Amazon Bedrock と Vertex AI を比較|マルチLLM基盤の選び方(PoC〜本番)

この記事をシェア:
目次 クリックで開く

生成AIのビジネス活用が「実験」から「実務」へと移行する中で、最も重要な意思決定の一つが「どの生成AI基盤を採用するか」です。現在、その双璧を成すのがAWSのAmazon Bedrockと、Google CloudのVertex AIです。

特定のLLM(大規模言語モデル)をAPI経由で呼び出すだけの段階は終わり、現在は自社データとの連携(RAG)、セキュリティガバナンス、そしてコストの最適化を考慮したプラットフォーム選定が求められています。本記事では、IT実務担当者の視点から、両サービスを徹底的に比較し、PoCから本番環境への移行を見据えた選び方を詳解します。

Amazon Bedrock と Vertex AI の本質的な違い

両者は「マネージドな生成AIプラットフォーム」という点では共通していますが、その設計思想と得意領域には明確な差異があります。

AWS Bedrock:モデルの「調達」と「サーバーレス統合」に特化

Amazon Bedrockの最大の特徴は、インフラの管理を一切意識させないサーバーレスな体験です。AWSは自社モデル「Titan」も提供していますが、それ以上にAnthropic社の「Claude」シリーズなど、サードパーティの最高性能モデルをセキュアに提供することに主眼を置いています。既存のAWS環境(S3、Lambda、IAM)との親和性が極めて高く、AWSエンジニアにとっては「いつものAWSリソース」として生成AIを扱えるのが強みです。

Google Cloud Vertex AI:データサイエンスと「Geminiネイティブ」なプラットフォーム

Vertex AIは、生成AI以前から提供されていた包括的な機械学習プラットフォームの一部です。Googleの最新モデル「Gemini」を中核に据え、マルチモーダル(テキスト、画像、動画、音声)の処理能力に圧倒的な強みを持ちます。また、BigQueryとのシームレスな連携により、データウェアハウス内のデータをそのままAIの入力に活用できる「データ基盤としての統合力」が特徴です。

【徹底比較】Amazon Bedrock vs Vertex AI 性能・仕様一覧

実務で重要となる主要項目を比較表にまとめました。数値や仕様は、各社公式ドキュメント(AWS Bedrock公式 / Google Cloud Vertex AI公式)に基づいています。

比較項目 Amazon Bedrock Vertex AI (Model Garden)
主要モデル Claude 3.5/3, Llama 3.1, Mistral, Titan, Jurassic-2 Gemini 1.5 Pro/Flash, Llama 3.1, Mistral, Gemma, PaLM 2
得意な処理 Claudeによる高度な推論、文書要約 Geminiによる超長文入力(2Mトークン)、マルチモーダル解析
RAG実装機能 Knowledge Bases for Amazon Bedrock Vertex AI Search and Conversation
インフラ連携 S3, Lambda, OpenSearch, IAM BigQuery, Cloud Storage, Vertex AI Feature Store
料金モデル トークン従量課金、プロビジョンドスループット トークン従量課金(文字数ベースのモデルもあり)
セキュリティ VPCエンドポイント、AWS KMS、ガバナンスガードレール VPC Service Controls、Customer-Managed Encryption Keys

対応LLMモデル(Claude vs Gemini vs Llama)

モデル選定は、プロジェクトの成否を分ける最も重要な要素です。Bedrockを利用する最大の動機は、現時点で推論能力・日本語性能ともに最高峰とされるClaude 3.5 Sonnetを利用できる点にあります。一方、Vertex AIは、200万トークンという圧倒的なコンテキストウィンドウを持つGemini 1.5 Proを利用でき、大量のドキュメントや動画ファイルを一度に読み込ませる用途で他を寄せ付けません。

また、両者ともMetaの「Llama 3.1」などのオープンモデルをサポートしており、マルチモデルの冗長化構成を組むことが容易になっています。

インフラ連携とデータセキュリティ

実務上、セキュリティは譲れない一線です。どちらのサービスも「入力したデータはモデルの学習に使われない」ことを公式に明言しています。しかし、権限管理の面では使い勝手が異なります。

  • Bedrock: IAMロールによる厳格なアクセス制御が可能です。既存のシステムがAWS上で動いている場合、VPC内からインターネットを経由せずにAPIを叩く構成がスムーズに構築できます。
  • Vertex AI: Google Cloudの組織(Organization)単位でのガバナンスが強力です。特に、BigQueryとリバースETLで構築するデータ基盤を既に運用している場合、分析用データをそのままAIに流し込めるメリットは計り知れません。

PoC(概念実証)から本番導入までの選定基準

「どちらが優れているか」ではなく、「どちらが自社のユースケースに適しているか」で選ぶべきです。以下の3つのシナリオで判断してください。

シナリオ1:既存のAWSリソースと企業データを活用したい場合

既にS3に大量の社内ドキュメントが蓄積されており、それを元にRAG(検索拡張生成)チャットボットを作りたい場合は、Amazon Bedrockが第一候補です。「Knowledge Bases for Amazon Bedrock」を使用すれば、S3を指定するだけでベクトル化からOpenSearchへの格納、RAGのパイプライン構築までを数クリックで完了できます。

シナリオ2:マルチモーダルな処理(画像・動画解析)を高速化したい場合

YouTube動画の内容を要約したり、大量の画像から特定のメタデータを抽出したりする業務には、Vertex AI (Gemini)が圧倒的に有利です。Geminiはネイティブでマルチモーダル設計されており、画像とテキストを同一のトークン空間で処理するため、精度と速度のバランスが優れています。

シナリオ3:自社データによるモデルの微調整(Fine-tuning)を重視する場合

特定の業界用語や社内ルールに特化した回答をさせたい場合、Fine-tuning(ファインチューニング)が必要になります。Vertex AIは「Vertex AI Pipelines」などのMLOpsツールが充実しており、学習データの準備から評価、デプロイまでのライフサイクル管理を高度に行いたいエンジニア向けです。Bedrockもファインチューニングに対応していますが、サポートされているモデル(Meta Llama 2, Cohere等)が限定的である点に注意が必要です。

なお、バックオフィスのDX推進において、AI活用と並行して検討すべきなのが既存SaaSの整理です。SaaSコストとオンプレ負債を断つためのアーキテクチャ設計を疎かにすると、AI導入による生産性向上分がシステム維持費で相殺されてしまうリスクがあります。

実務者が直面する実装のステップとよくあるエラー

Bedrock:モデルアクセスの有効化とIAMポリシーの設定

Bedrockは契約後すぐに全モデルが使えるわけではありません。以下の手順が必要です。

  1. AWSコンソールの「Model access」画面から、使用したいモデル(Claude 3.5等)の利用リクエストを送信する(通常、数分で承認されます)。
  2. IAMユーザー/ロールに AmazonBedrockFullAccess または特定のモデル実行権限(bedrock:InvokeModel)を付与する。
  3. SDK(Boto3等)から modelId を指定してリクエストを投げる。

よくあるエラー: AccessDeniedException

これはモデルアクセスが有効になっていないか、IAM権限が不足している場合に発生します。また、東京リージョン(ap-northeast-1)で一部の最新モデルが未提供の場合、リージョンを us-east-1(バージニア北部)に切り替えて検証する必要があります。

Vertex AI:プロジェクト設定とAPIの有効化

Google Cloudでは、まずAPIの有効化が必須です。

  1. Google Cloud Consoleで Vertex AI API を有効にする。
  2. 「Model Garden」から使用するモデルを選択し、APIエンドポイントを作成する。
  3. サービスアカウントを作成し、Vertex AI User 権限を付与してキー(またはADC)で認証する。

よくあるエラー: 429 Resource exhausted

これはクォータ(割当量)不足です。特に最新のGeminiモデルは、初期状態での1分間あたりのリクエスト数(RPM)やトークン数(TPM)が低く設定されているため、本番導入前には必ずクォータ引き上げ申請を行う必要があります。

生成AI基盤の「次」に来るデータアーキテクチャの重要性

生成AIの基盤を選定した後に直面するのが、「AIに渡すデータの鮮度と精度」の問題です。どれほど高性能なLLMを導入しても、入力となるデータが古かったり、分断されていたりすれば、出力は期待外れなものになります。

例えば、カスタマーサポートの自動化にAIを使う場合、顧客の最新の購買履歴や契約状況がリアルタイムにAIへ供給される必要があります。ここで、SFA・CRM・MA・Webのデータ連携全体設計図が重要になります。データがサイロ化された状態では、AIは「一般的な回答」しかできず、真の業務効率化には繋がりません。

管理コストを抑えるための「サーバーレス」な運用設計

これからのIT実務担当者には、AIモデルそのものの管理だけでなく、周辺システムを含めた「運用コストの最小化」が求められます。BedrockやVertex AIのようなフルマネージドサービスを採用する最大のメリットは、OSのパッチ当てやスケーリングの管理から解放されることです。

この考え方は、会計や経理といったバックオフィスの自動化にも共通します。「CSV手作業」を滅ぼすアーキテクチャを構築するように、AI基盤も可能な限り手作業を排除し、APIベースの自動連携を前提に設計することが、数年後の「負債化」を防ぐ唯一の道です。

まとめ:どちらを選ぶべきか?

結論として、以下のような指針で選定することをお勧めします。

  • Amazon Bedrockを選ぶべきケース
    • 既存インフラがAWSで完結している。
    • Claude 3.5の高度な推論能力を最大限に活用したい。
    • RAGのパイプラインをサーバーレスで素早く構築したい。
  • Vertex AIを選ぶべきケース
    • BigQueryを中心としたデータ分析基盤が既に稼働している。
    • 動画解析や超長文ドキュメントの処理が業務の核心である。
    • MLOpsのサイクルを回し、モデルのカスタマイズを深化させたい。

最新の技術動向は非常に速いですが、各プラットフォームの設計思想を理解していれば、モデルがアップデートされても柔軟に対応できるはずです。まずはスモールスタートでPoCを実施し、自社のデータとの相性を確かめることから始めてください。

実務導入で直面する「リージョン」と「クォータ」の壁

プラットフォームの基本性能を理解した後に、多くの実務担当者が直面するのが「国内リージョンでの機能制限」です。特にガバナンスの観点から日本国内(東京・大阪)でのデータ処理が必須とされるプロジェクトでは、以下の制約を前提に設計を行う必要があります。

1. モデルの可用性とデータ residency

Amazon BedrockもVertex AIも、最新モデル(Claude 3.5 SonnetやGemini 1.5 Proなど)が必ずしも東京リージョンで即日利用可能になるとは限りません。米国の特定リージョン(バージニア北部やアイオワなど)でのみ提供されている機能も多いため、「データの所在地を優先して旧モデルを使うか、機能性を優先して海外リージョンを許容するか」の判断がPoCの初期段階で求められます。

2. クォータ(割当量)管理の重要性

どちらの基盤も、初期状態では1分間あたりのリクエスト数(RPM)やトークン数(TPM)が低く設定されています。本番環境で急激にトラフィックが増大すると、429 Too Many Requestsエラーによりシステムが停止するリスクがあります。開発開始と同時に、利用予定のモデルに対するクォータ引き上げ申請(AWS Service Quotas または Google Cloud Quotaリクエスト)のワークフローを確認しておきましょう。

運用コストを左右する課金体系の細かな差異

コスト試算において見落としがちなのが、入力データの形式による課金単位の違いです。特にVertex AIのGeminiモデルは「文字数ベース」の課金が混在しており、トークンベースのBedrockと比較する際は注意が必要です。

比較項目 Amazon Bedrock Vertex AI (Gemini)
主な課金単位 1,000入力/出力トークンごと 1,000文字ごと(または1,000トークンごと)
マルチモーダル(画像) 1画像あたりの固定単価 画像1枚またはピクセル数に応じた課金
バッチ予測 対応(非同期処理でコスト低減可能) 対応(大量データの一括処理に向く)
確定的なスループット プロビジョンドスループット(予約制) クォータ調整によるキャパシティ確保

「AIの品質」は「データの品質」に依存する

生成AI基盤を選定した後、精度の高い回答(RAG)を実現するためには、散らばった社内データを整理する「前工程」が不可欠です。どれほどClaudeやGeminiが高性能であっても、参照するデータが不正確であれば実務には耐えられません。

例えば、BigQueryやdbt、リバースETLで構築するモダンデータスタックを併せて検討することで、AIに供給する情報の鮮度と整合性を担保できるようになります。AI基盤の選定と並行して、これら周辺のデータパイプラインの整備を進めることが、PoCを成功させる鍵となります。

公式技術リソース

ご相談・お問い合わせ

本記事の内容を自社の状況に当てはめたい場合や、導入・運用の設計を一緒に整理したい場合は、当社までお気軽にご相談ください。担当より折り返しご連絡いたします。

お問い合わせフォームへ

AT
aurant technologies 編集

上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

この記事が役に立ったらシェア: