ローカルLLMが本当に要るのはどんなときか|『社外に出せない』を分けて考えると、構築しなくて済む場合がある
ローカルLLMを構築する前に、「社外に出せない」の中身を分けて確かめます。学習に使われない法人向けの契約、事業者の側に残る期間、個人情報、国内での保存と処理、閉域の接続、LGWAN接続系で足りる場合と、切り離しが要る場合を、各社の公式の文書と国のガイドラインで整理しました。
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この記事の要点
- 「社外に出せない」には、学習に使われたくない、事業者の側に残したくない、個人情報が入る、取引先との契約、国内に置きたい、インターネットを通したくない、ネットワークから切り離す必要がある、といった別々の条件が混ざっています。条件ごとに、足りる対策が違います。
- 多くの条件は、法人向けの契約と管理設定、国内で処理できる提供形態、閉域の接続で満たせます。ただし、保存の期間や処理の場所は、同じ事業者でもモデルや設定で変わるので、使うモデルごとに公式の文書で確かめます。
- ローカルLLMが本当に要るのは、インターネットに接続していない機器で扱うと決まっている情報を使うときなどです。その場合も、自社の質問でクラウドのモデルと比べ、GPUサーバーの更新と障害のときの対応を誰が持つかを決めてから進めます。
「社外に出せない」の中身と、足りる対策
上の段から順に確かめる。いちばん下の段だけが、ローカルLLMを検討する場合
学習学習に使われたくない
法人向けの契約で、入力と出力を既定で学習に使わないことを確かめる。フィードバックの送信など、例外の扱いも見る
足りる対策:法人向けの契約と管理設定
保存事業者の側に残したくない
保存される期間と例外(不正利用の監視、保存する機能)を、使うモデルごとに確かめる
足りる対策:保存期間の設定、保持しない契約(承認制)
個人情報個人情報が入る
利用目的の範囲か、応答の出力以外(学習など)に使われないか、事業者とサーバの所在国を確かめる
足りる対策:法人向けの契約と、社内の手続き(利用目的、公表する事項)
契約取引先から預かった情報
秘密保持の契約の文言を法務と確かめる。扱う機器や場所まで決まっていれば、いちばん下の段へ
足りる対策:契約の確認と、取引先の了解
国内国内に置きたい
保存の場所と処理の場所を分けて確かめる。国内で処理できるかは、モデルと設定で変わる
足りる対策:国内の地域を指定できる提供形態
経路インターネットを通したくない
プライベートエンドポイントなどの閉域の接続でつなぐ。処理は事業者の設備で行われる
足りる対策:閉域の接続
自治体LGWAN接続系から使いたい
LGWAN-ASPのサービスか、α’モデルでISMAPに登録されたサービスにつなぐ。使える範囲は情報の区分で決まる
足りる対策:LGWAN-ASP、α’モデル
切り離しネットワークから切り離す
規程や契約で、インターネットに接続していない機器で扱うと決まっている情報。外につながらないネットワークの中で使う場合
ここで初めて、ローカルLLMを検討する
当社の整理。各段の根拠は、本文の各節に挙げた公式の文書とガイドライン
「社外に出せない情報があるから、クラウドの生成AIは使えない。だからローカルLLMを構築する」と決める前に、その「出せない」の中身を分けて確かめます。入力した内容をAIの学習に使われたくないのか、事業者の側に一定の期間残るのが困るのか、個人情報や取引先から預かった情報が入るのか、国内に置く必要があるのか、インターネットを通したくないのか、それともネットワークから切り離した機器で扱うと決まっているのか。どれに当たるかで、足りる対策が変わります。
学習と保存の扱い、個人情報、取引先との契約、国内での保存と処理、インターネットを通る経路は、多くの場合、法人向けの契約と管理設定、国内で処理できる提供形態、閉域の接続を組み合わせて満たせます。自社でGPUサーバーを持ってモデルを動かすローカルLLMが本当に要るのは、ネットワークから切り離す必要がある場合が中心です。政府の情報システム向けに書かれたデジタル庁のガイドブックも、生成AIの提供形態は、既製のサービス、クラウドのAPI、自前の環境に置くモデルの順に検討するよう勧めています。扱う情報の機密性の高さから自前の環境を選ぶことも十分にありうるとしつつ、その形は開発と運用のコストが最も高い傾向があり、使えるモデルも限られるとしています(テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版))。
この記事は、Aurant Technologiesが生成AIの導入を支援するときに最初に確かめる「扱う情報の種類」と「使うツールとプラン」を、条件ごとに各社の公式の文書と国のガイドラインに照らして確かめる手順にまとめたものです。各社の規約と仕様は2026年9月29日に確認しました。今後変わることがあるので、契約の前にもう一度、同じ文書で確かめてください。
「クラウドは使えない」と言われたら、理由を一つずつ聞き直す
「クラウドは使えない」と言ったのが情報セキュリティの担当でも、法務でも、取引先でも、最初に次のことを聞き直します。
- どの情報のことか。文書やデータの種類と、どの部署のどの業務で使うものか
- 何が困るのか。学習に使われること、事業者の側に残ること、国外に置かれること、インターネットを通ること、など
- 根拠はどこにあるか。社内規程のどの条項か、取引先との契約のどの条文か、法令か
- 誰が最後に判断するか
答えを冒頭の図の段に当てはめると、どの対策で足りるかの見当がつきます。一つの情報に、いくつもの段が当てはまることもあります。たとえば住民の個人情報を扱う自治体なら、個人情報の段と、自治体の区分の段の両方を確かめます。
「学習に使われる」という心配は、個人向けのプランでの扱いから来ていることがあります。個人向けのプランと法人向けの契約では、入力したデータの扱いが違います。次の節は、法人向けの契約で何を確かめるかから始めます。
学習に使われない契約と、事業者の側に残る期間
法人向けの契約では、4社とも、入力と出力を既定ではモデルの学習に使わないと、公式の文書で説明しています。
- Anthropic:Claude for Work や API などの法人向けの製品(Is my data used for model training?)
- OpenAI:ChatGPT Business・Enterprise・Edu と API プラットフォーム(OpenAI におけるエンタープライズプライバシー)
- Microsoft:Microsoft Foundry(旧 Azure AI Foundry)で提供する Azure OpenAI などのモデル(Azure が販売する Foundry モデルのデータ、プライバシー、セキュリティ)と、Microsoft 365 Copilot(Microsoft Copilot のデータ、プライバシー、セキュリティ)
- Google:Gemini Enterprise Agent Platform(旧 Vertex AI。Gemini Enterprise Agent Platform and zero data retention)と、Google Workspace の Gemini(Google Workspace の生成 AI に関するプライバシー ハブ)
個人向けのプランは扱いが各社で違い、設定しだいで学習に使われるものがあります。個人向けと法人向けの違いは、AI活用支援のページで4社分を表にしています。
「学習に使わない」の例外と、保存の期間
「学習に使わない」には例外があります。Anthropicは、利用者が高評価・低評価のボタンでフィードバックを送ると、その会話全体を最長5年保存し、学習に使うことがあるとしています。TeamプランとEnterpriseプランの管理者は、組織の設定でこの送信を止められます(同じ文書)。使い始める前に、こうした例外と、管理者が止められる設定を確かめておきます。
学習に使わない契約でも、不正利用の監視などのために、入力と出力が一定の期間、事業者の側に保存されることがあります。4社の法人向けの扱いは次のとおりです。
| 事業者(対象) | 学習(既定) | 事業者の側に保存されるもの | 例外・確かめること |
|---|---|---|---|
| Anthropic(Claude for Work、Claude API など) | 使わない。フィードバックを送った会話などは例外 | API の入力と出力は、受け取りから30日以内に削除。Claude for Work の会話は製品の中に残り、削除すると30日以内に消える。Enterprise は保存期間を管理者が決められる(最短30日) | 保存する機能(Files API など)、保持しない契約、利用ポリシー違反の調査、法令による場合は別。違反と判定された会話は最長2年保存 |
| OpenAI(ChatGPT Business・Enterprise・Edu、API) | 使わない | API は不正利用の監視の記録を、既定で最長30日保存。ChatGPT Enterprise・Edu などは、保存期間を利用する側で管理 | 記録から除く設定(Zero Data Retention、Modified Abuse Monitoring)は、事前の承認が要る |
| Microsoft(Microsoft Foundry の Azure OpenAI など、Microsoft 365 Copilot) | 許可や指示なく基盤モデルの学習に使わない。Foundry の入力は、OpenAI などモデルの提供者に渡さない | Foundry は、不正使用の監視で人が確かめる入力と出力を、リソースと同じ地理(geography)の保管場所に置くことがある。Copilot のやり取りは、Microsoft 365 のほかのデータと同じ約束で保存 | 人が確かめるための保存は、申請して承認されると行われない。一部の高度なモデルは基準が厳しい |
| Google(Gemini Enterprise Agent Platform、Google Workspace の Gemini) | 事前の許可や指示なく学習に使わない。Workspace は人によるレビューもしない | Agent Platform は、疑わしい利用を検出したときにプロンプトを最長90日記録(Google Cloud マスター契約の顧客は既定で対象外)。「高度な AI」に指定されたモデルは、すべての入力と出力を最長30日保存。Workspace の会話の保存期間は管理者が決める(既定18か月) | 90日の記録は申請で止められる。高度な AI の一部の機能は、保存をゼロにできない |
2026年9月29日に各社の公式の文書で確認。出典:Anthropic How long do you store my organization’s data?・Configure custom data retention controls for Enterprise plans、OpenAI Data controls in the OpenAI platform・エンタープライズプライバシー、Microsoft Learn Foundry モデルのデータ、プライバシー、セキュリティ・不正使用の監視・Microsoft Copilot のデータ、プライバシー、セキュリティ、Google Gemini Enterprise Agent Platform and zero data retention・Abuse monitoring・Google Workspace の生成 AI に関するプライバシー ハブ
新しいモデルに替えると、保存の条件が変わることがある
保存の条件は、同じ事業者、同じ契約の中でも、使うモデルによって変わることがあります。Anthropicは2026年6月9日から、同社が指定した一部の新しいモデル(Mythos級のモデルと、同じ基盤の Claude Fable 5・5.1 など)について、保持しない契約(Zero Data Retention)を結んでいる組織でも、入力と出力を30日保存するとしています。AWS、Google Cloud、Microsoft Foundry を通して使う場合も同じです(Data retention practices for Covered Models。一部の組織には、別の扱いの案内があるとしています)。Amazon Bedrock と Google Cloud の説明にも、これらのモデルの入力と出力を最長30日保存する旨があります(Amazon Bedrock による不正検出、Abuse monitoring)。OpenAIも、保持しない扱いを承認した顧客について、事前に書面で知らせたうえで、特定のモデルをその扱いの対象から外すことがあるとしています(Data controls in the OpenAI platform)。
保持しない契約を結んでいても、モデルを替えると条件が変わることがあります。モデルを替えるときに保存の条件を確かめ直す手順を、社内の決まりに入れておきます。
学習と保存の条件を確かめる順番
保持しない契約(Zero Data Retention など)は承認制。結んでいても、対象から外れるモデルがある
当社の整理。例外と条件は Anthropic・Anthropic(Covered Models)・OpenAI・Amazon Bedrock・Google Cloud の各文書による(2026年9月29日確認)
個人情報と、取引先から預かった情報
個人情報が入る場合
個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、事業者が個人情報を含むプロンプトを生成AIサービスに入力するときに、二つのことを確かめるよう求めています。一つは、入力が、特定した利用目的を達成するのに必要な範囲にとどまっていること。もう一つは、サービスの事業者が、入力された個人データを応答の出力以外の目的で扱わないこと、たとえば機械学習に使わないことです。本人の同意なく入力した個人データが応答以外の目的で扱われると、法に違反する可能性があるためです。行政機関や自治体にも、同じ趣旨の注意点が示されています(生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について)。
クラウドサービスを使うことが個人データの第三者への提供や委託に当たるかについて、委員会のQ&Aは、保存するデータに個人データが含まれるかではなく、サービスの事業者がその個人データを取り扱うことになっているかで判断するとしています(Q&A 7-53)。取り扱わないことになっている場合でも、利用する側は自ら安全管理措置を講じる必要があります(Q&A 7-54)。
事業者が外国にある場合は、もう一段確かめます。外国の事業者のクラウドに個人データを保存するときは、その国の個人情報保護の制度を把握したうえで安全管理措置を講じ、事業者とサーバの所在国などを本人が知り得る状態に置く必要があり、サーバが日本国内にある場合も同じだとされています(Q&A 10-25)。また、外国の事業者が国内のサーバに保存された個人データを取り扱う場合は、外国にある第三者への提供に当たることがあります(Q&A 12-4)。
総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版、2026年3月31日)も、AIを使う事業者に、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意することと、提供者が定めた規約を守ることを挙げています(AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編)。個人情報が入ることは、それだけでローカルLLMが要る理由にはなりません。確かめるのは次のことで、個人情報の担当や法務と一緒に見ます。
個人情報を入れる前に、個人情報の担当と確かめること
利用目的
特定した利用目的の範囲か
- 入力が、利用目的の達成に必要な範囲にとどまるか
根拠:個人情報保護委員会の注意喚起
事業者の扱い
応答の出力以外に使われないか
- 機械学習などに使わないことを、契約と公式の文書で確かめる
根拠:個人情報保護委員会の注意喚起
提供と委託
事業者が個人データを取り扱うか
- 取り扱うなら、提供か委託に当たる(委託なら事業者の監督が要る)
- 取り扱わない場合も、自社の安全管理措置は要る
根拠:Q&A 7-53・7-54
外国
事業者とサーバの所在国
- その国の制度を把握し、本人が知り得る状態に置く
- サーバが国内でも、外国の事業者なら確かめる
根拠:Q&A 10-25・12-4
出典:個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(2023年6月2日)、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A 7-53・7-54・10-25・12-4。整理は当社
取引先から預かった情報
取引先から預かった図面や仕様書、取引先の顧客のデータには、秘密保持の契約で、第三者への開示や目的の外での利用を制限しているものがあります。クラウドの生成AIに入力することが、契約の言う開示や利用に当たるかは、契約の文言によって変わります。当てはまりそうなら法務と条文を確かめ、必要なら取引先に使い方(どのサービスに、どの設定で入力するか)を説明して了解を取ります。
契約で、扱う機器や場所まで決まっていることもあります。たとえば「社外のネットワークにつながらない端末で扱う」と決まっている情報は、後の節の「ネットワークから切り離す必要がある」に当たります。
国内での保存・処理と、インターネットを通さない接続
「国外に置けない」は、保存の場所と、処理の場所に分けて確かめます。保存の場所は、会話の履歴やアップロードしたファイルなどが置かれる国です。処理の場所は、モデルが入力を受け取って答えを計算する国です。多くのサービスで、この二つは別々の設定で決まります。「インターネットを通したくない」は、さらに別の、通り道の話です。
「国内に置く」を、保存・処理・通り道に分けて確かめる
保存の場所
データがどの国に置かれるか
- 会話の履歴、アップロードしたファイル、不正利用の監視の記録など
- 対象にならない機能やデータ(利用状況など)がある
確かめる所:データ所在地の設定と、その対象になる機能
処理の場所
モデルがどの国で計算するか
- 保存が国内でも、処理は国外のことがある
- グローバルの設定は、処理の場所を限らない
- 新しいモデルは、まずグローバルの設定で提供されることがある
確かめる所:展開の種類、エンドポイント、推論の地域の設定
通り道
インターネットを通るか
- プライベートエンドポイント、PrivateLink、Private Service Connect で閉域につなぐ
- 閉域でも、処理は事業者の設備で行われる
確かめる所:公開のネットワークからの接続を止めているか
出典:Microsoft Learn Microsoft Foundry モデルの展開の種類・ネットワーク分離を構成する方法、OpenAI Data controls in the OpenAI platform、AWS AWS PrivateLink、Google Cloud Private Service Connect。整理は当社
保存が国内でも、処理は国外のことがある
主なサービスの扱いを、2026年9月29日に公式の文書で確かめました。
| サービス | 保存の場所 | 処理の場所 |
|---|---|---|
| Microsoft Foundry(Azure OpenAI など) | 指定した Azure の地理(geography)。どの展開の種類でも同じ | グローバル:任意の地域。データゾーン:米国・EU・アジア太平洋の範囲の中。Standard:指定した地理の中 |
| OpenAI API | 日本を選べる(不正利用の監視の変更か Zero Data Retention の承認が要る) | 日本での処理には対応していない。処理に対応していない地域では、地域の外で処理し、一時的に保存することがある |
| ChatGPT Enterprise・Edu | 新しいワークスペースで、日本を選べる | 推論を地域の中に限る設定の対象は、欧州(EEA+スイス)・米国・アラブ首長国連邦 |
| Claude API(Anthropic から直接) | ワークスペースの地域は米国だけ | 「米国のみ」か「全世界」から選ぶ |
| Gemini Enterprise Agent Platform | 選んだロケーション | グローバルのエンドポイントは処理の場所を保証しない。地域のエンドポイント(日本は asia-northeast1)は、その国・地域の範囲の中。対応はモデルごとの表で確かめる |
| Amazon Bedrock | 既定は呼び出した地域。不正利用の検出のために保存する分は、処理した地域 | 地理的なクロスリージョン推論は、米国・欧州・APAC などの範囲の中。範囲はモデルごとのページで確かめる |
2026年9月29日に各社の公式の文書で確認。出典:Microsoft Learn Microsoft Foundry モデルの展開の種類、OpenAI Data controls in the OpenAI platform・Data residency and inference residency for ChatGPT、Anthropic Data residency、Google Cloud Data residency、AWS 地理的クロスリージョン推論・Supported Regions and models for inference profiles
日本での保存を選べても、処理まで日本に限れるとは限りません。Microsoft Foundry では、新しいモデルはまずグローバルの展開の種類で提供され、展開の種類はグローバル、データゾーン、地域の順に使えるようになります。地域の中で処理する種類は最後で、使えるようになる時期も保証されていません(Microsoft Foundry モデルの展開の種類)。国内での処理を条件にすると、使えるモデルが限られたり、新しいモデルを使えるのが遅れたりすることがあります。規程や契約が求めているのが保存の場所なのか、処理の場所なのかを、元の文言に戻って確かめます。
国内のサーバでも、法令の上の扱いは別に確かめる
個人データの場合は、サーバの場所だけでは扱いが決まりません。前の節で見たとおり、外国の事業者が国内のサーバの個人データを取り扱うなら、外国にある第三者への提供に当たることがあります(Q&A 12-4)。自治体向けの総務省のガイドラインも、クラウドサービスではデータセンターがある国の法律が適用される場合があることに触れ、情報を保存できる国や地域を前もって決めておくよう求めています(地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和8年3月版))。
インターネットを通さずにつなぐ
「インターネットを通したくない」が条件なら、閉域の接続で足ります。Microsoft Foundry は、プライベートエンドポイントでつなぎ、公開のネットワークからの接続を無効にできます(Microsoft Foundry のネットワーク分離を構成する方法)。Amazon Bedrock は、AWS PrivateLink のインターフェイスエンドポイントを使うと、インターネットゲートウェイや NAT を使わずに、VPC の中から呼び出せます(インターフェイス VPC エンドポイント (AWS PrivateLink))。Google の Agent Platform は、社内のネットワークから Cloud VPN や Cloud Interconnect と Private Service Connect を通して、非公開でつなぐ構成を示しています(Use Private Service Connect to access Agent Platform from on-premises)。
ただし、閉域の接続で変わるのは通り道です。データを受け取って処理するのは、事業者のデータセンターのままです。「事業者の設備にデータを渡さない」ことが条件なら、閉域の接続では満たせないので、後の節の「ネットワークから切り離す必要がある」に進みます。
自治体がLGWAN接続系から使う場合
自治体の情報セキュリティポリシーの参考として、総務省は「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を示しています。2026年9月29日時点の最新は、令和8年3月27日に改定された令和8年3月版です(ガイドライン(令和8年3月版))。ガイドラインは生成AIに限った書き方ではありませんが、どの区分の情報にパブリッククラウドを使えるかと、LGWAN接続系からクラウドサービスへのつなぎ方を示しています。
情報の区分ごとに、パブリッククラウドを使える範囲
ガイドラインは、機密性の区分ごとに、パブリッククラウドサービスを使える範囲の例を示しています(図表22)。住民記録や税務などのシステムに保存される住民の個人情報(自治体機密性3B)と、職員の属性に基づく個人情報や入札予定価格など(3C)は、ISMAPに登録されたサービスなら、アクセス制御や暗号化などの対策を講じて使えるとしています。インターネットに接続していない機器への保存が求められているのは、秘密文書に相当する文書(3A)のうちの極秘文書です。一方で、クラウドサービスの利用を定めた8.3の解説は、画一的な約款への同意だけで使えるクラウドサービスでは、原則として自治体機密性2以上の情報は扱えないとしています(ガイドライン本文)。
自治体機密性の区分と、パブリッククラウドを使える範囲
ガイドラインの例示(図表22)の要約。各団体は、これを参考にポリシーを定める
自治体機密性1公表された情報など
利用可
自治体機密性2政策検討に関する情報など
利用可。アクセス制御、暗号化などの対策が必要
画一的な約款への同意だけで使えるクラウドサービスでは、原則として扱えない
自治体機密性3B・3C住民の個人情報など
住民記録・税務などのシステムの住民の個人情報(3B)、職員の属性に基づく個人情報や入札予定価格など(3C)は、ISMAPに登録されたサービスなら利用可
アクセス制御、暗号化などの対策が必要
自治体機密性3A秘密文書に相当する文書
行政文書の管理に関するガイドラインと、政府の統一基準に沿って扱う
極秘文書は、インターネットに接続していない電子計算機や媒体への保存が求められている
出典:総務省 地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和8年3月版) 図表22、8.3の解説。要約は当社
総務省の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」(導入手順編、第4版、令和7年12月)は、この区分を生成AIに当てはめ、入力した要機密情報を学習させない仕組みが重要だとしたうえで、扱う情報が個人情報に当たるからといって生成AIの利用を全て否定することは、職員の業務効率化や住民サービスの向上にとって必ずしもプラスにならないとしています(自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版))。
LGWAN接続系からつなぐ道
LGWAN接続系の端末から使う道として、ガイドラインは二つを示しています。一つはLGWAN-ASPで、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)の審査で閉域性が確認されたサービスを、LGWANを通して使えます。もう一つはα’モデルで、LGWAN接続系からインターネット上の特定のクラウドサービスへ直接つなぎます(ローカルブレイクアウト)。α’モデルで使えるのはISMAPのクラウドサービスリストに登録されたサービスで、登録されたサービスを基盤に作られたサービスは、それだけでは登録サービスとして扱えません。採用する前に外部による確認を受けて報告書をJ-LISに出し、その後も定期的な外部監査が要ります(ガイドライン本文)。
LGWAN接続系から生成AIを使う道
LGWAN経由
LGWAN-ASPのサービス
- J-LISの審査で閉域性が確認されたサービスを、LGWANを通して使う
GPUサーバー:庁内に置かない
ローカルブレイクアウト
α’モデルでクラウドへ
- 使えるのは、ISMAPのクラウドサービスリストに登録されたサービス
- 登録されたサービスを基盤に作ったサービスは、それだけでは登録サービスとして扱えない
- 採用の前に外部による確認とJ-LISへの報告。その後も定期的な外部監査
GPUサーバー:庁内に置かない
庁内に閉じる
モデルを庁内に置く
- 極秘文書のように、インターネットに接続していない機器で扱う情報を使う場合
GPUサーバー:庁内に置き、更新と保守の担い手を決める
出典:総務省 同ガイドライン(令和8年3月版) 第3編の解説(LGWAN-ASPとの接続、α’モデル)。整理は当社
どちらも、庁内にGPUサーバーを置かずに使える道です。庁内に閉じたモデルが要るのは、極秘文書のように、インターネットに接続していない機器で扱う情報を使う場合です。庁内の利用ルールの作り方は、自治体の生成AI活用ガイドライン整備の進め方で扱っています。
ネットワークから切り離して動かす必要があるとき
ここまでの対策で満たせないのは、インターネットに接続していない機器で扱うと決まっている情報と、外につながる経路を作れない場所で使う場合です。たとえば、自治体の極秘文書のように規程で保存先が決まっている情報、取引先との契約で扱う端末まで決まっている情報、工場や研究所の閉じたネットワークの中で使う場合です。このときは、モデルを自社の環境に置いて動かすローカルLLMが検討の対象になります。
デジタル庁のガイドブックは、モデルを自分の環境に置いて使う形について、インターネットにつながらない環境だけで完結できるため、非常に機微な情報を扱うときの選択肢になるとしています。一方で、初期の構築と保守運用のコストが高く、使える大規模言語モデルも限られるとしています。提供形態を比べた表でも、この形は開発のコストが最も高く、最高峰のモデルを使えない可能性が高く、運用のコストも最も高い傾向があるとしています(利用がとても多い場合に運用のコストを抑えられる可能性にも触れています)。
なお、ガイドブックの言うこの形には、オンプレミスのサーバーだけでなく、クラウドの上に計算環境を用意してモデルを置く方法も含まれます。切り離しが条件のときは、クラウドの上の環境も外につながる環境なので、置き場所は社内の、外につながらないネットワークになります(ガイドブック(α版)2.4・7.3)。
ローカルLLMを検討に入れるか
扱う情報が、規程や契約で「インターネットに接続していない機器で扱う」と決まっているか
例:自治体の極秘文書、扱う端末まで決めた取引先との契約
使う場所が、外につながる経路を作れないネットワークか
例:工場や研究所の閉じたネットワーク
当社の整理
ローカルで動かすときも、外に出ない設定を確かめる
ローカルで動かすつもりでも、道具の設定しだいで外に送ることがあります。たとえば Ollama は、手元のモデルに加えて、Ollama のクラウドで動くモデルも同じアプリやコマンドから使えます(Cloud – Ollama)。手元のモデルだけに限るには、設定ファイルか環境変数でクラウドの機能を無効にします(How do I disable Ollama Cloud features?)。切り離しが条件なら、こうした設定を確かめたうえで、外につながらないネットワークに置きます。
オープンなモデルにも、それぞれ利用条件(ライセンス)があります。デジタル庁のガイドブックは、元のモデルに追加の学習をしたモデルは元のモデルのライセンスを引き継ぐのが一般的なので注意が要る、としています(ガイドブック(α版)7.3)。業務に使う前に、モデルごとの利用条件を確かめます。
ローカルのモデルとクラウドのモデルを、自社の質問で比べる
ローカルLLMを選ぶと、使えるモデルが限られます。業務に足りるかは、一般的な性能の比較では分からないので、自社の実際の質問で、ローカルのモデルとクラウドのモデルを比べます。デジタル庁のガイドブックが生成物の品質の評価について挙げている工夫が、そのまま比べ方に使えます(ガイドブック(α版)5.2)。
ローカルのモデルとクラウドのモデルを、自社の質問で比べる
1 集める
実際の質問と正解
- 過去の問い合わせとその回答
- 正解の根拠になる文書とページ
2 選ぶ
比べるのに使う文書
- クラウドのモデルにも送ってよい文書で比べる
- 出せない文書は、同じ種類の出してよい文書で代える
3 そろえる
同じ条件で動かす
- 同じ文書、同じ指示文、同じ質問
- OpenAI の API の形の呼び出しは、Ollama でも一部使える
4 繰り返す
同じ質問を何度か
- 同じ入力でも答えがばらつく
- ばらついても合格するかを見る
5 採点する
観点を分けて、複数人で
- 必要な文書を拾えたか
- 答えが文書に書かれた内容か
- 読みやすさと形式
6 決める
差を業務で許せるか
- 足りない所が、指示文や文書の整え方で埋まるかも見る
出典:デジタル庁 テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版) 5.2、OpenAI compatibility – Ollama。整理は当社
質問と正解は、過去の実際のやりとりから集めるのが近道です。ガイドブックも、ヘルプデスクの過去の問い合わせと回答を、そのまま試験の問題と正解に使う例を挙げています。答えのばらつきは避けられないので、同じ質問を何度か試し、ばらついても合格するかを見ます。採点は漠然と良し悪しを見るのではなく、必要な文書を拾えているか、答えが文書に書かれた内容か、読みやすく決めた形式になっているか、というように観点を分け、複数の人が別々に行います。
比べるときに使う文書にも気を付けます。クラウドのモデルで試すには、試験の質問と文書をクラウドに送ることになるので、送ってよい文書(公開済みの規程や、固有名詞を伏せた文書など)で比べます。社外に出せない文書そのもので比べられない場合は、同じ種類の、出してよい文書で代えます。呼び出し方をそろえておくと比べやすく、Ollama は OpenAI の API の一部に対応しているので、同じ試験の仕組みから手元のモデルも呼び出せます(OpenAI compatibility – Ollama)。
差が出たら、その差を業務で許せるかで決めます。足りない所が、指示文や文書の整え方で埋まるかも確かめます。ローカルのモデルで足りない業務があるなら、切り離しが要る情報だけをローカルで扱い、ほかはクラウドで扱う分け方もあります。
GPUサーバーを誰が面倒を見るか
自社のサーバーで動かせる Dify のようなツールを使う場合の、クラウド版かセルフホストかの分け方と、直す人は「Dify の導入支援を頼む前に決めること」で解説しています。
ローカルLLMは、置いたあとの仕事が続きます。
- GPUのドライバー、OS、推論のソフト(Ollama など)の更新
- 新しいモデルへの入れ替えと、前の節の比べ方での確かめ直し
- 故障や停止への対応(部品の交換、止まっている間の代わり)
- 利用者の認証と、操作の記録
- 電源、冷却、置き場所の管理
更新には期限もあります。NVIDIAのデータセンター向けのドライバーは、本番向けのブランチで1年、長期サポートのブランチで3年と、不具合と安全上の修正が出る期間が決まっています(Driver Lifecycle)。期間が終わる前に次のブランチへ移る計画が要ります。モデルも、置いたものが自動で新しくなることはないので、入れ替えるかどうかと時期を自社で決め、そのたびに確かめ直します。
担い手がいるかも確かめます。東京商工会議所が2025年1月10日に公表した調査(調査期間2024年10月15日〜11月15日、主に東京23区の中小企業、回答1,218社)で、口頭・電話・帳簿での業務が多いと答えた企業を除く1,002社の情報システム担当者の置き方は、専任の担当者がいる11.7%、兼任の担当者がいる43.9%、外部委託している15.0%、担当者はいない28.9%、不明0.5%でした(中小企業のデジタルシフト・DX実態調査 集計結果(詳細版))。
情報システム担当者の置き方
主に東京23区の中小企業。口頭・電話・帳簿での業務が多いと答えた企業を除く1,002社
出典:東京商工会議所 中小企業のデジタルシフト・DX実態調査 集計結果(詳細版)(2025年1月10日。調査期間2024年10月15日〜11月15日、回答1,218社)
担当者がいない、または兼任の場合は、保守を外部に頼むことになります。頼む範囲(更新、障害のときの対応、部品の交換)と、止まったときにどれだけの時間で戻すかを、契約で決めます。そのうえで、ローカルで扱う情報を、切り離しが要るものだけに絞ると、保守の対象を小さくできます。
試す順番は、一つの部署・一種類の文書から
社内の規程や手順書で試すときに、読ませる文書の仕分けと、答えに根拠の文書名と箇所を付ける設計は「社内の文書をAIで引けるようにする前に」で解説しています。
最初から全社の決まりを作ろうとせず、一つの部署の、一種類の文書から始めます。質問が多く、答えの根拠になる文書がそろっている業務のほうが、試しやすく、結果も確かめやすくなります。
試す順番
広げるかは、試す前に決めた基準で判断する。合わなければ、そこで止める
当社の整理
一種類の文書で「出せない」理由の振り分けができると、同じ部署のほかの文書も、同じ図で振り分けられます。切り離しが要る文書が一部だけなら、その文書だけをローカルで扱い、ほかは法人向けの契約や国内での処理で扱う、という分け方ができます。どの形でも、使い始める前に、入れてよい情報の決まりを社内に示しておきます。
Aurant Technologiesでは、「社外に出せない」の中身を分けるところから、入れてよい情報の決まりづくり、法人向けのプランと管理設定、機密のデータを分けて扱う構成の設計までをお手伝いしています。生成AIの使い方とツール・プランの選び方はAI活用支援のページで、ネットワークから切り離した環境でのローカルLLMやプライベートなAI環境の構築はセキュリティ・オンプレミス対応のページで紹介しています。
AI活用支援
Claude・ChatGPT・Gemini・Copilotのどれをどの業務に使うかの見極めから、社内のAIチャット環境、権限と情報の扱いの設計、MCPやAPIでの既存システム連携、研修・伴走までを支援します。
