自治体の監査制度の実務 — 監査委員監査・外部監査・内部統制評価のつながりを整理する

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自治体の「監査」は、一見すると種類が多く、どれが法律上の義務でどれが任意なのか、誰が担うのか、結果はどこへ届くのかが分かりにくい領域です。監査委員が毎月行う出納検査と、年に一度の決算審査、数年に一度回ってくる包括外部監査、そして近年加わった内部統制評価報告書の審査——これらは別々の手続きでありながら、最終的には「議会への報告」と「住民への公表」という同じ出口でつながっています。本記事は、監査委員事務局・財政/会計担当・管理職の方が、自治体の監査制度の全体像を一枚の地図として把握できるよう、監査委員監査と外部監査(包括/個別)の役割分担、そして内部統制評価との接続関係を実務目線で整理します。

なお、条文番号・義務付け対象・運用の細部は自治体区分や条例によって扱いが変わる部分があります。本記事では一次ソースで確認できる範囲を示しつつ、確定的でない点は「区分・条例により異なるため確認を」と明記します。実際の運用は、お手元の例規集と監査委員協議会・総務省の最新通知でご確認ください。

監査機能の全体像 — 「誰が」「何を」「どこへ」

自治体における監査機能は、大きく分けて監査委員による監査外部監査人による監査の二系統で構成されます。前者は地方自治法に基づき各団体に必ず置かれる監査委員(法第195条)が担う常設の仕組みであり、後者は弁護士・公認会計士・税理士など外部の専門家と契約して受ける監査です。さらに2020年度から施行された内部統制制度のもとで、長が作成する内部統制評価報告書を監査委員が審査する手続きが加わりました。

この三者の関係を整理すると、次のようになります。日常的・定期的な財務チェックは監査委員が担い、独立した第三者の目を入れたい場面では外部監査が補完し、業務プロセスそのものの統制が機能しているかは内部統制評価で長が自己点検し、それを監査委員が審査する——という多層構造です。

区分 担い手 主な対象 結果の届け先
監査委員監査(定期・随時等) 監査委員 財務に関する事務の執行・経営に係る事業の管理 ほか 議会・長(必要に応じ公表)
例月出納検査 監査委員 現金の出納 議会・長
決算審査・健全化判断比率等の審査 監査委員 決算書類/健全化判断比率・資金不足比率 長(意見) → 議会へ
包括外部監査 外部監査人 監査人がテーマを選定(特定の事務・事業) 監査委員・議会・長(公表)
個別外部監査 外部監査人 請求・要求のあった個別案件 請求者・議会・長 等
内部統制評価報告書の審査 監査委員 長による内部統制の評価が適切か 長(意見) → 議会・公表

「監査」という一語に複数の制度がぶら下がっているため、庁内で議論するときは「どの監査の話か」を先に確定させるのが実務上のコツです。以下、それぞれを順に見ていきます。

監査委員監査の中身 — 定期監査・例月出納検査・決算審査ほか

監査委員は、普通地方公共団体に必ず置かれる独任制の執行機関です(地方自治法第195条)。定数は都道府県および政令で定める市で4人、その他の市・町村で2人を基本とし、識見を有する者と議員のうちから選任されます(条例で議選監査委員を置かないことも可能であり、この点は団体の条例によって異なります)。監査委員が担う主な行為は次のとおりです。

定期監査(財務監査)

もっとも基本となるのが、財務に関する事務の執行および経営に係る事業の管理を対象とする監査です。地方自治法第199条第1項・第4項に基づき、毎会計年度少なくとも1回以上、期日を定めて行うこととされています。予算の執行、収入・支出、契約、財産管理などが適正かつ効率的に行われているかを点検する、いわば監査委員監査の中核です。これに加え、必要があると認めるときに行う随時監査も同条で認められています。

例月出納検査

現金の出納については、毎月期日を定めて監査委員が検査を行い、その結果を議会および長に報告します。決算という年次のチェックを待たず、毎月ベースで現金の動きの正確性を確かめる仕組みで、出納整理・誤りの早期発見に資するものです。月次で淡々と回るぶん事務局の定常業務として定着していますが、検査調書の様式や指摘事項の扱いは団体ごとに運用差があるため、引き継ぎ時には自団体の例規・様式を確認しておくのが安全です。

決算審査

長は、決算および証書類その他政令で定める書類を監査委員の審査に付さなければなりません(地方自治法第233条第2項)。監査委員は計数の正確性や予算執行の適否などについて審査し、意見を付して長に返します。長はこの意見を併せて決算を議会の認定に付すという流れになり、議会の決算審査の前提資料として機能します。

健全化判断比率等の審査

地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)に基づき、長は実質赤字比率・連結実質赤字比率・実質公債費比率・将来負担比率といった健全化判断比率と、公営企業の資金不足比率を、算定の基礎となる書類とあわせて監査委員の審査に付し、議会に報告したうえで公表します。監査委員は、これらの比率や根拠書類が法令に適合し正確に作成されているかを審査します(制度の概要は総務省・健全化判断比率の算定)。財政状況を外形的な数値で開示する制度であり、決算審査と並ぶ年次の重要ルーティンです。

その他の監査(随時・行政監査・財政援助団体等監査など)

このほか、監査委員は必要に応じて事務の執行全般を対象とする監査(いわゆる行政監査)や、補助金の交付先・出資法人・公の施設の指定管理者など財政的援助等を与えている団体に対する監査を行うことができます。住民監査請求(地方自治法第242条)や事務監査請求(同第75条)を受けて行う監査もこの系統に含まれます。どの範囲まで対象に含めるか、どの頻度で実施するかは監査計画と団体の判断によるため、運用の詳細は自団体の監査基準・実施要領で確認してください。

なお、指定管理者については、監査委員監査の対象になりうると同時に、所管課による日常的なモニタリング・評価という別系統の管理も走ります。両者は目的も担い手も異なります。指定管理者のモニタリングと評価の実務については、指定管理者のモニタリング・評価の進め方で別途整理しています。

外部監査制度 — 包括外部監査と個別外部監査の違い

外部監査は、監査委員以外の独立した専門家による監査を契約に基づいて受ける仕組みで、地方自治法第13章(第252条の27以下)に定められています。外部監査人となれるのは、弁護士、公認会計士、国の行政機関での会計検査等に関する行政事務に従事した者など、一定の要件を満たす者です。外部監査には性格の異なる二種類があります。

包括外部監査

包括外部監査は、外部監査人が自ら監査テーマ(特定の事務・事業)を選定して行う、いわば網羅的・継続的な外部チェックです。地方自治法第252条の36第1項に基づく契約として、毎会計年度、外部監査人と契約を締結します。重要なのは義務付けの範囲で、包括外部監査契約の締結が義務付けられているのは都道府県・指定都市・中核市です。これら以外の市町村は、条例で定めた場合に導入できます(導入の有無・頻度は団体により異なります)。

監査人が監査の対象を自ら決められる点が包括外部監査の特徴で、毎年テーマが変わるため、たとえばある年は委託契約事務、別の年は公の施設の管理運営、といった形で庁内の異なる領域に光が当たります。結果は報告書として監査委員・議会・長に提出され、公表されます。担当課としては、自団体が義務付け団体に当たるかどうか、当年度のテーマに自課が該当するかを早めに把握しておくと、資料準備で慌てずに済みます。

個別外部監査

個別外部監査は、特定の事案について、監査委員の監査に代えて外部監査人による監査を求める仕組みです(地方自治法第252条の39以下)。たとえば事務監査請求(第75条)や住民監査請求(第242条)などに係る監査について、条例であらかじめ「監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることができる」と定めている団体で、請求者等が併せて個別外部監査を求めることができる、という建て付けです。

ここで実務上おさえておきたいのは、個別外部監査の導入には条例が必要であり、すべての団体で自動的に使えるわけではない点です。包括外部監査が「義務付け団体には毎年度ある常設の仕組み」であるのに対し、個別外部監査は「条例で道を開いておいたうえで、個別の請求・要求ごとに発動する仕組み」と理解すると区別しやすくなります。どの請求類型を個別外部監査の対象に含めるかは条例の定め方によって異なるため、対象範囲は自団体の条例で確認してください。

内部統制評価との接続 — 監査委員は評価報告書を「審査」する

2017年の地方自治法改正により、都道府県知事および指定都市の市長には内部統制に関する方針の策定と体制整備が義務付けられ(地方自治法第150条)、それ以外の市町村長は努力義務とされました。ここで監査制度と接続するのが、内部統制評価報告書の取扱いです。

方針を策定した長は、毎会計年度、内部統制の整備・運用状況を自己評価した内部統制評価報告書を作成し、これを監査委員の審査に付します。監査委員は、長による評価が適切に実施されているか、内部統制の不備が「重大な不備」に当たるかどうかの判断が適切に行われているかといった観点で審査し、審査意見を長に提出します。長は、監査委員の意見を付した内部統制評価報告書を議会に提出するとともに、公表します。

つまり監査委員は、内部統制そのものを構築・運用する立場ではなく、長が行った自己評価の妥当性を第三者として審査する立場に置かれています。決算審査や健全化判断比率の審査と同じ「審査」という行為類型であり、監査委員監査の年次サイクルのなかに内部統制評価の審査が一つ加わった、と捉えると庁内での位置づけが整理しやすくなります。両者は車の両輪で、内部統制が日常の業務プロセスにおける統制の自己点検であるのに対し、監査はその点検の妥当性を含めて外形的に確かめる役割を担います。

内部統制制度そのものの設計・運用——方針策定、リスク評価、不備の判定基準といった「評価する側」の実務については本記事では深入りしません。地方自治法第150条に基づく内部統制制度の具体的な進め方は、自治体の内部統制制度の実務で詳しく解説していますので、評価報告書を作成・整備する立場の方はそちらを参照してください。本記事はあくまで「作成された評価報告書を監査委員がどう審査し、どこへ届けるか」という接続点に焦点を当てています。

統一的な監査基準と実施要領 — 自治体間のばらつきをそろえる

かつては監査の質や手法が団体ごとにまちまちで、結果の比較や水準確保が課題とされてきました。これを受けて、監査委員が監査基準を定めることが法律上明確化され、総務大臣がその指針を示し必要な助言を行うこととされました。この流れの中で、総務省は2019年3月に「監査基準(案)」および「実施要領」を公表し(監査基準(案)・総務省)、各団体の監査委員はこれを踏まえて自団体の監査基準を策定・運用しています(いわゆる統一的な監査基準)。

実務的には、監査の目的・実施手順・監査調書の作成・指摘や意見の整理といった一連の作業が、この基準と実施要領に沿って標準化されている点が重要です。事務局としては、自団体が策定した監査基準の最新版と、総務省の通知・実施要領をセットで参照できるようにしておくと、計画立案から報告書作成までの拠り所が明確になります。基準の具体的な条項や運用は改定されることがあるため、最新の通知で内容を確認してください。

事務局の実務 — 年間サイクルと資料の整え方

ここまでの制度を、監査委員事務局・財政/会計担当の年間の動きとして並べ替えると、おおむね次のような流れになります(時期・順序は団体により異なります)。

  • 毎月:例月出納検査(現金の出納の確認、検査調書の作成)。
  • 年間を通じて:監査計画に基づく定期監査・随時監査・財政援助団体等監査の実施。
  • 出納整理後〜決算時期:決算審査、健全化判断比率等の審査、内部統制評価報告書の審査(該当団体)。意見を付して長へ。
  • 年度を通じて(義務付け団体):包括外部監査人によるテーマ選定・往査対応・報告書の受領と公表。
  • 請求発生時:住民監査請求・事務監査請求への対応(条例があれば個別外部監査の選択肢)。

これらに共通する事務局のボトルネックは、監査・審査の前提となる財務データの収集と突合にあります。決算審査や健全化判断比率の審査では、決算統計・財務書類・各課からの調書を突き合わせて計数の整合を確かめる必要があり、内部統制評価や包括外部監査でも、対象事業の予算・執行・契約データを横断的に取り出す場面が繰り返し発生します。年度末にデータを手作業で寄せ集める運用のままだと、審査そのものよりも資料づくりに時間を取られがちです。

予算・決算や事業ごとの執行状況を平時から一元的に可視化しておけば、監査・審査のたびに必要な計数を即座に取り出せ、年間サイクルの各局面で資料準備の負荷を平準化できます。財政・会計データの可視化と予実管理の考え方については、自治体の使途・予実管理を可視化する実務で整理しているので、監査対応の前段にあたるデータ整備の参考にしてください。

よくある疑問

包括外部監査はすべての自治体に義務付けられているのですか。

いいえ。包括外部監査契約の締結が義務付けられているのは都道府県・指定都市・中核市です。それ以外の市町村は、条例で定めた場合に導入できます。自団体が義務付け対象かどうかは区分により決まるため、まずは自団体の区分を確認してください。

包括外部監査と個別外部監査は何が違うのですか。

包括外部監査は外部監査人が自らテーマを選んで毎会計年度行う網羅的な監査で、義務付け団体には常設されます。個別外部監査は、事務監査請求や住民監査請求などに係る監査について、条例で道を開いている団体で、監査委員の監査に代えて個別の案件ごとに外部監査人による監査を求めるものです。導入に条例が必要な点が個別外部監査の特徴です。

監査委員は内部統制をつくる立場なのですか。

いいえ。内部統制の方針策定・体制整備を行うのは長です。監査委員は、長が作成した内部統制評価報告書について、評価が適切に行われているかを第三者の立場で審査し、意見を付して長に返す役割を担います。その意見を付した報告書を長が議会に提出・公表します。

監査委員監査と外部監査、そして内部統制評価の審査は、それぞれ担い手も対象も異なりますが、最終的には議会への報告と住民への公表という形で財政の透明性を支える点で一本につながっています。制度の地図を押さえたうえで、その前提となる財務データを平時から整えておくことが、限られた事務局体制で監査・審査の質を保つ近道になります。本記事の条文番号・対象範囲は一次ソースで確認できる範囲を示したものですが、運用の細部は自治体区分・条例・最新通知により異なるため、実務では必ず自団体の例規と総務省・監査委員協議会の最新資料でご確認ください。

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