3. 「残業申請」の店舗別ワークフロー構築

飲食現場では「忙しくて打刻を忘れた」「気づいたら残業していた」という事態が頻発します。これを防ぐには、freee人事労務の「申請・承認ワークフロー」を店舗単位で構築することが不可欠です。

3.1 事前申請を形骸化させない承認ルートの設定

freee人事労務では、従業員がスマホアプリから残業申請を行うことができます。運用上のポイントは、承認ルートを「従業員 → 店長(一次承認) → エリアマネージャー(最終承認)」のように階層化することです。店長が自分のシフト調整ミスを隠蔽するために残業を認める、といった不正を防ぐ効果があります。

3.2 飲食現場で発生しやすい「休憩未取得」と「不一致」の解消法

飲食業では、客入りの状況によって休憩が分割されたり、取れなかったりすることがあります。freeeの打刻機能では「中抜け」の設定が可能ですが、実態と乖離しやすいのが難点です。
設定手順としては:

  • 管理画面の「勤怠設定」にて、所定労働時間を超えた場合に自動で休憩を差し引く設定をオフにする(実打刻を優先)。
  • 休憩不足が発生した際、アラートが出るように通知設定を行う。

3.3 スマホアプリを用いた現場完結型の申請手順

従業員は自身のスマートフォンにfreee人事労務アプリをインストールし、以下の手順で申請を行います。

  1. アプリの「申請」メニューから「残業申請」を選択。
  2. 残業が必要な理由(例:急な団体客の来店)と予定終了時間を入力。
  3. 店長へプッシュ通知が飛び、店長はその場で承認。

この「手軽さ」が、現場の運用定着には欠かせません。

給与計算と会計の連動性については、以下の詳細解説が非常に役立ちます。

【完全版】給与ソフトからfreee会計への「部門別配賦」と仕訳連携。労務と経理の分断を解決するアーキテクチャ

4. 飲食特有の「他店舗ヘルプ」と「部門別計上」の処理

A店のスタッフがB店に応援に行った場合、給与はスタッフの所属(A店)から支払われますが、管理会計上はB店の人件費として計上したいはずです。これを実現するには、freee人事労務の「部門」と「勤務場所」の概念を使い分けます。

4.1 応援勤務時の打刻と所属部門の紐付け

freee人事労務の打刻時、オプションで「勤務場所」を選択させることが可能です。

  • 設定: 店舗ごとに「部門」を作成し、各従業員に主所属部門を設定。
  • 運用: ヘルプ勤務時、打刻画面で「他店舗」を選択。
  • 集計: 月末の勤怠データ出力時に、勤務場所別の労働時間を集計し、freee会計への連携時に部門別の配賦仕訳を生成する。

このデータ連携を自動化することで、店舗別の損益管理(P/L)の精度が劇的に向上します。

5. 【比較表】freee人事労務 vs 外部シフト管理ツール

飲食チェーンの規模や求める管理レベルに応じて、freee単体で行くか、外部ツールを組み合わせるかの判断が必要です。以下の表に主要な比較軸をまとめました。

比較項目 freee人事労務(単体) Airシフト / シフオプ等(外部連携)
シフト作成の利便性 △ 基本パターンの繰り返し向き。複雑な日替わりシフトは手間。 ◎ スタッフからの希望収集、チャット連絡、自動割付が可能。
人件費シミュレーション × 標準機能では不可。 ◎ シフト作成時点で概算人件費を可視化可能。
打刻・勤怠承認 ◎ スマホ、PC、タブレット、Slack等で完結。 ○ ツール内で完結し、freeeへ実績を流し込む。
コスト(目安) 基本料金 + 従業員ごとの課金。追加費用なし。 freeeの費用 + 各ツールの月額費用(1店舗数千円〜)。
データの正確性 ◎ 給与計算に直接反映されるため極めて高い。 ○ API連携の設定により、稀に同期エラーの監視が必要。

※料金の詳細は各サービスの公式ページ(freee人事労務料金プラン等)をご確認ください。

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飲食チェーン 労務処理ケース別 freee人事労務 設定ポイント × 注意点 早見表

前のセクションで「他店舗ヘルプ」と「部門別計上」の処理方法を解説しましたが、飲食チェーンにはこの2点以外にも、一般的な企業では発生しにくい特有の労務処理ケースが複数あります。これらを事前に整理してfreeeの設定に反映しておかないと、月次の給与計算で毎回手修正が発生します。以下の表は、飲食チェーンで頻出する労務処理ケースごとのfreee設定ポイントをまとめたものです。

労務処理ケース 飲食チェーン特有の複雑さ freeeでの設定ポイント 注意点・落とし穴
深夜割増・時間外割増の計算
(アルバイトへの適用)
22時〜翌5時の深夜割増(25%増)と法定外残業の割増が重複するケースが多い。飲食店はランチ・ディナーのスプリットシフトで1日の勤務が分断されるため、拘束時間の計算が複雑 freeeの勤怠設定で深夜時間帯(22:00〜5:00)を自動割増計算する設定を有効化する。スプリットシフトは1日の拘束時間ではなく「実働時間」で残業計算するようfreeeの勤怠ルールを設定 フレックスタイム制を採用している場合はfreeeのフレックス設定が必要。深夜と時間外が重複する時間帯の計算式(どちらが優先されるか)は労働協約で明確にしてからfreeeに設定する
学生アルバイトの社会保険加入判定
(週労働時間管理)
繁忙期(クリスマス・年末年始)に週30時間以上働かせると社会保険加入が必要になる閾値を超えるケースがある。複数店舗をかけ持ちするアルバイトの合計労働時間管理が困難 freeeの「従業員種別」設定でアルバイトを学生・非学生で区分管理する。週労働時間の上限アラート機能(freeeではカスタム設定が必要)を設定して、閾値超えを自動検知できるよう管理 複数店舗かけ持ちは本部のfreeeで統合管理することが必要。店舗ごとに別々のfreeeアカウントを使っている場合は、本部側で合算した労働時間を確認する手動チェックフローを必ず設ける
食事・交通費等の現物給与処理
(賄い食・制服等)
賄い食の現物支給は給与所得として課税対象になるケースがある(月3,500円超の場合)。交通費の上限設定と実費精算の混在管理 freeeの「給与項目設定」で「課税現物支給(賄い)」の項目を追加して月次自動計上するよう設定。交通費は「非課税交通費(限度額内)」と「課税交通費(限度額超過分)」を別項目で管理する 賄い食の課税判定は「食事の価額の50%以上が自己負担」または「月3,500円以下」の条件を両方満たす場合は非課税。税理士・社労士との確認が必要。freeeの設定ミスで毎月の課税計算が狂うリスクがある
採用時の雇用契約書・労働条件通知書
(大量発行・バイト管理)
飲食チェーンは毎月数十〜数百名のアルバイト採用がある。紙で雇用契約書を作成・押印・保管する工数が膨大。雇用期間の更新管理(試用期間・契約更新)も複雑 freeeの「雇用契約書テンプレート」機能で店舗・雇用形態・時給パターン別のテンプレートを作成して大量発行に対応。SmartHR等の電子締結ツールと組み合わせてスマホで完結させる設計が最も効率的 雇用契約書はfreeeの標準テンプレートだけでは飲食特有の条件(賄い・交通費・制服貸与等)を網羅できないことがある。初回は社労士にレビューを依頼してテンプレートを整備してから量産体制に入る
退職・離職票発行
(高離職率への対応)
飲食業の離職率は全産業平均を大幅に上回ることが多く、月次で複数名の退職処理が発生する。離職票の記載内容(退職理由コード)の誤りでハローワーク手続きが遅延するケースがある freeeの「退職手続きフロー」機能を使い、退職申告から離職票発行・社会保険喪失届・源泉徴収票発行までを一連のワークフローで管理する。退職理由コードはfreeeの選択肢から選ぶ形式を徹底 退職理由コードを誤って「会社都合」にすると雇用保険の給付日数が変わり、後からの訂正が手続き的に困難になる。店長が現場判断でfreeeに入力する前に人事担当者が確認するフローを設ける

この表で最も対応コストが大きいのが「採用時の雇用契約書大量発行」です。月50〜100名採用規模の飲食チェーンでは、紙の雇用契約書管理だけで専任スタッフが必要になります。freeeのテンプレート機能とSmartHRまたはfreee電子サインを組み合わせた「採用→雇用契約→勤怠登録」の一気通貫デジタルフローの構築を最優先の投資として位置付けることを推奨します。

6. 店舗導入時に必ず突き当たるエラーと対処法

システムを導入しても、現場が正しく使えなければ意味がありません。よくあるトラブルとその解決策をまとめました。

6.1 打刻の重複・漏れが発生した際の修正フロー

「出勤打刻を2回押してしまった」「退勤を忘れた」というミスは毎日発生します。
対処法:

  • 店長に「勤怠編集権限」を付与し、その日のうちに店長が修正する運用を徹底する。
  • 本部の労務担当者は、締め日前に「未承認の申請」や「打刻エラー」を一覧抽出し、未完了の店舗へ一括催促を行う。

6.2 権限設定ミスによる個人情報漏洩の防止策

店舗別運用の最大の懸念は、店長が全社の給与データを見てしまうことです。
対処法:

  • 「カスタム権限」を利用し、閲覧範囲を「自身の所属部門のみ」に制限する。
  • 「給与情報の閲覧」チェックボックスを必ずオフにする。
  • 新しい店長が着任した際は、本部がアカウントを発行し、権限付与までをセットで行う。

SaaSのアカウント管理や退職時の削除漏れ対策については、こちらのアーキテクチャが参考になります。

SaaS増えすぎ問題と退職者のアカウント削除漏れを防ぐ。Entra ID・Okta・ジョーシスを活用した自動化アーキテクチャ

7. まとめ:持続可能な店舗労務のアーキテクチャ

飲食チェーンにおけるfreee人事労務の運用は、現場の「使いやすさ」と本部の「管理精度」のバランスをどこに置くかで決まります。

まずはfreeeの標準機能を使い倒し、スマホでの打刻と申請フローを定着させることから始めましょう。その上で、シフト作成の工数削減や詳細な人件費管理が必要になった段階で、外部のシフト管理ツールとのAPI連携へ拡張するのが、失敗の少ないステップアップです。

本記事で紹介した部門別管理や権限設計を土台に、アナログな紙の管理から脱却し、攻めの店舗経営を実現してください。

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aurant technologies 編集

上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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