【導入事例】会計システムの移行支援。古い仕組みを解約する前に過去データを移し、毎月の報告書で検算する進め方を決めたサービス業F社の移行の裏側
オンプレミスの会計・予実管理システムを使ってきたサービス業F社。新しい会計をクラウドの会計ソフトへ切り替え、古い仕組みを解約する前に、過去の実績と予算を分析用のデータ基盤へ移すことにしました。当社は、ひと月分の見本で形と抜き出しの条件を決め、毎月の報告書の表紙を検算の拠り所にする進め方を組みました。移し替えは進行中です。
本事例は、当社がいま支援している実際の案件をもとに構成しています。企業名と、お客様の環境にある製品の名前は伏せ、業種・規模・時期は一般化して記載しています。案件は進行中のため、結果ではなく、決めた進め方と確かめ方を紹介します。古い会計システムを解約する前の過去データの移し替えを検討する際の参考にしていただければ幸いです。
業種:サービス業
ご相談:古い会計・予実管理の仕組みを解約する前に、過去の実績と予算を分析用のデータ基盤へ移したい
期間:進行中(見本で変換と検算の手順を組み、全部の月のデータをこれから受け取る段階)
使う製品:データ基盤(クラウドのデータウェアハウス)。新しい会計はクラウドの会計ソフト
解約の前に、過去の実績と予算を残したい
F社は、オンプレミスの会計・予実管理システムで、実績と予算を管理してきました。新しい会計はクラウドの会計ソフトへ切り替え、古い仕組みは解約することにしています。ただ、予実の画面で前年と比べたり、来期の予算を作るときに過去の実績を見たりするため、過去の実績と予算はこの先も使います。解約すると、古い仕組みの中にしか無いこれらのデータは、あとから取り出せなくなります。
そこで、解約の前に過去の実績と予算を分析用のデータ基盤へ移し、新しい会計ソフトの数字と月でつないで見られるようにすることになりました。当社は、移し替えの進め方の設計と、変換と検算の手順づくりを担当しています。
残す粒度は、仕訳の明細ではなく、月ごとの勘定科目・部門・管理コード別の金額(残高試算表)にしました。予実を比べる単位と同じで、古い仕組みから出せる形でもあるためです。その代わり、担当者・取引先・商品の分類といった切り口は、過去の期間では空欄になります。
仕組み:オンプレミスの会計・予実管理システム。新しい会計へ切り替えたあとに解約する予定
困りごと:解約すると、過去の実績と予算を予実の画面や来期の予算づくりで使えなくなる
求められたこと:過去の実績と予算をデータ基盤へ移し、移した数字が正しいと確かめられること
ひと月分の見本で、形と抜き出しの条件を決める
全部の月を抜き出してもらう前に、ひと月分の見本を、実績・当初予算・修正予算の種類ごとにもらいました。見本でファイルの形を読み、変換の手順と、次の節で書く検算の手順を組んでから、残りの月の抜き出しを頼む順番です。
抜き出しの指定は、先方がデータを出す前にまとめてお渡しします。期間(起点の月と、古い仕組みの最後の月)、種類と修正予算の版、ファイルの単位(月ごと・種類ごと)、見本と同じ抜き出しの条件、ファイル名、あわせてもらう年度末の月の報告書です。なかでも、最後の月・修正予算の版・承認の状態の三つは、決まらないまま抜き出すと出し直しになるため、先に確かめることにしました。
受け取ったファイルは、変換の前に機械で形を確かめます。列の並びが見本と同じか、期間がひと月になっているか、抜き出しの条件が全部のファイルで同じか、同じ月・種類・版のファイルが重なっていないか、を見ます。
過去データの移し替えの進め方
見本で手順を組んでから、全部の月に同じ手順を当てます
元のファイルと変換の手順を残し、古い仕組みが無くなっても作り直せるようにする
図:構成を簡略化して描いています(画面や実際のデータではありません)。
毎月の報告書の表紙で検算する
移した数字が正しいかは、段を分けて確かめます。1段目は、ファイルの中で閉じる確かめです。古い仕組みの出力には、売上高の合計や営業利益といった合計科目の行も入っているため、明細の科目を区分ごとに足した値と合計科目の値が合うか、利益の段も区分の値から計算して合うかを見ます。合わなければ、抜き出しの漏れか変換の誤りです。
ただし1段目で分かるのは、古い仕組みの中で数字がそろっていることまでです。部門をどうまとめたか、どの科目を売上高に入れたかといった変換の側の決めごとが、社内で使ってきた数字と合っているかは分かりません。そこで2段目の拠り所を、先方が毎月作ってきた報告書の表紙に置きました。経営が毎月見てきた数字で、経理が古い仕組みから作ってきたものなので、変換とは別の手で作られた答え合わせの相手になります。年度末の月の報告書をもらえば、その年度の各月もまとめて確かめられます。
突き合わせは、表紙と同じまとまり・同じ定義・同じ丸め方で行います。変換したデータから、表紙の行(会社全体と、部門をまとめた単位)と列(指標・月・種類)の一つずつに当たる数字を計算し、表紙と同じ単位に丸めて比べます。3段目として、データ基盤に入れたあと、予実の画面と予算を作る仕組みから読んで、同じ数字が出るかも確かめます。
移した数字を確かめる順番
1段目ファイルの中で閉じる
明細の科目を区分ごとに足した値と合計科目、利益の段、行の重なり
分かること:抜き出しの漏れと、変換の誤り
2段目毎月の報告書の表紙と突き合わせる
表紙と同じまとまり・定義・丸め方で、行と列の一つずつを作って比べる
分かること:まとめ方と定義が、社内で使ってきた数字と合っているか
3段目使う側から読む
予実の画面と予算を作る仕組みから読み、同じ数字が出るか
分かること:つなぎ方と、画面の側の計算
図:構成を簡略化して描いています(画面や実際のデータではありません)。
丸め方で気をつけたのは、足し上げた行です。表紙では、部門をまとめた単位ごとに丸めた値を足して、その上の行や会社全体の行を作っていました。変換したデータの側で円のまま足してから丸めると、変換に誤りが無くても、丸めの単位で±1ほど食い違うことがあります。そこで、部門をまとめた単位の行は差を許さず、足し上げた行と会社全体の行だけ、丸めの単位で±1までを丸めの差として扱うことにしました。この扱いは、データを受け取る前に、受け入れの基準として決めています。
足し上げた行で、丸めの差が出る仕組み
変換に誤りが無くても、作り方の違いだけで出る差です
報告書の表紙の作り方(丸めてから足す)
変換したデータから作ると(足してから丸める)
部門をまとめた単位の行は差を許さない。足し上げた行と会社全体の行だけ、丸めの単位で±1まで
図:構成を簡略化して描いています(画面や実際のデータではありません)。
変換で間違えやすい所を、先に決めておく
見本を読むなかで、変換で数字が変わりうる所を洗い出し、決めごととして手順に入れました。
変換で間違えやすい所と、決めたこと
残高の列
年度の累計になっている
- 年度の最初の月は、残高の列でも合う
決めたこと:月の金額は、その月の発生額から取る
合計科目
明細と同じ表に並んでいる
- 明細と一緒に足すと、二重に数える
決めたこと:本体の表に入れず、確かめにだけ使う
修正予算
月ごとに版がある
- どの月に、どの版を当てるかで数字が変わる
決めたこと:報告書の表紙と同じ当て方にする
管理コード
コードの月と計上した月がずれる
- ある月の実績に、別の月のコードが載る
決めたこと:月は計上した月で持つ
図:構成を簡略化して描いています(画面や実際のデータではありません)。
一つ目は、損益の科目の残高の列です。残高は年度の累計で持たれていて、年度の最初の月だけは、残高とその月の発生額が同じになります。見本の月はこの月にあたり、残高の列を使っても数字が合ってしまう月でした。次の月からは残高が累計になるため、月の金額は必ず、その月の借方と貸方の発生額から取ることにしました。
二つ目は、合計科目です。売上高の合計や営業利益などが、部門や管理コードの無い会社全体の行として、明細と同じ表に並んでいます。明細と一緒に足すと二重に数えるため、本体の表には入れず、1段目の確かめにだけ使います。
三つ目は、修正予算の版です。修正予算は月ごとに作り直されていて、ある月の修正予算にどの版を当てるかで数字が変わります。報告書の表紙がその月に載せている版と同じ当て方にしました。
四つ目は、管理コードの月です。部門より細かい単位で損益を見るための管理コードには、年や月を表す部分があります。ある月の実績に、別の月のコードが付いた行が載っていたため、月は管理コードからではなく、計上した月で持つことにしました。
新旧の境目は、月ごとにどちらから取るかで分ける
新しい会計ソフトで実績を持ち始めたあとは、データ基盤の上で、移した過去の数字と新しい会計ソフトの数字をつないで見ます。つなぎ方は、月でどちらから取るかを切り替える形にしました。切り替えの月の前の月までは古い仕組み、その月からは新しい会計ソフト、と1か所で決め、同じ月を両方から足さないようにします。新しい会計ソフトの側も、仕訳を月・勘定科目・部門・管理コードで集計し、同じ形にそろえてからつなぎます。
月ごとに、どちらから取るかを切り替える
同じ月を両方から足さない。切り替えの月は1か所で決める
図:構成を簡略化して描いています(画面や実際のデータではありません)。
境目の前後には、先方に確かめてから決めることが残っています。
| 確かめること | 決めること |
|---|---|
| 最後の月 | 古い仕組みの最後の月は、新しい会計ソフトで実績を持ち始める月の前の月か。並行して動かす間に、同じ月が両方に入らないか |
| 修正予算の無い月 | 当初予算を修正予算とみなしてよいか |
| 未承認の仕訳 | 過去の月に残っていないか。直近の月は、古い仕組みを止める直前に抜き直すか |
| 決算整理の仕訳 | 抜き出しの条件で入るか。年度末の月は報告書の表紙で確かめる |
受け取った元のファイルと変換の手順(プログラム)は、データ基盤とは別に保管します。データ基盤の表は元のファイルから毎回全件を作り直して入れ替える形にしているので、決めごとを直したときも、古い仕組みが無くなったあとも、同じ手順で作り直せます。
いまの段階
移し替えは進行中で、全部の月の移し替えはまだ済んでいません。いまは、見本のひと月分で変換と検算の手順を組み、抜き出しの指定と、先方に確かめる点をまとめた段階です。全部の月のデータを受け取ったら、同じ手順で変換と突き合わせを行い、データ基盤へ入れて、予実の画面と予算を作る仕組みから読んで確かめます。
いま:見本のひと月分で変換と検算の手順を組み、抜き出しの指定と受け入れの基準を決めた段階
次に:全部の月のデータを受け取り、同じ手順で変換と突き合わせをしてからデータ基盤へ入れる
決めたこと:検算の拠り所(毎月の報告書の表紙)、丸めの差の扱い、新旧の境目の月の扱い
古い会計システムを解約する前のデータの移し替えを含む移行の進め方は、基幹システムの刷新・レガシー移行のページでも紹介しています。
※本事例は、当社がいま支援している実際の案件をもとに構成しています。案件は進行中です。企業名と、お客様の環境にある製品の名前は伏せ、業種・規模・時期は一般化して記載しています。