士業事務所のfreee工数管理活用|案件ステージ別工数とタイムチャージ請求の連携
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公認会計士、税理士、弁護士、社会保険労務士などの士業事務所において、「どの案件に、誰が、どれだけの時間を費やしたか」を正確に把握することは、経営の生命線です。しかし、多くの事務所では、顧問料は月額固定でありながら、実態としての作業工数は肥大化し、実質的な時間単価が最低賃金を割り込んでいるケースが少なくありません。
また、コンサルタント業務や法務案件など「タイムチャージ(時間制請求)」を基本とする業務においても、工数集計から請求書発行までのプロセスがアナログであるがゆえに、請求漏れや計算ミスが発生しています。
本記事では、freee工数管理を用いて、士業特有の「案件ステージ」に沿った工数集計を行い、それをいかに効率的にタイムチャージ請求へつなげるかという実務上の概念と手順を解説します。
士業における工数管理の重要性と「案件ステージ」の概念
士業の業務は大きく分けて「継続案件(顧問契約)」と「スポット案件(申告、登記、助成金申請など)」に分類されます。これらを同一の管理画面で混在させると、正確な収益性は見えてきません。
なぜ「ステージ別」の管理が必要なのか
士業の業務は、受注してすぐに終わるものではありません。例えば税務調査対応であれば、「事前準備」「実地調査」「修正申告作成」「完了」といった複数のフェーズを辿ります。工数管理において重要なのは、「今、どのフェーズでコスト(人件費)が過剰に発生しているか」を特定することです。
案件ステージを定義することで、以下のメリットを享受できます:
- 見積精度の向上:「レビュー」段階で予想以上に時間がかかっていることが分かれば、次回の見積単価や人員配置を修正できます。
- 仕掛品の把握:決算期において、まだ請求に至っていない「仕掛中」の工数を金額換算し、資産(あるいは未収収益の根拠)として把握できます。
- 請求タイミングの最適化:「完了」ステージに移行した案件を自動的に抽出し、翌月の請求リストに反映させるフローが構築できます。
こうした経営判断の基礎となるデータを構築するためには、バックオフィス全体のアーキテクチャが重要です。特に経理業務との親和性を考慮する場合、freee会計導入マニュアル|旧ソフト移行ガイドでも触れている通り、初期のタグ設計やプロジェクト設計がその後の運用を左右します。
freee工数管理を活用した士業向けプロジェクト設計モデル
freee工数管理(旧:freeeプロジェクト管理)は、freee会計とシームレスに連携できる工数入力・管理ツールです。士業事務所が導入する際、最初に行うべきは「プロジェクト」と「タスク」の階層設計です。
1. 顧問契約(継続型)の設計
月額顧問料を受け取っている案件は、年度ごとにプロジェクトを作成するのが一般的です。
例:[2024年度] 株式会社〇〇 顧問業務
タスクには「月次監査」「電話・メール対応」「給与計算」などを設定します。これにより、「顧問料に対して工数がオーバーしていないか」を月単位でモニタリングします。
2. スポット・コンサル(完了型)の設計
案件ごとにプロジェクトを作成します。
例:【相続】▲▲様 相続税申告案件
ここで重要になるのが「案件ステージ」の活用です。freee工数管理にはステータス管理機能があり、案件の進捗に合わせてステージを遷移させることができます。
| ステージ名 | 主なタスク内容 | 請求・会計上の扱い |
|---|---|---|
| 未着手・準備中 | 資料収集、キックオフ準備 | 原価発生前(工数入力開始) |
| 実行・実務中 | 申告書作成、書類精査、訪問 | 仕掛品(タイムチャージ対象工数の蓄積) |
| レビュー・修正 | 上長確認、クライアント修正対応 | 最終的な工数確定 |
| 完了・請求待ち | 納品完了、請求書発行指示 | 請求書発行(工数×単価の反映) |
タイムチャージ請求を実現する「工数×単価」のロジック
タイムチャージ請求を正確に行うためには、各メンバーに「標準単価(チャージレート)」を設定しておく必要があります。例えば、パートナーは 30,000円/h、スタッフは 10,000円/h といった具合です。
freee工数管理での単価設定
freee工数管理の設定画面から、ユーザーごとに「コスト単価」と「販売単価」を設定できます。
(参照:freeeプロジェクト管理 ヘルプセンター)
- コスト単価:給与や社会保険料、経費を含めた事務所側の原価。収益性分析に使用。
- 販売単価:顧客に請求する際の時間単価。タイムチャージ請求の計算に使用。
多くの士業事務所では、この「販売単価」がブラックボックス化しています。工数管理ツールを導入することで、「この案件にはスタッフが10時間、パートナーが2時間費やしたため、合計で〇〇円の請求になる」という根拠を明確に示せるようになります。これは顧客に対する信頼性の向上にもつながります。
【実務手順】freee工数管理からfreee会計請求書へのデータ連携
集計した工数をどのように請求書へ落とし込むか。手入力ではミスが発生するため、以下のステップで連携を自動化、または半自動化します。
Step 1:工数データの承認と確定
月末などの締め日に、各メンバーが入力した工数を管理者が承認します。freee工数管理では、承認済みのデータのみをレポート出力の対象にできます。
Step 2:レポートの出力(CSVエクスポート)
「工数一覧」レポートから、プロジェクト別・メンバー別の工数データを出力します。この際、前述した「販売単価」と掛け合わせた「請求予定額」を算出します。
Step 3:freee会計への取り込み(請求書発行)
現在、freee工数管理からfreee会計の「請求書作成」へ直接ボタン一つでデータを飛ばす機能は限定的ですが、CSV経由でのインポート、またはAPI連携によって自動化が可能です。
ここで、もし経理全体の効率化を目指すのであれば、他のSaaSとの連携も視野に入れるべきです。例えば、楽楽精算×freee会計の「CSV手作業」を滅ぼすといった記事で紹介しているような、データの自動連携思想を持つことで、士業事務所のバックオフィスは劇的に軽くなります。
主要な工数管理ツールとの比較
士業が工数管理ツールを選ぶ際、freee工数管理以外にも選択肢があります。実名での比較表を以下に示します。
| ツール名 | 特徴 | 士業へのメリット | 料金目安(公式確認推奨) |
|---|---|---|---|
| freee工数管理 | freee会計との高い親和性。UIが直感的。 | 会計ソフトのプロジェクトタグと連動し、収益可視化が容易。 | 1ID 1,500円〜/月 |
| TeamSpirit | 勤怠・工数・経費精算の一体型。Salesforce基盤。 | 内部統制を重視する大規模法人向け。 | 1ID 600円〜/月(+初期費用) |
| CrowdLog | カレンダー連携(Google/Outlook)が強力。 | 入力負荷を最小限にしたい忙しい士業に最適。 | 個別見積もり |
| マネーフォワード クラウド個別原価 | MF会計利用者向けの原価計算・工数管理。 | MFユーザーであれば連携がスムーズ。 | 基本料金+1ID 500円〜/月 |
※料金はプランや時期により変動するため、必ず各社の公式料金ページをご確認ください。
士業業種別 × タイムチャージ設定の特性 × freee工数管理のポイント × 請求書への反映設計 早見表
前のセクションでfreeeの時間単価設定とプロジェクト管理ツールとの連携方法を説明しましたが、士業業種によってタイムチャージの計算単位・請求書への記載方法・非請求時間(移動・研究等)の扱いが異なります。税理士事務所に最適化されたタイムチャージ設計を弁護士事務所にそのまま適用すると、裁判所や相手方との交渉時間の計上方法が合わないケースが出てきます。以下の表は士業業種別のfreee工数管理設計をまとめたものです。
| 士業業種 | タイムチャージの計算単位と相場 | freeeプロジェクト設定のポイント | 非請求時間の扱い | 請求書への工数明細反映設計 |
|---|---|---|---|---|
| 税理士・会計士 (顧問・申告型) |
月次顧問料は定額が多いが、スポット相談・決算対応は時間単価1万〜3万円/時間で計算する事務所が増加している。記帳代行は月次定額、税務相談はタイムチャージという混在モデルが典型 | freeeのプロジェクトを「顧問先企業名×業務種別(月次/決算/相談)」で作成する。月次定額案件はプロジェクト予算を月次顧問料に固定しておくことで、担当者の投入工数が予算を超えた場合に管理者がアラートを受け取れる設定にする | 税法・判例の調査時間は原則非請求とする事務所が多い。freeeのタスクに「請求対象」フラグを設けて、調査時間は記録しつつ請求合計から自動除外する設計が月次工数レポートの精度向上に寄与する | 顧問先への請求書は「顧問料(月次固定)+追加相談○時間×単価」という形式が一般的。freeeの請求書テンプレートで「基本料金」と「追加工数(時間×単価)」を別明細行に分けて表示する設定を雛形化しておく |
| 弁護士・司法書士 (案件受任型) |
着手金+報酬という固定費モデルが主流だが、企業法務・顧問契約ではタイムチャージ(3万〜6万円/時間)が増加している。弁護士法人は複数弁護士が1案件に関与するため、担当者別の工数管理が重要 | freeeプロジェクトを「案件番号×依頼者名」で作成し、同一案件に複数担当者をアサインする設定にする。案件フェーズ(相談受付→調査→交渉→解決)をfreeeのタスクカテゴリに設定して、フェーズ別の工数を可視化する | 法廷出廷・交渉の待機時間は半額請求または非請求とする運用ルールが多い。freeeのタスクに「請求割合(100%/50%/0%)」のカスタム項目を設けて、待機時間を正確に記録しつつ請求計算に反映する設計が必要 | 依頼者への費用明細は「着手金(固定)+実費(交通・登記費用)+タイムチャージ分(○時間×単価)」という3区分が明瞭。freeeの品目マスタに「着手金」「実費」「弁護士費用(時間)」を作成して請求書テンプレートを雛形化する |
| 社会保険労務士 (顧問・手続き代行型) |
月次顧問料は従業員数×単価(2,000〜5,000円/人)が多く、タイムチャージより従量課金モデルが一般的。ただし労使紛争対応・就業規則作成等のスポット業務はタイムチャージ(1万〜2万円/時間)を設定する事務所が増えている | freeeプロジェクトを「顧問先企業名」で作成し、月次定型業務(給与計算・社会保険手続き)と非定型業務(紛争対応・コンサル)を別タスクカテゴリで管理する。従業員数が変動した月は顧問料の計算根拠をfreeeプロジェクトのメモ欄に記録しておく | 給与計算ソフトとのデータ連携確認作業・行政機関への往復時間は非請求とする事務所が多い。ただし複雑な案件では移動時間を請求する場合もあり、顧問契約書に非請求時間の範囲を明記しておくことがトラブル防止になる | 月次請求書は「顧問料(従業員×単価)+手続き代行費(件数×単価)+スポット相談費用」の3行構成が分かりやすい。freeeで従業員数カスタム項目の値を請求書の品目数量に自動反映する設定を組むと月次請求書の作成時間を大幅に短縮できる |
| 行政書士 (許認可・申請代行型) |
許認可申請は申請種別ごとの固定報酬(建設業許可新規:15〜25万円等)が標準。申請書類作成の工数はばらつきが大きいため、実際の工数をfreeeで記録して次回の見積もり精度向上に活用する運用が有効 | freeeプロジェクトを「依頼者名×申請種別」で作成し、書類収集・作成・申請・受領というフェーズ別タスクで工数を記録する。過去案件の工数データを蓄積することで、同種申請の見積もり精度が向上する | 申請書類の調査・法令確認は非請求が多いが、特殊許認可(産廃・風営法等)は調査工数が多いためコンサル料として別途請求するケースもある。freeeで調査工数を別カテゴリで記録して、案件別の採算性を分析することが値上げ判断の根拠になる | 依頼者への請求は「申請代行報酬(固定)+実費(申請手数料・交通費)」という2区分が基本。freeeの品目マスタに申請種別ごとの基本報酬を登録しておくことで、新規依頼時に品目を選択するだけで見積書・請求書を即時作成できる |
この表で最も工数管理のROIが高い改善が「弁護士・司法書士事務所の案件フェーズ別工数の可視化」です。複数弁護士が1案件に関与する企業法務では、「誰がどのフェーズに何時間使ったか」が見えないまま案件収益性を把握できていない事務所が多くあります。freeeプロジェクトでフェーズ別タスクを設定して担当者別に工数を記録するだけで、案件別採算性のレポートが自動生成でき、次回の着手金・タイムチャージ単価の見直し根拠となるデータが蓄積されます。
運用でよくあるトラブルと解決策
工数管理を導入しても、正しく運用されなければ意味がありません。特に「士業の先生方が入力してくれない」という問題は多くの事務所が直面します。
1. 「工数入力が続かない」を解決する
原因は「入力項目が細かすぎること」です。「1分単位で入力しろ」というルールは必ず破綻します。
対策:15分または30分単位での入力を許容し、ブラウザの拡張機能やスマホアプリを活用して「その場ですぐ入力」できる環境を整えます。
2. 請求漏れを防ぐ「ステージ完了」の定義
「仕事は終わったのに、請求書の発行指示を忘れていた」というミスを防ぐには、freee工数管理のステージを「完了(請求待ち)」に変更したタイミングで、SlackやChatworkに通知が飛ぶよう設定するのが有効です。
もし、こうしたSaaS間の連携や独自の業務アプリ構築が必要な場合は、Excelと紙の限界を突破する「Google Workspace × AppSheet」業務DX完全ガイドで解説しているようなノーコードツールを組み合わせることで、低コストでカスタム通知システムを構築できます。
まとめ:収益性の可視化が事務所の未来を決める
士業事務所にとって、時間は「在庫」そのものです。freee工数管理を導入し、案件ステージごとに工数を把握することは、単なる請求事務の効率化に留まりません。それは、事務所としての真の強みを理解し、どの顧客、どの業務にリソースを集中すべきかを決定するための「経営の羅針盤」を手に入れることを意味します。
まずは、現在の主要な5つの案件から「ステージ別工数管理」をスモールスタートさせてみてください。蓄積されたデータが、次年度の価格改定や採用計画の確かな根拠となるはずです。
経理・会計DXと仕訳/請求/債権自動化のご相談
仕訳・請求・入金消込・債権管理といった経理業務の自動化と、会計データの可視化までを一気通貫で支援します。ツール選定や既存運用の見直しについて、導入前後のセカンドオピニオンとしてもご相談いただけます。