AirshipとBraze プッシュ中心施策の機能比較の進め方

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モバイルアプリを主軸としたCRM施策において、プッシュ通知の重要性は語るまでもありません。しかし、単純な「一斉配信」から、ユーザー個々の行動に合わせた「パーソナライズ配信」へとフェーズが移行するにつれ、標準的な配信ツールでは機能不足に直面します。

その際、必ず比較対象に挙がるのがAirship(エアシップ)Braze(ブレイズ)です。両者ともにグローバルでトップクラスのシェアを誇るカスタマーエンゲージメントプラットフォーム(CEP)ですが、その設計思想や得意領域には明確な違いがあります。

本記事では、IT実務者の視点から、これら2つのツールをどのように比較・検討すべきか、具体的な機能差と選定の手順を詳しく解説します。

AirshipとBrazeの比較検討が必要になる背景

モバイルプッシュを中心としたCRMの進化

かつてのプッシュ通知は、キャンペーン情報を全ユーザーに届ける「放送」に近いものでした。しかし現在、ユーザーは自分に関係のない通知を即座にオフにします。求められているのは、アプリ内での閲覧履歴、カート投入、あるいは物理的な店舗への来店といった「リアルタイムな行動」をトリガーとしたコミュニケーションです。

なぜ「無料ツール」や「自社開発」では限界が来るのか

Firebase Cloud Messaging (FCM) などを直接利用した自社開発や、安価な配信ツールでは、高度なセグメンテーションやマルチステップのシナリオ(ジャーニー)作成に、膨大な工数が必要になります。また、配信結果の分析から次の施策へ繋げるPDCAサイクルをマーケティング部門だけで完結させることが難しく、開発部門がボトルネック化するケースが後を絶ちません。

Airship vs Braze 機能・アーキテクチャ徹底比較

両ツールの違いを理解するためには、単なる機能の有無ではなく、「データがどのように処理され、どう配信に結びつくか」というアーキテクチャの視点が不可欠です。

プッシュ通知・メッセージング機能の差異

Airshipは、プッシュ通知の先駆者としての長い歴史があり、特に「通知の確実性と大規模配信の安定性」に定評があります。モバイルウォレット(Apple Wallet / Google Pay)との連携も強力で、クーポンや会員証を活用したオフライン連携に強みを持ちます。

対してBrazeは、ストリーミングデータ処理に最適化された設計が特徴です。ユーザーが「今」行ったアクションに対し、ミリ秒単位で反応してメッセージを出し分けるリアルタイム性に優れています。また、アプリ内メッセージ(In-App Message)のカスタマイズ性が非常に高く、エンジニアの工数をかけずにリッチなUIを表示できます。

比較一覧表:主要項目別のスペック差

公式ドキュメントおよび公表されている仕様に基づき、主要な比較項目をまとめました。

比較項目 Braze (ブレイズ) Airship (エアシップ)
コアの強み リアルタイムなデータ処理と、高度なオーケストレーション 大規模配信の安定性と、モバイルウォレット連携
データ連携 Braze Currentsによるリアルタイムデータ出力。Cloud Data Ingestionでの直接取り込み Real-Time Data Streamingによる外部連携。Snowflakeとのネイティブ接続
メッセージ形式 Push, Email, SMS, In-App, Content Card, Web Push, LINE(JP) Push, Email, SMS, In-App, Message Center, Wallet, Web Push
シナリオ作成 「Canvas」による視覚的かつ直感的なジャーニー設計 「Journeys」によるステップ配信。特定イベントへの反応に強い
料金体系 プラットフォーム利用料 + MAU(月間アクティブユーザー)ベース 基本料金 + 通数またはMAUベース(プランによる)

最新の料金や詳細な仕様については、それぞれの公式サイトをご確認ください。

・Braze公式サイト:https://www.braze.com/jp/

・Airship公式サイト:https://www.airship.com/ja/

データプラットフォームとしての拡張性とDWH連携

近年、これらのツールは単なる「配信システム」ではなく、「データプラットフォーム」としての側面を強めています。ここで重要になるのが、BigQueryやSnowflakeといったデータウェアハウス(DWH)との連携です。

例えば、Brazeは「Cloud Data Ingestion」という機能を提供しており、DWH上のデータをSDK経由のイベントとしてではなく、直接Brazeのユーザープロフィールに同期することが可能です。これにより、高額なCDPを介さずとも、既存のデータ基盤を活かした配信が可能になります。こうしたデータ連携の考え方については、以下の記事も参考になります。

高額なCDPは不要?BigQuery・dbt・リバースETLで構築する「モダンデータスタック」ツール選定と公式事例

【実務】比較選定を進めるための5ステップ

自社に最適なツールを選ぶためには、機能一覧を眺めるだけでなく、実務に即したステップで評価を行う必要があります。

STEP 1:自社の「必須イベント」と「ユーザー属性」を定義する

ツールを導入する前に、どのようなデータに基づいて配信を行いたいかを整理します。

  • イベント例:商品購入、会員登録、お気に入り追加、アプリ起動なし(離脱)
  • 属性例:会員ランク、最終購入日、居住エリア、保有ポイント数

これらを「リアルタイム(SDK)」で送るべきか、「バッチ(DWH)」で送るべきかを仕分けします。

STEP 2:リアルタイム性の要求水準を確定させる

「店舗のビーコンに反応して、店内にいる間にクーポンを送る」ような施策を重視するなら、Brazeのストリーミング処理能力が優位に働きます。一方で、定期的なニュースレターや1日1回のレコメンド配信が主であれば、Airshipの安定したバッチ配信機能で十分対応可能です。

STEP 3:既存データ基盤(DWH/CDP)との親和性を確認する

すでに自社でデータ基盤を構築している場合、そのデータをどうツールへ流し込むかが最大の課題となります。リバースETLなどを用いたモダンな構成を目指すなら、APIの柔軟性が高いツールを選ぶべきです。高額なMAツールを導入せず、既存基盤を活かす設計については、こちらの解説が役立ちます。

高額MAツールは不要。BigQueryとリバースETLで構築する「行動トリガー型LINE配信」の完全アーキテクチャ

STEP 4:運用体制(マーケターのスキルセット)に合わせる

どれほど多機能でも、設定にSQLや複雑な正規表現が必要なツールでは、マーケティング現場でのスピード感が失われます。Brazeの「Canvas」やAirshipのUIを実際にデモで確認し、現場の担当者が自力でABテストや条件分岐を設定できるかを確認してください。

STEP 5:PoC(概念実証)での検証項目を設定する

最終決定の前に、特定の一部ユーザーや特定の施策に絞ってPoCを実施することを推奨します。

  • SDK導入時のビルドエラーやアプリへの負荷確認
  • 外部データソースとの連携ラグの計測
  • 管理画面の日本語対応範囲とサポート品質

導入・運用時によくある落とし穴と解決策

SDK実装時のイベント設計ミス

最も多い失敗は、あらゆるイベントをSDKで送ろうとして、アプリのパフォーマンスを低下させたり、データ通信量を増大させたりすることです。「配信の条件(トリガー)に使うデータ」だけをSDKで送り、分析用の詳細データは別途ロギングするという切り分けが必要です。

外部API連携におけるタイムアウトとリトライ処理

プッシュ通知内に外部サーバーから取得した情報を動的に埋め込む場合(Connected Contentなど)、外部サーバーのレスポンスが遅れると通知自体が送られません。必ずフォールバック(デフォルト値)を設定し、システム全体の耐障害性を高める設計にしてください。こうした「摩擦のない」設計については、以下の記事も示唆に富んでいます。

広告からLINEミニアプリへ。離脱を最小化しCXを最大化する「摩擦ゼロ」の顧客獲得アーキテクチャ

コストの「MAU課金」による予算超過リスク

Brazeなどに代表されるMAU課金は、ユーザー数が増えるほどコストが上がります。「とりあえずアプリをインストールしているだけ」の休眠ユーザーが多い場合、コストパフォーマンスが悪化します。セグメントを絞ったデータ同期など、ツールに持たせる「課金対象ユーザー」をコントロールする運用が求められます。

まとめ:自社にとっての「正解」を選ぶために

AirshipとBraze、どちらが優れているかという問いに唯一の答えはありません。

Brazeは、データのリアルタイム性を極限まで高め、アプリ・Web・オフラインを縦横無尽に横断するような、「次世代の顧客体験」を自社で作り込みたい企業に向いています。

一方、Airshipは、プッシュ通知を中心としたモバイルマーケティングを、確実かつ大規模に、そしてモバイルウォレットなどの独自機能を活用しながら効率化したい企業に適しています。

選定の際は、今の課題を解決するだけでなく、3年後の自社が「どのようなデータ基盤を持ち、どのような顧客体験を提供していたいか」という未来予想図から逆算することが、後悔しないツール選びの秘訣です。

導入前に解消すべき「よくある誤解」と注意点

AirshipやBrazeのような高度なツールを検討する際、機能の豊富さに目を奪われがちですが、実務上は「コストの定義」と「チャネルの拡張性」で躓くケースが多く見られます。特に以下の2点は、選定会議の前に必ず確認しておくべき項目です。

1. MAU課金の対象範囲(課金ロジックの差)

多くのCEPツールで採用されている「MAU(月間アクティブユーザー)課金」ですが、各社でカウントの定義が異なります。例えば、「SDKが通信したユーザー」のみをカウントするのか、あるいは「DWHからインポートしただけの未アクティブユーザー」も対象に含まれるのかで、ランニングコストは数百万円単位で変動します。

確認すべき課金項目 チェックのポイント
匿名ユーザーの扱い ログイン前のアプリ起動ユーザーが課金対象に含まれるか(要確認)。
データインポート枠 配信対象外の属性データ保持に「プロファイル費用」がかかるか。
LINE連携コスト ツール側連携オプション費用とは別に、LINE公式アカウントのメッセージ通数費用が発生する。

2. 日本市場特有の「LINE」と「モバイルウォレット」の活用

グローバルツールである両者ですが、日本独自のニーズへの対応力も比較の鍵となります。BrazeはLINE公式アカウントとのネイティブな連携に定評があり、ジャーニーの中にLINE配信を組み込むことが容易です。一方、Airshipは「Apple Wallet / Google Pay」を活用したパス発行に強みがあり、実店舗への送客・クーポン消込を重視する小売・流通業において強力な武器となります。

こうしたLINEやWeb行動の統合については、以下の「ID連携」の考え方が実装の参考になります。

実務者向け:選定・運用開始時の最終チェックリスト

RFP(提案依頼書)の作成や、PoCの評価フェーズで活用できるチェックリストです。自社の開発リソースと照らし合わせて確認してください。

  • SDKの柔軟性:既存のトラッキングツール(Firebase, AppsFlyer等)とイベント発火が競合しないか。
  • 権限管理:ブランド別、国別、あるいは店舗別で「配信権限」や「閲覧可能な個人情報」を分離できるか。
  • 公式サポート体制:日本語による技術サポート(チケット対応)の範囲と、SLA(サービス品質保証)の内容。
  • データエクスポート:配信結果(クリック、開封、エラー等)を、どの程度の粒度で自社のDWHへ書き戻せるか。

特に、分析基盤とのデータ統合は「導入して終わり」にしないための生命線です。CDPやDWHをハブとした全体設計については、以下の図解入り解説も併せてご覧ください。

【図解】SFA・CRM・MA・Webの違いを解説。高額ツールに依存しない『データ連携の全体設計図』

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上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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