小規模自治体・町村のDXは「全部やらない」が正解|人手不足・兼務前提で財政の見える化から始める現実解

人口数千〜2万人規模の町村・小規模市向けに、少人数・兼務体制でも回るDXの優先順位を総務省の一次資料に沿って整理。標準化・ガバメントクラウド、CIO補佐官等の外部人材活用、財政の見える化で兼務体制を支える現実解と、30日で踏み出す最初の一歩を解説します。

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「DX推進計画は読んだ。でも、うちは情報担当が総務と兼務の一人だけ。何から手をつければいいのか分からない」——人口数千~2万人規模の町村や小規模市で、財政・企画・総務を少人数で回している担当者の多くが、同じ壁に突き当たっています。大企業や中核市の事例をそのまま持ち込んでも、人も予算もない現場では回りません。本稿は、リソース制約を前提にした「小規模自治体のDXの現実解」を、総務省の一次資料に沿って具体的に整理します。自治体DX全般の進め方は自治体DX完全ガイドで扱っているため、ここでは「少人数・兼務体制でも回る優先順位の付け方」に絞ります。

小規模自治体のDXが進まない本当の理由は「人」

総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」(第5.0版・2025年12月)では、小規模団体の置かれた状況を率直に認めています。すなわち、特に小規模な市町村の現場では、極めて少人数の職員のみでDXの取組全てを担うような状況にあると明記されており、規模の小さい団体ほどDX推進に課題を抱えているとされています(総務省・自治体DX推進計画 第5.0版)。

これは技術力の問題ではありません。構造の問題です。情報システム担当が一人、しかも財務会計や例規、選挙事務まで兼務している——そうした体制では、いくら良いツールがあっても「導入・運用・トラブル対応」を回す余力がそもそも存在しないのです。だからこそ小規模自治体のDXは、「やることを増やす」発想ではなく「やらないことを決める」発想から始める必要があります。

逆に言えば、論点は明快です。少ない人手をどの業務に集中させ、どの業務は標準化・外部化・自動化で手を離すか。この取捨選択こそが小規模団体のDXの本体だと考えるべきです。

優先順位の付け方|「投資対効果」より「兼務負荷の軽減」

小規模自治体では、華やかな住民向けアプリよりも先に、職員の兼務負荷を直接下げる内部業務に着手したほうが効果を実感しやすい傾向があります。理由は単純で、効果が「住民の利用率」という不確実な変数に左右されず、着手した職員自身の作業時間としてすぐ返ってくるからです。優先度を考えるときの目安を、リソース制約の観点から整理します。

第一に、毎月・毎年くり返す定型作業。決算統計、財政状況資料、議会向けの予算・決算説明資料の作成などは、毎回ゼロから手作業で組み直している団体が少なくありません。データの集計・転記を仕組み化するだけで、兼務職員の残業を恒常的に削れます。財政指標の扱いについては地方財政健全化の4指標もあわせて参照してください。

第二に、属人化していて引き継ぎが怖い業務。一人担当の小規模団体では、その人が異動・退職した瞬間に業務が止まります。Excelの個人ファイルに埋もれた計算ロジックを共有の仕組みに移すことは、「効率化」である以前に業務継続のリスク対策です。

第三に、住民向けサービス(オンライン申請など)。重要ですが、これは内部の足場が固まってから。申請を電子化しても、受け取った後の処理が手作業のままでは、かえって担当者の負担が増えることもあるためです。

つまり優先順位は「住民向けの見栄え」ではなく、くり返し頻度 × 属人リスク × 着手の手離れやすさで測る。これが兼務前提の現実解です。

標準化・ガバメントクラウドは小規模団体に有利に働く

住民記録や税、福祉などの基幹20業務の標準化と、ガバメントクラウドへの移行は、すべての自治体に関わる大きな動きです。負担増として身構える声もありますが、リソースの乏しい小規模団体にとってはむしろ追い風になり得る性格を持っています。

総務省は標準化・ガバメントクラウドの活用について、自治体の人的・財政的負担を軽減し、地域の実情に即した住民サービスの向上に注力できるようにするものと位置づけています(総務省・自治体DX推進計画)。独自仕様のシステムを一団体で抱え込み、改修のたびにベンダーとやり取りしていた状態から、共通基盤に乗ることで、限られた人手を「自前のシステム保守」から「住民サービスそのもの」へ振り向けやすくなる、という考え方です。

ただし移行は片付けでもあります。これまで個別最適で増殖した帳票や独自項目を、標準仕様に合わせて棚卸しする工程は避けられません。ここで効くのが、後述する「外部人材」と「可視化」です。小規模団体ほど、移行を機に「本当に必要なデータは何か」を整理し直す好機と捉える発想が役立ちます。

外部人材(CIO補佐官・デジタル人材)を「雇わずに使う」

「専門人材を採用したいが、給与水準でも知名度でも都市部に勝てない」。小規模自治体に共通する悩みですが、国の支援は明確に「自前で抱え込まなくてよい」方向に設計されています。

まず、外部人材の登用に財政措置があります。市町村がCIO補佐官等として外部人材の任用等を行うための経費には特別交付税措置が講じられており、総務省は伴走支援や優良事例の横展開にも取り組むとしています(総務省・デジタル人材の確保・育成)。常勤採用にこだわらず、非常勤・兼業・スポット契約で専門知見だけを借りる選択肢が、財政面から後押しされているわけです。

次に、都道府県との連携です。総務省は2025年度(令和7年度)中に、全ての都道府県で市町村と連携した推進体制(市町村が求める人材のプール機能を含む)が構築できるようにすることを目標に掲げています(総務省・都道府県と市町村の連携によるDX推進体制)。実際に、都道府県が市町村にデジタル人材を派遣したり、システムの共同調達を主導したりする取組が各地で進みつつあります。一町村で人材を確保できなくても、都道府県のプールから必要なときに専門人材を借りる道が用意されつつあるということです。

あわせて、総務省は全国の自治体のデジタル人材募集状況を一覧で公開しており(総務省・自治体のデジタル人材募集状況一覧)、近隣団体がどんな条件・役割で人材を募っているかを把握する手がかりになります。まず確認すべきは「採用できるか」ではなく、「県の支援メニュー・財政措置に何があるか」です。順序を間違えないことが、小規模団体では特に重要になります。

可視化が兼務体制を支える理由

外部人材を借りるにしても、共同調達に乗るにしても、前提になるのが「自団体の状況をデータで説明できること」です。可視化は単なる見栄えの話ではなく、少人数・兼務体制を内側から支える基盤になります。理由は三つあります。

引き継ぎコストを下げる。財政や事業の状況がダッシュボードで常時見える状態になっていれば、担当が交代しても「どのファイルのどのセルを見るか」を一から教え込む必要が薄れます。一人担当の団体ほど、可視化は属人化への保険として効きます。

説明の手間を一度きりにする。首長・議会・住民・県への説明資料を、その都度手作業で組み直すのではなく、同じデータ基盤から出力できれば、兼務職員の「説明のための作業」が劇的に減ります。予算編成や予実管理を起点にした見える化の進め方は、ふるさと納税の使途・予実・会計の可視化ガイドで詳しく扱っています。財源確保と使途の透明化は、小規模団体の財政運営で密接につながるテーマです。

外部の力を借りやすくする。CIO補佐官や県の派遣人材に状況を伝えるとき、数値が整理されていれば短時間で本質的な助言を引き出せます。逆に、データがバラバラだと、限られた支援時間が「現状把握」だけで消えてしまいます。BIダッシュボードの具体的な導入ステップは自治体向けBIダッシュボード導入を参照してください。

大規模な基盤をいきなり作る必要はありません。小規模団体ではむしろ、「毎月必ず見る数字」を一枚にまとめるところから始めるのが現実的です。歳入・歳出の進捗、基金残高、主要事業の執行率——担当が代わっても同じ画面を見れば状況が分かる、その状態を作ることが第一歩になります。

30日でできる小規模自治体DXの最初の一歩

大きな計画を立てる前に、兼務担当者が単独でも踏み出せる範囲から始めることを勧めます。リソースが乏しいからこそ、最初の一歩は「小さく・確実に手離れする」ことが肝心です。

  • 1週目:県の支援メニューを確認する。都道府県のDX推進体制・人材プール・共同調達の枠組みと、CIO補佐官等への財政措置を調べ、自団体が使える支援を一覧化する。
  • 2週目:くり返し作業を一つ選ぶ。決算統計や予算説明資料など、毎年・毎月発生する作業から最も負担の重いものを一つだけ選び、現状の手順を書き出す。
  • 3週目:その作業のデータを一か所に集める。個人のExcelに散っているデータを共有可能な形に整理し、「毎回どの数字を使うか」を固定する。
  • 4週目:一枚のダッシュボード化を試す。集めたデータから、首長・議会説明に毎回使う数字を一画面に集約する。完璧でなくてよい。次の担当者が見て分かる状態を目指す。

この4ステップは、いずれも新規の大型予算を必要としません。重要なのは順序です。支援メニューの確認(外部の力)→ 作業の特定(やらないことを決める)→ データ整理(属人化の解消)→ 可視化(説明の効率化)。この流れが、人手不足の町村でDXを「絵に描いた餅」で終わらせないための骨格になります。

まとめ|小さいことは弱みではなく、設計の自由度

小規模自治体のDXは、大きな団体の縮小版ではありません。人も予算も少ないという制約は、裏返せば「全部やらない」という割り切りが許されるということでもあります。くり返し作業と属人リスクの高い内部業務に的を絞り、標準化・ガバメントクラウドで保守の手を離し、外部人材と都道府県の支援を「雇わずに使い」、可視化で兼務体制を内側から支える——この順序を守れば、一人担当の町村でも前に進めます。

財源の確保から使途の透明化、予実管理までを一連の流れで見える化したい場合は、まず自治体の予実管理・財政の見える化で全体像を確認してみてください。小さく始めて、確実に手離れさせる。それが、リソース制約のある現場でDXを定着させる最短ルートです。

システム導入・DX戦略

ERP・基幹システムの刷新、SaaS選定・導入支援、DX戦略立案まで対応。中小企業のDX推進を一気通貫でサポートします。

AT
aurant technologies 編集

上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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