ふるさと納税 自治体マーケティングの現在地 — 51.2%が増加・27.7%が減少。二極化の背景と都城市・泉佐野市の体制設計

2025年自治体DX推進協議会調査(n=303)では寄附額が増加した自治体51.2%、減少27.7%と二極化が鮮明に。勝敗を分けたのは「返礼品魅力(55.8%)」「ポータル戦略(36.3%)」「プロモ強化(28.7%)」の3要因。都城市のLINE×KANAMETO×24時間チャットボット運用、泉佐野市の9ポータル多重化と#ふるさと納税3.0、嘉麻市・有田町の中小自治体の現実解、現地消費型42.2%という新潮流を、公的データと実在事例から論じる。

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2025年5月に一般社団法人自治体DX推進協議会が実施した「ふるさと納税実態調査」(全国303自治体が回答)は、ふるさと納税市場の構造を一言で表している。寄附額が前年より増加した自治体は51.2%(155団体)、減少した自治体は27.7%(84団体)。「同じ制度の下で運用しているのに、明暗が23.5ポイントも開いている」。これが2025年の現実だ。

制度全体は2024年度に1兆2,727億円(前年比+14%)まで拡大し、5年連続で過去最高を更新した。一方で件数は5,878万件と制度開始の2008年度以降初めて前年割れを起こしている。マクロは成長しているが、その成長は一部の自治体に偏っている。市場が成熟した今、何が勝敗を分けるのか。本記事では、同協議会調査の数値と、都城市・泉佐野市・有田町などの具体的な事例から、その問いに答えていく。

寄附額の二極化と増減要因(自治体DX推進協議会2025年5月調査)増加51.2%/減少27.7%。要因の上位は返礼品魅力(55.8%)、ポータル戦略(36.3%)、プロモ強化(28.7%)寄附額の増減状況(303自治体)増加(155自治体)51.2%減少(84自治体)27.7%変化なし(±10%以内)(64自治体)21.2%寄付額増減の要因(複数回答)返礼品の魅力向上・多様化55.8%ポータルサイト戦略36.3%プロモーション強化28.7%競合自治体の動向21.8%制度変更の影響20.1%米需要・米不足関連11.2%出典: 一般社団法人 自治体DX推進協議会「2025年5月 ふるさと納税実態調査」(全国303自治体回答)2025年7月発表

勝っている自治体は「何」をしているのか — 5つの要因

同協議会調査では、自治体に対して「寄附額の増減要因」を複数回答で聞いている。最多は「返礼品の魅力向上・多様化」(55.8%)。次いで「ポータルサイト戦略」(36.3%)、「プロモーション強化」(28.7%)、「競合自治体の動向」(21.8%)、「制度変更の影響」(20.1%)と続く。米需要や米不足関連を要因に挙げた自治体も11.2%あった。

注目すべきは、上位3要因が全て「自治体側でコントロールできる施策」であることだ。返礼品の選定・拡充、ポータルでの露出方法、ホームページや広告でのプロモーション ── ここに自治体ごとの工夫の余地がある。一方で、「制度変更の影響」「競合動向」は外部要因で、ここを言い訳にしている自治体は結果が出ていない傾向が同調査からも読み取れる。

同協議会は今後取り組みたい施策のトップに「各ポータルサイトでのページ改善・広告運用」(69.3%)、次いで「リピーター施策の実施」(63.0%)を挙げる自治体が多かったと報告している。新規獲得の主戦場であるポータルでの露出最適化と、ポイント禁止後に重要度が増したリピーター戦略の2軸が、当面の主要テーマだ。

都城市 — 「LINE×24時間チャットボット」を10年継続する

2024年度の寄附額ランキングで第4位の宮崎県都城市(176億円)は、過去10年で4度全国1位に輝いた常連だ。同市の戦略の特徴は、「派手な施策の単発打ち」ではなく、長期視点での顧客接点の積み上げにある。

都城市ふるさと納税課は2022年から「LINE広告を本格的に活用」している。LINEヤフー社が公表した事例によると、配信効果を高めるための検証を繰り返し、ターゲティング項目に「ふるさと納税」を加えたセグメントではクリック率が約2.3倍高かったという。一般的な広告セグメントとふるさと納税関心層では、明確に反応率が違うことが定量的に確認できた事例だ。

同市は獲得した寄附者を維持する仕組みも整備している。LINEサービスでは、寄附情報や配送情報の問い合わせに対応する24時間365日対応のチャットボットを提供。これは「いつでも・誰でも・自動で」対応するインフラで、ふるさと納税課の有人対応工数を下げながら、寄附者の利便性を向上させる。プラットフォームには「KANAMETO」(LINE公式アカウントのAPI対応ツール)を採用し、アンケート回答に基づくセグメント配信やシナリオ型チャットボットを運用している。

都城市のLINEを軸にしたマーケ運用LINE広告→公式アカウント→セグメント配信→24時間チャットボット。配信効果検証で「ふるさと納税関心層」セグメントはCTR 2.3倍LINE広告運用2022〜ふるさと納税関心セグメントLINE公式アカウント友だち追加KANAMETO(API対応)セグメント配信返礼品提案セグメントクリック率 2.3倍チャットボット24時間365日寄附情報・配送問合せ自動応答都城市は2024年度寄附額176億円(全国4位)。LINE戦略は2022年から継続展開出典: LINEヤフー for Business「都城市がLINE広告を始めた理由」、都城市公式SNS運用方針、KANAMETO導入事例

都城市の事例から学べるのは、「マーケティングは10年スパンの仕組み構築」であって、単年度の広告予算ではないという視点だ。LINE広告で新規寄附者を集める、KANAMETOで友だち追加してセグメントを切り、ふるさと納税課がチャットボットで応答する ── この一連の流れを構築するには、ふるさと納税課・SNS担当・LINE広告運用パートナー・チャットボット運用パートナーの4者の連携が必要になる。これを継続できる自治体は、当然限られる。

泉佐野市 — ポータル多重化と「#ふるさと納税3.0」

2024年度ランキング第3位の大阪府泉佐野市(181億円)は、別の戦略パターンを示す。同市は9つのふるさと納税ポータルサイトを併用することで知られる。多重化のメリットは2つ。第1に、ポータル各社の手数料交渉力が増す(1社専属だと条件交渉できない)。第2に、ポータル各社の集客特性が違うため、寄附者層を広く取り込める。

同市は2020年9月から「#ふるさと納税3.0」というクラウドファンディング型の独自フレームワークを立ち上げた。地場産業の事業者や個人事業主にプロジェクト提案を募り、寄附で集まった資金で新たな返礼品そのものを生み出す。たとえば、地ビール会社のヤッホーブルーイングを誘致し、その後の返礼品ラインナップとして定着させた事例が報じられている(MarkeZine 2021年)。「既存返礼品を流通させる」から「返礼品を生む仕組みを内製する」への進化形で、市場が成熟しても新規返礼品が生まれ続ける構造を作った。

都城市と泉佐野市は対照的なアプローチに見えるが、共通点もある。10年スパンで継続できる仕組みを内製していること。属人的な担当者の頑張りに依存しないインフラ化が、両市の安定性の正体だ。

中小自治体の現実解 — 有田町・嘉麻市の小さな突破口

都城市や泉佐野市のような大規模な体制は、寄附額が数億円規模の中小自治体には現実的でない。中小自治体の現実解として参考になるのは、佐賀県有田町と福岡県嘉麻市のような事例だ。

佐賀県有田町はSNS広告とPR戦略に集中投下し、1年間で申込件数を1.1万件、寄付額を1.8億円増加させたと報じられている(キッズスター事例)。有田焼という地場資源と、SNSとの相性のよい「映える」返礼品の組み合わせが効いた。返礼品開発に大規模投資できなくても、既存の地場産業資源を発信力で再構築するパターンだ。

福岡県嘉麻市は、「桃の町」というブランディングで特設サイトを構築。生産者のインタビューなど返礼品以外の情報をサイトに載せ、地域全体の物語として伝える設計をした。同市が公表した「ふるさと納税額の更なる発展に向けた戦略施策」資料には、Web広告と特設サイトの一体運用で寄附増を実現したプロセスが記載されている。

中小自治体が取れる現実的な打ち手は、「強みを1つに絞って、SNSや特設サイトで物語として伝える」ことだ。大規模自治体の真似をする必要はない。むしろ規模が小さいからこそ、特定テーマに集中投下する戦略が映える。

新潮流 — 「現地消費型」が42.2%の自治体で実施

自治体DX推進協議会の2025年調査が示したもう一つの注目データは、「現地決済型・現地消費型ふるさと納税」の実施率が42.2%に達したことだ。検討中の自治体を含めると約3分の2が前向きという。

これは「返礼品を発送する」従来モデルから、「現地に来てもらって使う」体験提供モデルへの移行を意味する。代表的なのが、寄附で得たクーポンやポイントを現地の宿泊・飲食・体験施設で使う仕組み。観光誘客と地域経済への直接的貢献を同時に実現できる。観光業比率の高い自治体(北海道のリゾート地、京都・奈良の文化観光地、沖縄など)が先行している。

現地消費型の意義は、ふるさと納税の本質に立ち返ろうとする動きである点だ。返礼品の物理的な発送競争(送料負担も自治体側)から脱却し、地域経済を直接潤す形に再設計する。2026年10月施行の段階的「6割ルール」で物流コストが圧迫される中で、送料を気にしなくていい現地消費型のメリットは相対的に高まる。

マーケティングの主戦場は「広告」ではなく「体制」へ

ここまで見てきた事例に共通するのは、勝っている自治体は「単発の広告施策」ではなく「継続できる仕組み」を持っているという点だ。都城市のLINE×KANAMETO×チャットボット、泉佐野市の9ポータル+#ふるさと納税3.0、嘉麻市の特設サイト×Web広告の一体運用 ── どれも一夜で構築できるものではなく、複数年かけて積み上げた体制が背景にある。

この事実は、勝てる自治体と勝てない自治体の差が「マーケティング担当者の能力」ではなく「組織として継続できる構造」にあることを示唆する。ふるさと納税の窓口担当者は多くの自治体で1〜3名程度。広報を兼務している場合も多い。この体制で都城市レベルの運用を再現するのは構造的に不可能だ。だからこそ、外部委託先(ポータル運営事業者、地場のマーケ会社、SNS運用パートナー)との分業設計と、月次・年次の検証サイクルを制度化することが、規模を問わない普遍解になる。

同協議会が今後取り組みたい施策のトップに「ポータルでのページ改善・広告運用」(69.3%)が挙がっているのも、これが内製で完結できる施策ではないからだ。多くの自治体は外部委託や運用代行で動かしている。ここを上手く設計できるかが、寄附額の二極化の中で「上側」に位置取りできるかの分かれ目になる。

2026年10月新ルール後の景色 — 体制投資が一段と問われる

2026年10月から施行される段階的「6割ルール」(自治体活用率を4年で60%まで引き上げる規制)と、地場産品基準の厳格化(区域内付加価値の証明書提出など)は、自治体側の業務負担を確実に増やす。これに対応するには、現在の「ふるさと納税窓口担当者1〜3名」体制では足りない。会計・事業所管課・広報・ポータル管理を横串で運用できる体制を、各自治体が独自に組まなければならない。

2024年度に寄附額が減った27.7%の自治体は、ここで体制を整えられないと2026年度以降さらに離されていく。逆に、いま準備に着手すれば、2027〜2028年に上位レイヤーに食い込む余地がある。「マーケティング」という言葉が指す範囲は、もはやSNS運用や広告予算配分の話ではなく、自治体DX全般の話になっている

Aurant Technologies では、ふるさと納税の予実管理BI(事業別・ポータル別の寄附状況可視化)と業務体制設計の伴走を提供している。詳細は 予実管理BIサービスのページ、2026年10月の制度改正の解説は 新ルール完全ガイド、市場全体の数字感は 2024年度1.27兆円総括 をあわせて参照されたい。

参照した一次資料・調査

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上場企業からスタートアップまで、数多くのデータ分析基盤構築・AI導入プロジェクトを主導。単なる技術提供にとどまらず、MA/CRM(Salesforce, Hubspot, kintone, LINE)導入によるマーケティング最適化やバックオフィス業務の自動化など、常に「事業数値(売上・利益)」に直結する改善実績多数。

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