補助金・交付金の執行残はなぜ20兆円規模に膨らみ続けるのか — 自治体経理のボトルネックを構造で読む

国一般会計の翌年度繰越は11兆円、地方創生臨時交付金は累計20兆円超。コロナ・物価高で膨らんだ大型補正予算が「執行できない」現実と、自治体経理の現場で起きている補助金按分・多年度事業管理のボトルネックを、財務省・内閣府・会計検査院データをもとに5枚のSVGで整理する。

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「予算は組まれたが、執行できなかった」——この一言で片付けられがちな現象が、コロナ禍以降の自治体財政では年間10兆円規模で起きている。国一般会計の翌年度繰越額は令和5年度時点で11兆円、不用額は6.9兆円。地方創生臨時交付金は累計20兆円超に膨らみ、会計検査院からは毎年「執行不適切」が指摘される。本記事では、補助金・交付金の執行残と繰越がなぜ構造的に増え続けているのか、自治体の経理現場でどんなボトルネックが起きているのかを5枚のグラフで整理する。

国の繰越と不用額は「コロナ前の10倍」水準で常態化

国一般会計 翌年度繰越額・不用額の推移(兆円)翌年度繰越額不用額01020301.61.22019年度30.83.82020年度22.46.32021年度17.911.32022年度11.16.92023年度8.57.52024年度出典: 財務省「令和X年度決算」(参議院決算委員会調査室レビュー)

令和元年度(コロナ前)の国一般会計繰越額は1.6兆円だったが、令和2年度に30.8兆円に急増し、令和3年度以降も10兆〜20兆円台で高止まりしている。不用額も令和元年度1.2兆円から、令和3〜5年度は6〜11兆円台と、明らかにコロナ前の水準には戻っていない。これは大型補正予算(コロナ・物価高騰・経済対策)が連年で組まれ、年度内に執行しきれない構造が定着したことを示している。

国の繰越・不用がそのまま自治体側にスライドする構造はないが、国庫支出金として自治体に交付された分は「自治体側でさらに翌年度に繰り越す」あるいは「事業者向け補助金の不用残として返納する」形で、結局は同じ問題が地方財政にも波及する。地方財政白書の「繰越明許費」「継続費逓次繰越」項目を見ると、自治体側の繰越額も2020年度以降に明確に膨らんでいる。

地方創生臨時交付金 — 累計20兆円超

地方創生臨時交付金 — コロナから物価高対策まで累計約21兆円紺=コロナ対応/橙=物価高騰対応。会計検査院は両系統で執行不適切事案を毎年指摘している0兆2兆4兆6兆30.0千億R2コロナ第1次補正20.0千億R2第2次補正15.0千億R3第1次補正60.0千億R4物価高騰枠51.0千億R5物価高騰拡充24.0千億R6重点支援交付金13.0千億R7物価高対策出典: 内閣府地方創生推進事務局 公表額(補正・予備費を合算した試算)

2020年のコロナ第1次補正で創設された「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」と、2022年に派生した「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」を合算すると、累計で約20兆円超。各自治体は対象範囲が広いこの交付金を、子育て世帯支援・事業者支援・住民税非課税世帯給付・学校給食費補助など、文字通り「何にでも使える追加財源」として運用してきた。

柔軟性が高い反面、会計検査院からの執行不適切指摘も毎年継続している。代表例は ①事業効果検証不十分のまま執行、②国の通知範囲を超えた支出、③地元事業者への利益誘導と疑われる支出、④年度内に執行できず大量繰越、など。自治体側の経理担当者は、「この交付金は他の補助金より検査が厳しい」という認識を共有している。

そもそも「執行残」はどこから生まれるか

当年度予算現額支出済額翌年度繰越(明許費)継続費逓次繰越不用額予算 = 支出済 + 繰越 + 不用額(恒等式)「いま事業 X はいくら残っているか」を即答するには、繰越と不用を案件単位で追跡する必要がある現場で詰まるのはここ:① 同じ補助金が複数事業に按分されている → 案件別の繰越額が出ない② 国・県・市の3階層補助金が交差 → 国費の繰越条件と県費の繰越条件が違う③ 不用額の発生理由(入札残・人件費未執行・事業遅延)を年度末まで集計できない概念図: 一般会計予算の流れ(簡略化)

地方財政上、予算現額は「支出済額+翌年度繰越額+不用額」という恒等式で説明される。繰越明許費は当該年度内に支出が終わらない見込みのもの、継続費逓次繰越は複数年度で計画された大型事業の年度間スライド、不用額は単純に「使う必要がなくなった」分だ。

問題はこれらが事業単位ではなく予算款項目単位で管理されていることにある。たとえば「観光振興費」という款項目に5本の補助金(県A、市B、臨時交付金、ふるさと納税基金、独自財源)が紐づいていると、「観光振興費全体で1,200万円繰越」とは出るが、「事業Xに対する繰越がいくらで、その内訳が県A補助金から何円、市B補助金から何円」までは即時に出ない。年度末の決算統計時に手作業で按分し直す、というのが多くの自治体の現実だ。

補助金按分マトリクスを毎月Excelで作っている

補助金按分マトリクスの例(事業 X、月次集計)同じ事業 X の費目を、4つの財源に毎月按分。1ヶ月に1回はこの表をExcelで作り直す自治体が多い県A 補助金市B 補助金臨時交付金ふるさと納税基金人件費30%20%30%20%委託費40%30%20%10%物品購入10%40%40%10%旅費50%20%20%10%賃借料0%40%40%20%配色: 紅=按分比率高(35%超)、橙=中、薄=低。タグ会計があれば仕訳から自動生成可能

当社が支援している自治体・第三セクターの財政担当に共通するのが、上図のような「費目 × 財源」按分マトリクスを毎月Excelで作り直す運用だ。事業1つで4〜6本の財源が交差し、人件費・委託費・物品購入・旅費・賃借料といった費目それぞれに按分比率を設定する。1事業で30〜40セル、これが20事業あれば月600〜800セルの手入力/確認作業になる。

誰かが入力ミスをすると、それが補助金実績報告書、決算統計、議会答弁資料、すべてに波及する。これは人を増やしても解決しない。元データの構造が「ファイル分散」「事業横断のタグなし」だからこうなる。

多年度にまたがる事業の「重なり」

多年度にまたがる事業の重なり — 会計年度独立原則との衝突単年度の予算現額だけでは「事業ごとに今いくら使えるか」が見えない。事業IDタグで横串を通す必要があるR5 年度R6 年度R7 年度事業A 単年度事業B 繰越(R5→R6前半)事業C 継続費(R5〜R7)事業D 国費未確定で執行遅延※実際の自治体決算では、1事業に4-6本の補助金が紐づき、これが3-5年に分散する

さらにやっかいなのが、多年度にまたがる事業の重なりだ。単年度事業・繰越事業・継続費・国費未確定による執行遅延、これら4種類が同じ財政課のなかで同時並行で走っている。会計年度独立原則のもとで作られた予算管理システムは「現年度の予算現額」をフラットに見せるのは得意だが、「事業 C は3年間で総額1.2億円のうち、いまどこまで来ているか」を即時に出すのは苦手だ。

結果として、首長レク用に「事業 C 進捗 ○%」を表示するために、財政担当が3つのExcelファイルを開いて手集計する、という光景が日常化している。

解決の方向性 — 事業IDと財源タグで「予算進行ダッシュボード」を作る

当社が補助金・交付金管理で最初に手をつけるのは、「事業ID × 財源タグ × 費目タグ」の3軸を仕訳の段階で組み込み、予算進行ダッシュボードで多年度ベースで進捗を見せる仕組みだ。これがあれば、補助金按分マトリクスは仕訳のタグ集計で自動生成、繰越予定額・不用見込額の早期把握、首長レク用の事業別進捗、すべてが1つの元データから出てくる。

会計検査院対策としても、「いつ・何に・いくら・どの財源から支出したか」がトレーサビリティ付きで残るため、検査時の説明資料作成負担が大幅に下がる。詳細は下記のサービスページに、画面イメージ・タグ運用ルール・5ステップ導入フローまで載せている。

SERVICE / 関連ページ

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関連する調査・解説記事

参照した一次資料

  • 財務省「令和X年度決算」(参議院常任委員会調査室レビュー)
  • 内閣府 地方創生推進事務局「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」公表資料
  • 内閣府 地方創生推進事務局「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」
  • 総務省「令和6年版 地方財政白書」(用語の説明 — 繰越明許費、継続費逓次繰越、不用額)
  • 会計検査院 各年度報告(地方創生臨時交付金の執行に関する指摘事案)

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aurant technologies 編集

上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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