飲食チェーンとfreee会計 店舗別PLと本部経費配賦の入口(概念)

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多店舗展開する飲食チェーンにおいて、各店舗がどれだけ利益を上げているかを正確に把握することは、経営判断の生命線です。しかし、現場の店長が管理する「売上」や「食材費」だけを見ていては、会社全体の持続可能性は見えてきません。本部の家賃、バックオフィスの人件費、全社的な広告宣伝費といった「共通費」を適切に各店舗へ割り振る(配賦する)ことで初めて、真の店舗別営業利益が可視化されます。

本記事では、クラウド会計ソフト「freee会計」を軸に、飲食業における店舗別PL(損益計算書)の構築概念と、実務上の大きな壁となる「本部経費配賦」の入口について解説します。

飲食チェーンにおける店舗別PLと配賦の重要性

なぜ「店舗売上 – 店舗原価」だけでは不十分なのか

多くの飲食現場では、FLコスト(Food & Labor:食材費と人件費)の管理に注力しています。もちろん、現場の努力でコントロールできる変数はここが中心です。しかし、会社全体で見れば、本部スタッフの給与やシステム利用料、物流倉庫の維持費など、どの店舗にも直接紐づかないコストが膨大に存在します。

これらを「本部経費」として一括で処理してしまうと、小規模で利益率が高い店舗が、大規模で非効率な店舗のコストを隠してしまい、不採算店舗の撤退判断が遅れる原因となります。

営業利益を歪ませる「共通費」というブラックボックス

共通費の配賦を行わない場合、各店舗のPLには「貢献利益」までしか表示されません。これでは、本部の肥大化が店舗の首を絞めている事実に気づけません。店舗別PLの目的は、単なる犯人探しではなく、「その店舗が、本部機能を維持するためのコストを負担した上で、なお利益を出せているか」という独立採算の視点を持つことにあります。

freee会計における「部門」設計のベストプラクティス

freee会計で店舗別管理を行うための最小単位は「部門」タグです。この設計を誤ると、後からの修正に多大な労力を要します。

店舗を「部門タグ」として定義する

freee会計では、取引の1行ごとに「部門」を付与できます。1店舗=1部門として登録するのが基本です。ここで重要なのは、店舗コードと名称を一致させることです(例:001_新宿店、002_渋谷店)。

エリア・ブランド別集計を可能にする階層構造の作り方

店舗数が増えてきた場合、店舗を束ねる「エリア(関東・関西)」や「ブランド(カフェ事業・居酒屋事業)」ごとの集計が必要になります。freee会計の「部門グループ」機能を活用し、ピラミッド型の構造を作ります。

  • ブランド:カフェ事業
    • エリア:東京
      • 店舗:新宿店
      • 店舗:渋谷店

仕訳入力時に「部門」を必須化する設定手順

店舗別PLの精度を担保するためには、部門未指定の仕訳をゼロにしなければなりません。freee会計の設定から「共通設定」→「権限管理」や「入力チェック」の仕組みを使い、特定の勘定科目(売上、仕入、地代家賃など)に対して部門入力を必須とする運用を推奨します。

なお、既存の会計ソフトからfreeeへの移行を検討されている場合は、こちらのガイドが参考になります。

freee会計導入マニュアル|旧ソフト移行ガイド

本部経費配賦(はいふ)の概念と3つの主要モデル

共通費を各店舗に分ける際、最も論争になるのが「配賦基準」です。現場の納得感を得やすい代表的な3つのモデルを紹介します。これらは、全社共通のルールとして明文化する必要があります。

1. 売上高比例配賦:最も一般的でシンプルな基準

各店舗の売上高が、全社売上高に占める割合に応じて経費を割り振る方法です。「稼いでいる店舗が、より多くのインフラコストを負担する」という考え方で、計算が最も容易です。ただし、売上は高いが利益率が低い店舗にとっては、負担が重くなりすぎる欠点があります。

2. 店舗面積・席数配賦:固定費的な側面が強い経費に向く

店舗の床面積や席数に応じて配賦します。本部で一括契約している清掃費や、全社向けの店舗設備維持費などに適しています。売上変動に左右されないため、固定費的な性質を持つ共通費に向いています。

3. 従業員数・作業時間配賦:労務管理や教育コストの按分

各店舗のスタッフ数や総労働時間で案分します。採用費、教育研修費、福利厚生費などは、この基準が最も合理的です。昨今の飲食業では人件費が高騰しているため、この配賦精度の向上が店舗収益の可視化に直結します。

特に、給与計算ソフトからの仕訳連携時に部門別の配賦を自動化したい場合は、以下の詳細解説が役立ちます。

【完全版】給与ソフトからfreee会計への「部門別配賦」と仕訳連携。労務と経理の分断を解決するアーキテクチャ

freee会計で店舗別PLを出すための実務ステップ

具体的な運用の流れは以下の通りです。

ステップ1:店舗(部門)別で全仕訳を記帳する

日々のPOSレジ売上データ、請求書、経費精算はすべて店舗ごとの部門タグを付与して取り込みます。この際、複数のツールを併用している場合は、データの二重入力を防ぐ設計が不可欠です。例えば、経費精算に「楽楽精算」等を利用している場合、CSV出力時の項目定義にfreeeの部門コードを含める必要があります。

実務的な自動化手法については、以下を参考にしてください。

楽楽精算×freee会計の「CSV手作業」を滅ぼす。経理の完全自動化とアーキテクチャ

ステップ2:本部経費を「本部部門」に集約する

特定の店舗に紐づかない経費(本部の家賃、事務用品、役員報酬など)は、一律で「本部」という名称の部門タグに集約して計上します。月次決算の締め作業の段階では、この「本部部門」のマイナス幅が、そのまま未配賦の共通費合計となります。

ステップ3:月次末に配賦仕訳を作成・入力する

月次決算の最後に、本部部門に溜まった費用を、前述の配賦基準(売上比など)に基づき、各店舗部門へ振替えます。

(仕訳例)

借方:管理費(A店舗) 100,000円 / 貸方:管理費(本部) 100,000円

借方:管理費(B店舗) 200,000円 / 貸方:管理費(本部) 200,000円

これにより、本部部門の残高はゼロになり、各店舗のPLに本部負担分が反映されます。

飲食業の「配賦」でよくある課題と解決策

人件費の配賦:複数店舗を兼務するマネージャーのコスト

エリアマネージャーのように、A店・B店・C店を巡回しているスタッフの人件費は、滞在時間比率や店舗数で案分します。freee会計の標準機能では「人件費の自動按分」は難しいため、給与ソフト側で部門別集計を行うか、Excel/スプレッドシートで計算した結果を振替伝票としてインポートする形が現実的です。

物流費・セントラルキッチンのコスト按分

自社でセントラルキッチン(CK)を持つ場合、CKを一つの「部門」とみなし、製造原価を計算します。そこから各店舗へ配送した食材の「出荷量」や「内部取引価格」に基づいて費用を移転させます。これは高度な原価計算の領域に入るため、まずは「配送回数比」などの簡易的な配賦から始めるのが定石です。

【比較表】freee会計のプラン別・部門/配賦管理機能の差

freee会計では、法人プランによって部門管理の自由度が異なります。配賦機能そのものは標準で搭載されていないため、「部門別試算表」がどこまで詳細に出せるかがポイントです。

機能・項目 法人スターター 法人スタンダード 法人プロフェッショナル
部門タグの作成 可能 可能 可能
部門の階層化 不可 可能(2階層) 可能(多階層)
部門別試算表の出力 簡易的 詳細出力可能 詳細・複数比較可能
月次配賦仕訳の自動生成 不可(手動) 不可(手動) API/外部連携を推奨

※料金・詳細は必ず freee公式価格ページ をご確認ください。

経理DXによる「配賦作業」の自動化と高度化

店舗数が30、50と増えていくと、毎月の配賦仕訳を手動で作成するのは限界を迎えます。ここでIT実務担当者の出番となります。

スプレッドシート連携(freee API)を活用した自動計算

freee公式の「Googleスプレッドシート連携アドオン」を使用すれば、各部門の「売上高」を自動でシートに抽出できます。その数値を元に、事前に設定した配賦率で振替伝票のインポート用データを作成し、freeeに戻す。このサイクルを組むだけで、配賦作業は数分で完了します。

BIツールを用いた多角的な分析

会計データだけでなく、POSレジの客単価データ、勤怠ソフトの労働時間データ、さらには天候データなどを組み合わせて分析したい場合は、Google BigQueryなどのデータウェアハウスへデータを集約します。freee会計はAPIが公開されているため、これらの外部ツールとの親和性が非常に高いのが特徴です。

本部経費の配賦は、最初は「売上高比」のような単純なものから始め、徐々に「各店舗の納得感」が得られる独自の基準へとブラッシュアップしていくべきです。システムを導入して終わりではなく、経営の実態を映し出す「鏡」として会計データを育てていきましょう。

実務で差がつく「配賦運用」の事前チェックリスト

店舗別PLの運用を形骸化させないためには、システム設定だけでなく運用ルールの言語化が不可欠です。導入・運用のフェーズに合わせて、以下の項目が整理されているか確認してください。

  • 配賦対象費用の定義:「全社共通」とする科目は厳選されているか(現場が納得できない費用が含まれていないか)
  • 計算タイミングの固定:月次決算の何日目に配賦仕訳を投入するか、フローが組まれているか
  • 部門コードの永続性:店舗の移転やリニューアル時にコードを引き継ぐのか、新規発行するかのルールがあるか
  • 異常値の除外ルール:新店舗のオープン直後など、特例として配賦を免除・軽減する期間を設けているか

公式ドキュメントで仕様を確認する

freee会計自体には、2026年現在も「あらかじめ設定した比率で自動按分し、振替伝票を自動生成する」という標準の配賦ボタンは存在しません。そのため、以下の公式ヘルプを確認し、実務に即した手法を選択してください。

より高度な管理を目指すためのステップアップ

飲食チェーンの規模が拡大すると、本部経費の配賦以前に「店舗から上がってくる情報の精度」と「消込の効率」がボトルネックとなります。特に、中堅以上の規模で会計ソフトと経費精算ツールの役割分担を見直したい場合は、こちらの比較が参考になります。

【徹底比較】バクラク vs freee支出管理。中堅企業が「経費精算・稟議」を会計ソフトと分ける本当の理由

また、店舗別の売上管理において、キャッシュレス決済手数料のズレや振込手数料の処理で「自動消込」が止まってしまう課題は、飲食業共通の悩みです。配賦の精度を上げる前段階として、以下のアーキテクチャによる自動化も検討すべきです。

【完全版】freeeの「自動消込」が効かない? 振込手数料ズレと合算払いを撲滅する「バーチャル口座」決済アーキテクチャ

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本記事の内容を自社の状況に当てはめたい場合や、導入・運用の設計を一緒に整理したい場合は、当社までお気軽にご相談ください。担当より折り返しご連絡いたします。

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上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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