SES企業のfreee工数管理活用|案件別稼働と請求単価の突合設計

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SES(システムエンジニアリングサービス)や受託開発を主業とする企業において、経営の健全性を測る生命線は「案件別の採算管理」にあります。しかし、多くの現場では、エンジニアの稼働時間は勤怠ソフトやExcelで管理され、請求金額はそれとは別に作成されたスプレッドシートや請求システムで管理されているのが実情です。

この「稼働データ」と「請求データ」の分断は、請求漏れ、過請求、そして正確なプロジェクト利益率の算出不能という深刻な問題を引き起こします。本記事では、freee工数管理を中核に据え、SES特有の準委任契約における「案件別稼働」と「請求単価」をいかにしてシステム上で突合し、一気通貫したデータフローを構築すべきか、その設計概念を詳述します。

SES業界における工数管理と請求突合の課題

なぜExcelでの案件別採算管理は破綻するのか

創業期であればExcelでの管理も可能ですが、従業員が30名、50名と増え、案件が並走し始めるとExcel管理は限界を迎えます。最大の理由は「データの多重入力」と「同期の欠如」です。従業員が入力した作業日報、PMが管理する進捗管理表、経理が作成する請求書。これらが独立したファイルで存在すると、どれが正解データ(Single Source of Truth)なのかが不明確になります。結果として、月次決算のたびに数日間かけてデータの突き合わせ作業が発生することになります。

準委任契約特有の「清算幅」と「請求単価」の複雑性

SES実務を難しくしているのが、140h〜180hといった「清算幅(上下割)」の存在です。単純な「稼働時間 × 単価」ではなく、以下の要素を考慮しなければなりません。

  • 基本単価(固定単価)が発生する基準時間範囲
  • 基準を下回った場合の控除単価
  • 基準を上回った場合の超過単価
  • 案件ごとの支払いサイトと締め日の違い

これらを「freee工数管理」単体ですべて自動計算しようとするのは、現時点の仕様上、工夫が必要です。工数管理ツールはあくまで「時間の集計」に特化したものであるため、その背後にある「契約条件」とどう接続させるかが設計の肝となります。

freee工数管理を軸としたデータ連携アーキテクチャの全体像

効率的なバックオフィス運用を実現するためには、各ツールの「責務」を明確に分ける必要があります。freee工数管理を導入する場合、一般的にはfreee会計とのセット運用が前提となります。

freee会計とfreee工数管理の役割分担(責務分解)

基本的な設計方針として、以下のような役割分担を推奨します。

  • freee会計: 最終的な「売上(請求書発行)」および「原価(給与・経費)」の計上、および「プロジェクト」ごとの損益管理。
  • freee工数管理: 現場の「工数(時間実績)」の集計、およびプロジェクトごとの進捗率の可視化。

ここで重要なのは、freee工数管理で集計された「時間実績」を、どのようにfreee会計の「売上」に紐付けるかです。特にSESの場合、【完全版】給与ソフトからfreee会計への「部門別配賦」と仕訳連携の記事でも触れているように、人件費の配賦計算とセットで考える必要があります。

マスタ連携の要:プロジェクトタグと案件IDの同期

freee会計には「プロジェクト」というタグが存在します。一方、freee工数管理には「案件」という概念があります。これらを1対1で同期させることが、突合設計の第一歩です。freee工数管理の設定画面から、freee会計のプロジェクトマスタをワンクリックで取り込むことが可能(公式ヘルプ参照)なため、マスタの二重管理を防ぐことができます。

案件別稼働と請求単価を「突合」するための設計指針

SESの現場で最も求められるのは、「今月の稼働時間が確定した瞬間に、いくら請求すべきか(またはいくら支払うべきか)が算出されている状態」です。

単価マスタをどこに持たせるか?

freee工数管理には、メンバーごとに「標準単価」を設定する機能があります。しかし、これは主に「原価(人件費)」計算に用いられるものであり、顧客への「請求単価」とは異なるケースが多いのが実情です。
そこで、実務上の設計パターンは以下の2つに分かれます。

  1. パターンA:工数管理上の単価を「請求単価」に設定する

    社内原価の可視化は諦め、工数管理ツールを「請求額算出ツール」として割り切る手法です。

  2. パターンB:外部DB(Spreadsheet等)で単価管理し、工数実績を流し込む

    freee工数管理から「案件別×従業員別」の月次工数実績をCSV/APIで抽出し、別途用意した「契約単価マスタ」と結合して請求額を算出する手法です。

SESのように「個人ごとに単価が異なり、かつ清算幅がある」ビジネスモデルでは、後者のパターンBが現実的な運用となります。

【比較表】主要な工数管理・案件管理ツールとfreeeの親和性

市場には多くの工数管理ツールがありますが、freeeとの連携を前提とした場合の特性を比較しました。

ツール名 freee連携 SES清算対応 主な特徴
freee工数管理 純正連携(強) △(手動/API) マスタ同期がスムーズ。freee会計のアドオンとして最適。
TeamSpirit API連携可 勤怠と工数が一体。複雑な清算ロジックも構築可能だが高コスト。
クラウドログ CSV/API連携 工数入力のUIが秀逸。レポート機能が強力で分析向き。

自社の規模と予算に合わせ、SaaSコストを削減。フロントオフィス&コミュニケーションツールの「標的」と現実的剥がし方の視点を持ち、最適なツールを選定してください。

実務ステップ:freee工数管理の設定と運用フロー

具体的な導入・設定手順を、IT実務担当者の視点で整理します。

STEP 1:freee会計側でのプロジェクト・取引先マスタ整備

まず、freee会計側で「プロジェクト」を正確に登録します。この際、プロジェクト名には「案件ID_案件名」といった命名規則を持たせることが重要です。また、取引先マスタも同様に整理しておきます。これが全てのデータの「親」となります。

STEP 2:freee工数管理での案件作成とメンバーアサイン

freee工数管理にログインし、「freee会計連携」メニューからプロジェクトを取り込みます。その後、各案件に対して担当するエンジニア(メンバー)をアサインします。ここでアサイン漏れがあると、従業員側の入力画面に案件が表示されないため、月初に必ずチェックする運用が必要です。

STEP 3:日次入力の徹底と承認ワークフローの定着

工数管理の精度は「入力の鮮度」に依存します。月末にまとめて入力すると、記憶が曖昧になり「とりあえず8時間」といった精度の低いデータになりがちです。freee工数管理のスマホアプリや、Slack連携機能を活用し、日次入力を徹底させます。PMは週次で承認ワークフローを回し、入力漏れや異常値を早期に発見します。

STEP 4:月次集計データと請求明細の突合

月末締めの後、freee工数管理から「工数実績レポート」をエクスポートします。このデータには、案件別・メンバー別の稼働時間が含まれています。これと、契約管理システム(あるいは管理台帳)の単価情報を突合し、清算計算を行います。算出した「請求確定額」をfreee会計の請求書作成機能へ反映させることで、稼働実績に基づいた正確な請求が完了します。

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SES特有の「清算(超過・控除)」への対応策

freee工数管理単体では、清算幅を考慮した自動計算ロジックを組むことはできません。この課題を解決するためには、「中間データ基盤」の構築が有効です。

APIを活用した高度な自動突合アーキテクチャ(概念)

手作業によるCSV加工を排除したい場合、Google BigQueryやAppSheetを活用した自動化が推奨されます。
具体的には、freee APIを通じて以下のデータを取得・統合します。

  • freee工数管理API:月間稼働時間(実績値)
  • スプレッドシート/DB:契約単価、下限時間、上限時間、超過/控除単価

これらをスクリプト(GAS等)で結合し、「(実績時間 – 上限時間) * 超過単価」といった計算を自動実行します。この設計思想については、Excelと紙の限界を突破する「Google Workspace × AppSheet」業務DX完全ガイドで詳述されているような、ノーコード/ローコードツールでの実装が相性抜群です。

SES 清算パターン別 freee工数管理設定 × 清算計算ロジック × 請求書への反映方法 早見表

前のセクションでSES特有の清算(超過・控除)への対応策を説明しましたが、「どの清算ルールのもとでfreeeをどう設定するか」は契約形態によって異なります。上限下限型の時間清算と、フレックス型の月額固定では、freeeでの管理フィールドの設計も計算ロジックも変わります。以下の表はSES主要清算パターン別のfreee設定と請求書への反映方法をまとめたものです。

清算パターン 契約内容(例) freee工数管理の設定指針 清算計算ロジック freee請求書への反映と注意点
上限下限型清算
(幅清算)
基準140〜180時間、基準単価80万円。140時間未満は控除、180時間超は超過加算 freeeの時間入力フィールドに月次の実稼働時間を記録。140h(下限)と180h(上限)を別フィールドに持たせて、実稼働時間との差分を自動計算するカスタムフィールド(またはスプレッドシート連携)を設計する ①実稼働が140〜180hの範囲内 → 基準単価80万円をそのまま請求。②実稼働が180h超 → 超過分(実稼働-180h)×超過単価(基準単価÷180h×1.0〜1.3等の係数)を加算。③実稼働が140h未満 → 不足分(140h-実稼働)×控除単価(基準単価÷140h)を控除 freee請求書の「品目」欄に「基準稼働費」「超過稼働費」「控除額」を分けて記載することで、クライアントが清算根拠を確認しやすくなる。超過・控除の計算根拠を請求書の「備考欄」に明記する運用ルールを設けると請求トラブルを防げる
固定月額型
(清算なし・定額)
月額固定70万円。稼働時間に関わらず毎月定額請求 freeeの工数管理は稼働時間の記録・把握用途として使い、請求額の計算には使わない設計でよい。実稼働時間はエンジニア個人の稼働管理・採算性確認のために記録する 清算計算なし。毎月同額を請求。freeeの「繰り返し請求書」で月次自動発行設定が最も運用負荷が低い 固定月額でも「稼働実績報告書」をクライアントに毎月提出する契約が多い。freeeの工数データから稼働実績サマリーを作成してPDF添付する運用にすると、稼働報告の工数を削減できる。Googleスプレッドシートからfreee APIで自動生成する設計も有効
時間単価型
(実稼働×時間単価)
時間単価5,000円。月次の実稼働時間×単価で請求額が変動 freeeの工数管理フィールドに日次または週次の稼働時間を入力。月次集計で合計稼働時間を算出してクライアント別・エンジニア別にレポートを作成できる設計にする 月次合計稼働時間×時間単価5,000円。超過・控除概念がなく計算はシンプルだが、月によって請求額が大きく変動するため、クライアントへの月次事前通知(見込み請求額の連絡)の運用ルールを設けることを推奨 時間単価型では稼働時間の記録精度が請求額に直結するため、エンジニアによる稼働入力の遅延・漏れが収益ロスにつながる。締め日3日前にfreeeまたはkintoneから「稼働時間入力を完了してください」の自動リマインドを送る仕組みを設ける
成果物型
(マイルストーン払い)
設計完了時30%・開発完了時50%・納品検収時20%の分割払い freeeの工数管理よりも「マイルストーン達成状況」の管理が主体。プロジェクト管理ツール(kintone・Backlog等)とfreeeを組み合わせて、マイルストーン承認イベントをトリガーに請求書を発行するフローを設計する 清算計算なし。マイルストーン達成時に契約金額の所定割合を請求。freeeでは案件ごとに「着金予定日」と「請求予定額」を管理して資金繰り計画に反映する 成果物型契約では「マイルストーン承認のエビデンス」(クライアントのサインや確認メール)を請求書の添付資料として保管することが重要。freeeの取引記録に添付ファイルとして証跡を保存する運用を設計する

この表で最も精度管理が難しいのが「上限下限型清算の超過・控除計算」です。基準時間の設定・超過係数・控除係数はクライアントごとに異なるため、freeeのカスタム項目またはスプレッドシートで各クライアントの清算ルールを管理して、月次の稼働時間を入力すれば請求額が自動計算されるテンプレートを整備することが計算ミスゼロへの最短経路です。kintoneに清算ルールマスタを設けてfreeeと連携する設計は、多数のSESクライアントを抱える企業での運用効率化に特に有効です。

よくあるエラーと運用上の落とし穴

システムを導入しても、運用が回らなければ意味がありません。よくある失敗例とその対策を挙げます。

マスタ名称の不一致によるデータ乖離

freee会計で「プロジェクトA」を「プロジェクトA_2024」に変更してしまったが、工数管理側のマスタ更新を忘れていた、というケースです。同期設定を自動化するか、マスタ変更は必ず管理者が両システム同時に行う運用ルールを徹底してください。

権限設定のミスによる単価情報の漏洩防止

freee工数管理で「標準単価」を請求単価として利用する場合、その単価情報は従業員に見えても良いものか、慎重に判断する必要があります。一般的に、SESのエンジニア本人には自身の売上単価(請求単価)を公開しないケースも多いため、権限ロールの設定で「単価情報の閲覧不可」を適用し、管理者のみが計算に利用できる構成にします。

工数管理は単なる事務作業ではなく、会社の利益を可視化し、次の投資判断(採用や教育)を行うための重要な経営判断材料です。freee工数管理を正しく設計し、請求単価との突合を仕組み化することで、バックオフィスの生産性は飛躍的に向上するはずです。

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AT
aurant technologies 編集

上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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