CrowdStrike/SentinelOne 等のセキュリティAIを比較|EDR/XDR の「AI」と謳う機能の見分け方(要公式確認)
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サイバー攻撃の高度化に伴い、従来の「パターンファイル(シグネチャ)」を用いたアンチウイルス(EPP)では対応できない脅威が急増しています。これに対抗するため、CrowdStrike(クラウドストライク)やSentinelOne(センチネルワン)といった次世代型EDR(Endpoint Detection and Response)/XDRは、その中核に「AI」を据えています。
しかし、ベンダーが謳う「AI搭載」という言葉には、製品ごとに大きなアーキテクチャの違いが存在します。単にAIという言葉を信じるのではなく、そのAIが「どこで」「何を」判定しているのかを理解しなければ、導入後の運用で手痛い失敗を招くことになります。
本記事では、IT実務者の視点から、CrowdStrikeとSentinelOneの公式ドキュメントに基づき、両者のAI機能の決定的な違いと、失敗しない選定基準を詳しく解説します。
EDR/XDRにおける「AI」の定義と重要性
まず整理すべきは、セキュリティ製品におけるAIの役割です。大きく分けて「機械学習(ML)による検知」と「生成AI(GenAI)による運用支援」の2つに大別されます。
従来型アンチウイルス(EPP)とAI搭載型(EDR)の境界線
従来型のEPPは、既知のウイルスの「指紋」をデータベース化して照合します。これに対し、AI搭載型のEDRは、ファイルの構造(静的解析)やプロセスの動き(動的解析)を数学的モデルに照らし合わせ、「見たことはないが、悪意のある動きの確率が高い」ものを検知します。
機械学習(ML)による静的解析と動的解析の違い
- 静的AI(Static AI):実行前のファイルをスキャンし、コードの特徴からマルウェアの可能性を判定します。
- 動的AI(Behavioral AI):ファイル実行後の「プロセスの親子関係」「メモリへの書き込み」「レジストリ変更」などの振る舞いをリアルタイムで監視し、ランサムウェア特有の動きなどを特定します。
生成AI(LLM)がセキュリティ運用の何を変えるのか
2024年以降のトレンドは、生成AIの統合です。CrowdStrikeの「Charlotte AI」やSentinelOneの「Purple AI」がこれに該当します。これらは脅威を防ぐのではなく、「なぜこのアラートが発生したのか」「次に何をすべきか」を自然言語で対話しながら解決するための、運用効率化ツールです。
SaaS増えすぎ問題と退職者のアカウント削除漏れを防ぐ。Entra ID・Okta・ジョーシスを活用した自動化アーキテクチャ
CrowdStrike Falconの実装:クラウドネイティブAIの真価
CrowdStrikeは、世界中から収集される膨大な脅威データをクラウド上で解析し、それを個々の端末(Falcon Agent)にフィードバックする「クラウドネイティブ」な設計が最大の特徴です。
クラウド側での大規模相関分析と「Falcon Fusion」
CrowdStrikeのAIの本体は、クラウド上の「Threat Graph」にあります。1日に数兆件ものイベントを処理し、単一の端末では気づけない「点と点の繋がり」を相関分析します。自動化ワークフロー機能である「Falcon Fusion」を用いることで、AIが検知した脅威に対して、チケット発行やネットワーク隔離を自動で実行するよう設定可能です。
Charlotte AIによる調査・ハンティングの自動化
Charlotte AIは、セキュリティチームが直面する「高度な専門知識の不足」を補います。「私の環境で昨晩発生した重大なアラートを要約して」といった質問に対し、複数のイベントログを跨いで原因を即座に回答します。これにより、インシデントレスポンスの時間を大幅に短縮できます。
オフライン環境での保護:ローカルMLモデルの限界と対策
CrowdStrikeはクラウド重視ですが、端末側にも軽量なMLモデルを保持しています。しかし、その真価はクラウド接続時に発揮されるため、長期間オフラインで使用する端末(工場の制御用PCなど)への導入検討時は、オフライン検知精度の公式ドキュメントを精査する必要があります。
公式参照:CrowdStrike Falcon Platform
SentinelOne Singularityの実装:エージェント完結型AIの強み
SentinelOneは、CrowdStrikeとは対照的に「自律型(Autonomous)」を掲げています。クラウドとの通信を前提とせず、端末のエージェント自体が高度な判断を下すことに重きを置いています。
エージェント内で完結する「Static AI」と「Behavioral AI」
SentinelOneのAIエンジンは、端末がオフラインであっても動作し続けます。エージェント内の「Storyline」技術が、プロセスの相関関係をリアルタイムで追跡。不審な挙動を検知した瞬間、クラウドの判断を待たずにプロセスを遮断します。これは、ネットワーク遅延の影響を受けたくない環境や、機密保持のために常時クラウド接続できない環境において強力なアドバンテージとなります。
特許技術「1-Click Rollback」とAIの連動性
実務担当者にとって最大の魅力は「ロールバック」機能です。AIがランサムウェアを検知した際、暗号化されてしまったファイルを、VSS(ボリュームシャドウコピー)を活用して感染前の状態に一括で戻すことができます。これは公式ドキュメントでも強調されている独自機能であり、復旧工数を劇的に削減します。
Purple AIがもたらす自律型サイバーセキュリティの未来
Purple AIは、SentinelOneのデータレイク(Singularity Data Lake)に蓄積された情報を活用し、脅威ハンティングを自動化します。特筆すべきは、クエリ言語を覚えなくても、自然言語で高度なログ解析を実行できる点です。
公式参照:SentinelOne Purple AI
【徹底比較】CrowdStrike vs SentinelOne
主要2製品のスペックとAIの思想を比較表にまとめました。選定の際のクイックリファレンスとして活用してください。
| 比較項目 | CrowdStrike Falcon | SentinelOne Singularity |
|---|---|---|
| AIの主要な場所 | クラウド(Threat Graph)中心 | エンドポイント(Agent)中心 |
| オフライン検知 | 限定的なMLモデル(クラウド推奨) | フル機能のAIが動作(自律型) |
| 自動復旧(ロールバック) | 隔離や修復スクリプトによる対応 | 特許技術による1クリック復旧 |
| 運用支援AI(生成AI) | Charlotte AI | Purple AI |
| ライセンス体系 | Pro/Enterprise/Elite(機能別) | Core/Control/Complete(機能別) |
| 料金目安 | 公式または代理店へ見積依頼推奨 | 公式または代理店へ見積依頼推奨 |
カタログスペックに騙されない「AI機能」の見分け方
「AI搭載」を掲げる安価な製品も増えていますが、実務者が騙されないためのチェックポイントは以下の3点です。
1. 公式ドキュメントで確認すべき3つのチェックポイント
- オフライン時の挙動:「インターネット未接続時に検知・遮断が可能か」を明記しているか。
- 判定の根拠(Explainability):検知した際に「どのAIモデルが」「何の振る舞いを見て」判断したのかを表示する機能があるか。
- 検知後の自動化範囲:検知するだけで終わりか、それともネットワーク隔離やファイル復旧までAIの判断で実行可能か。
2. MITRE ATT&CK評価結果の正しい読み解き方
客観的な指標として、非営利団体のMITRE社が行う「ATT&CK Evaluations」があります。ここで「Visibility(可視化率)」と「Analytic Insights(分析の深さ)」を比較してください。AIが優秀であれば、攻撃の全行程をノイズなく、かつ詳細に紐づけて可視化できているはずです。
3. PoC(導入前検証)で実施すべきAI検知テストの手順
PoCを実施する際は、以下の手順で「AIの賢さ」を試してください。
- シグネチャ回避テスト:市販のマルウェアの一部をバイナリエディタで1バイト書き換え、検知できるか確認する。
- 環境汚染テスト:正規のPowerShellなどを用い、通常業務では行わない不自然な通信やレジストリ操作をAIが「異常」として拾うか確認する。
- 過検知テスト:自社開発の社内ツールや古い基幹システムを動かし、AIが誤って止めてしまわないか(ホワイトリスト登録の容易性)を確認する。
AIセキュリティを最大化するシステムアーキテクチャ
EDR/XDRのAIを単体で動かすのはもったいない運用です。IT実務としては、これらをデータ基盤やID基盤と統合することで、真の防御力を発揮させます。
ID管理(Entra ID/Okta)との連携によるゼロトラストの実現
CrowdStrikeやSentinelOneは、Microsoft Entra IDやOktaとのAPI連携をサポートしています。例えば、「EDRのAIが異常を検知した瞬間、そのユーザーのIDトークンを強制的に失効(リセット)させる」という運用が可能です。これにより、PCだけでなくクラウドサービスへの二次被害を防げます。
ログ基盤(BigQuery)への集約と高度な相関分析
セキュリティログをEDRのコンソール内だけで完結させず、Google CloudのBigQueryなどのデータウェアハウスに転送することで、他のSaaSログ(Slackの不自然なログイン、Boxからの大量ダウンロードなど)と突き合わせた高度な調査が可能になります。
このようなモダンなデータ活用については、以下の記事が参考になります。
高額なCDPは不要?BigQuery・dbt・リバースETLで構築する「モダンデータスタック」ツール選定と公式事例
よくあるトラブルとFAQ
導入・運用フェーズでよく発生するエラーとその対処法をまとめました。
AIによる過検知が発生した場合の対処ステップ
- 除外設定の適用:公式ドキュメントに従い、ハッシュ値、パス、または証明書ベースで除外設定を行います。ただし、AIモデル自体をOFFにするのは避けてください。
- ポリシーの調整:「Detection(検知)」はAI高感度、「Prevention(ブロック)」は中感度にするなど、段階的な調整を行います。
オフライン端末が感染した際の挙動と復旧
SentinelOneのような自律型であれば、オフラインでもロールバックが機能しますが、VSSが攻撃者によって削除されている場合は失敗します。AIに頼り切るのではなく、定期的な外部バックアップとの併用が「実務としての正解」です。
導入時のコストパフォーマンスを最適化するには
すべての端末に最上位のAIライセンスを付与する必要はありません。役員や機密情報を扱う部署、外部持ち出しが多い営業用PCにはフル機能のXDRを、社内ネットワークから出ない固定端末には機能を絞ったエディションを選択するなどの構成検討が、SaaSコスト削減の鍵となります。
まとめ:AIを「機能」ではなく「アーキテクチャ」で選ぶ
CrowdStrikeとSentinelOne、どちらが優れているかは「貴社のインフラ環境と運用体制」に依存します。クラウドの知見を最大限に活かし、世界規模の相関分析を重視するならCrowdStrike。現場での自律的な防御と復旧の自動化を最優先するならSentinelOne。この違いを公式情報から読み解き、PoCで実証することが、検索上位の情報に惑わされない唯一の選定法です。