開発会社の案件管理におすすめのツール|工数・原価・請求をつなぐ選び方
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ソフトウェア開発や受託システム開発の現場において、経営を圧迫する最大の要因は「目に見えない原価の膨張」です。多くの開発会社が、案件ごとの進捗はJiraやGitHubで管理し、工数はスプレッドシートに入力、請求書は別の販売管理ソフトで作るといった「データの分断」に悩まされています。
本記事では、IT実務担当者やPMに向けて、工数・原価・請求をシームレスにつなぎ、プロジェクト収支をリアルタイムで可視化するためのツール選定基準と、失敗しない運用設計について詳しく解説します。
1. 開発会社における「案件管理」の理想と現実
開発案件の管理において、もっとも避けるべきは「プロジェクトが完了するまで赤字か黒字かわからない」という状態です。
なぜスプレッドシート管理は破綻するのか
創業期にはExcelやGoogleスプレッドシートでの管理で十分かもしれません。しかし、従業員が10名を超え、並行する案件が増えると以下の問題が顕在化します。
- 入力の形骸化: 週に一度、記憶を頼りに入力するためデータが不正確になる。
- 集計コストの増大: 各自のシートを統合し、人件費単価を掛け合わせる作業に数日かかる。
- 最新値の不在: 請求済みの金額と、未請求の仕掛品(外注費・工数)が合致しているか確認できない。
「工数・原価・請求」が分断されることによる経営リスク
工数(現場)と原価(経理)が繋がっていないと、労務費の計算が「平均単価」に頼らざるを得なくなります。シニアエンジニアが稼働した案件と、ジュニアエンジニアが稼働した案件で同じ原価計算を行えば、当然ながら採算判定を誤ります。これは、収益性の低い案件にリソースを割き続けるリスクに直結します。
また、請求漏れや入金遅延の検知が遅れることも大きなリスクです。案件のステータスと請求フラグが連動していないシステム構成は、キャッシュフローの悪化を招きます。
関連記事:
バックオフィスの効率化においては、会計ソフトとの連携も不可欠です。既存の会計ソフトからの移行を検討している場合は、
freee会計導入マニュアル|旧ソフト移行ガイド
も併せて参照してください。
2. ツール選定の3つのアプローチ
開発会社の案件管理ツールを選ぶ際、自社の業務フローのどこを「主軸」に置くかで、選ぶべきソリューションが変わります。
【特化型SaaS】工数から原価・請求まで一気通貫で管理する
プロジェクト管理、工数管理、経費精算、請求管理が一つになったSaaSです。案件ごとの収支管理を最優先する場合、このタイプが最も適しています。データが最初から統合されているため、複雑なAPI連携を組む必要がなく、導入初日から正確な原価計算が可能です。
【開発ツール拡張型】Jira/GitHubをベースに管理機能を付与する
エンジニアが日常的に使用しているJiraやGitHubに、工数管理のアドオン(Tempo Timesheetsなど)を追加するアプローチです。現場の入力負荷は最小限に抑えられますが、請求書発行や会計連携の機能が弱いため、バックオフィス側で別途データを加工する工程が発生します。
【ERP/会計直結型】バックオフィス業務を起点に現場を巻き込む
会計ソフトや人事労務ソフトのオプションとして提供されているプロジェクト管理機能を利用します。給与データと直結しているため、労務費計算の正確性は極めて高いですが、現場のタスク管理(WBS)としては機能が不足することが多いため、現場との折り合いが重要になります。
3. 開発会社におすすめの案件管理ツール比較
開発会社の実務に適した主要なツールを比較表にまとめました。各ツールの仕様や料金は、最新の公式情報を必ずご確認ください。
| ツール名 | 主なターゲット | 強み | 会計連携 | 公式URL |
|---|---|---|---|---|
| TeamSpirit | 中堅〜大手 | 勤怠・工数・経費がSalesforce上で統合 | API連携等 | 公式サイト |
| ZAC | 中堅開発会社 | 原価計算・予測管理が極めて強力 | 仕訳出力可 | 公式サイト |
| board | 少人数〜中規模 | 見積・請求・受領管理のUXが非常に優秀 | freee/MF連携 | 公式サイト |
| Lychee Redmine | エンジニア中心 | Redmineベースで工数・ガントチャートに強い | CSV出力等 | 公式サイト |
| freeeプロジェクト管理 | freeeユーザー | 会計・人事労務とマスター・数値が直結 | 完全連動 | 公式サイト |
4. 【実務】工数・原価・請求をつなぐデータ設計の手順
ツールを導入するだけでは、正確な管理は実現しません。以下のステップで実務のフローを設計する必要があります。
STEP 1:社内単価(標準原価)の定義
まず、メンバーごと、あるいは職位ごとの「時間単価」を定義します。原価計算には以下の要素を含めるのが一般的です。
- 直接人件費: 基本給 + 諸手当 + 社会保険料(会社負担分)
- 共通費の配賦: オフィス賃料、バックオフィスの人件費などを直接工数で按分するか、一定の倍率(間接費率)として計上する。
多くのツールでは、メンバーマスタに「原価単価」を設定する項目があります。これを設定しておくことで、入力された工数に対して自動的に労務費が計算されます。
注意点: メンバーの単価情報は極めて機密性の高い情報です。ツールの権限設定で、PMには「予算の消化率(金額)」は見せても「個人の単価(給与)」は見せない、といった詳細な制御が可能か確認してください。
STEP 2:工数入力ルールの策定と定着化
エンジニアにとって、詳細すぎる工数入力は負担でしかありません。以下のルールで入力を簡略化・標準化します。
- 最小単位の設定: 15分単位、あるいは30分単位とする。
- タスクの粒度: 「コーディング」「会議」「デバッグ」程度に留め、細かすぎるJiraのチケット単位まで強制しない。
- 未入力防止: Slack等のチャットツールへリマインドを自動化する。
STEP 3:請求・入金確認フローとの同期
案件管理ツール上で「検収完了」のステータスになったら、自動的に請求書下書きを作成できるフローを構築します。ここで役立つのが、SaaS同士の連携です。例えば、Salesforceで受注管理を行い、そのデータを案件管理ツールへ飛ばし、さらに請求書発行ソフト(バクラク請求書やマネーフォワードなど)へ連携させる構成です。
特にサブスクリプション型の保守案件がある場合は、毎月の自動発行設定が不可欠です。これについては、
Salesforceとfreeeを繋いでも「サブスク売上」は自動化できない
の考え方が、複雑な請求パターンの設計に役立ちます。
STEP 4:会計ソフトへの仕訳連携
最終的な収支は会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生など)に集約されます。案件管理ツールから「売上」と「原価(労務費振替)」の仕訳データをCSVまたはAPIで出力する設定を行います。これにより、試算表ベースで案件別の利益を確認できる「管理会計」の体制が整います。
5. 失敗しないための運用・導入のポイント
エンジニアの入力負荷を最小化する外部連携
優れた案件管理ツールは、外部APIとの連携が充実しています。GitHubのプルリクエスト作成時や、Slackでの特定コマンド実行時に工数を記録できる仕組みを導入することで、現場の「入力忘れ」を劇的に減らすことができます。
「配賦」をどう処理するか
開発会社には、特定のプロジェクトに紐付かない「研究開発」や「全社会議」「教育訓練」の時間が発生します。これらの工数を、各案件の原価にどう配賦するか(あるいは販売管理費として処理するか)は、事前に顧問税理士や経理責任者と合意しておく必要があります。
詳細な配賦ロジックの構築については、
給与ソフトからfreeeへの「配賦」連携と原価計算
の記事で、具体的なアーキテクチャを解説しています。
セキュリティ:給与・単価情報の閲覧権限設定
案件管理ツールに「直接原価」を持たせる場合、設定を誤ると全社員に他人の給与(に近い数値)が公開されてしまうリスクがあります。以下の設定は必須です。
- 一般ユーザー(エンジニア):自分の工数入力と、担当プロジェクトの進捗(時間ベース)のみ閲覧可。
- PM(プロジェクトマネージャー):担当プロジェクトの予算消化状況(金額ベース)を閲覧可。単価設定は見せない。
- 管理者(経営・経理):全プロジェクトの収支、単価設定、マスタ編集が可能。
6. まとめ:自社に最適な「管理の形」を見つける
開発会社の案件管理ツール選びに「唯一の正解」はありません。しかし、「工数・原価・請求」がひとつのデータパイプラインで繋がっていることは、健全な経営において譲れない条件です。
ツール導入時に直面する最大のエラーは、機能の不足ではなく「入力の不徹底によるデータの汚染」です。まずは現場が無理なく続けられるUI/UXのツールを選び、そこから段階的に原価計算や会計連携の精度を高めていくスモールスタートをおすすめします。
もし、既存のExcel管理から脱却し、より高度なデータ連携基盤の構築を検討されているのであれば、SaaSの標準機能に頼り切るだけでなく、APIを活用した独自のデータ統合も視野に入れると、運用の柔軟性が大きく向上します。
追記:実務で差が出る「外注費管理」と「運用定着」の補足
案件管理ツールを導入しても、自社リソース(労務費)の管理だけで満足してはいけません。特に開発会社においては、パートナー企業への「外注費」がプロジェクト収支を左右する大きな変数となります。また、ツールの形骸化を防ぐための実務的なチェックポイントを整理しました。
1. 工数入力の精度を保つための実務チェックリスト
データの汚染を防ぎ、月次決算のスピードを上げるためには、入力ルールが「職人芸」にならないよう標準化する必要があります。以下の3項目が定義されているか確認してください。
- 端数処理のルール: 15分未満の作業を切り捨てるか、0.25時間として切り上げるか(多くのSaaSは0.25/0.5単位の入力を推奨しています)。
- 間接工数のコード化: どのプロジェクトにも紐付かない「全体会議」「採用業務」「技術研修」などを、共通コストとして集計するための専用コードを用意しているか。
- 入力・承認サイクル: 「毎週月曜10時までに前週分を入力」「火曜中にPMが承認」といった、データの確定タイミングが社内規定化されているか。
2. 「外注費」の二重管理を防ぐ責務分解
パートナー企業からの請求額(確定原価)と、案件管理ツール上の稼働データ(見込原価)をどう整理すべきか。ツール間の役割分担を明確にしないと、経理担当者の手作業が増大します。
| 管理対象 | 推奨されるシステム | 管理の目的 |
|---|---|---|
| パートナーの稼働時間 | 案件管理ツール | 月末を待たずにプロジェクトの「着地」を予測するため |
| 確定した請求金額 | 受取請求書SaaS(Bill One等) | 電帳法・インボイス対応および、会計ソフトへの正確な仕訳連携のため |
特に、インボイス制度対応のために導入したシステムと、案件管理ツールをどう使い分けるかは非常に重要です。この責務分解の詳細は、
Bill One等の受取SaaSと会計ソフトの正しい責務分解
にて、データフローの観点から詳しく解説しています。
3. 公式ドキュメントで見る「配賦」の自動化
組織が成長し、事業部をまたいだ案件が増えると、人件費以外の共通費(地代家賃や通信費など)を各案件に割り振る「配賦」の処理が必要になります。検討中のツールがどの程度の配賦ロジックを標準で備えているか、事前に公式情報を確認しておきましょう。
より高度な「部門別配賦」を、給与データと連動させて自動化したい場合には、
給与ソフトからfreee会計への「部門別配賦」と仕訳連携
のアーキテクチャが、設計の強力なヒントになります。
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