freee記帳を『ルールで動かす』──田村直大公認会計士・税理士事務所 × RuleHub 導入インタビュー
約80社を顧問先に持つ田村直大公認会計士・税理士事務所。freeeの自動登録ルールを一元管理するRuleHubで、記帳を『推論まかせ』から『ルールで動かす』へ。月次決算5営業日→0.5営業日、記帳の最大95%自動化を見据えた、統制重視のAI活用を聞いた。
会計事務所のいま最大の悩みは、記帳の属人化と、増える顧問先に運用が追いつかないことだ。そこへ「AIを置けば解決する」という期待が広がるが、外部AIを会計システムに直結させれば、精度もコストもセキュリティも制御を失う。freeeの自動登録ルールを一元管理し、AIとの間に“統制を1枚”はさむ——それがRuleHubだ。約80社を顧問先に持ち、開発に税理士の立場から関わる田村直大さん(田村直大公認会計士・税理士事務所 代表)に、その設計思想と現場の手応えを聞いた。
記帳の自動化:最大95%(50〜60%から段階的に引き上げ)
月次決算リードタイム:5営業日 → 0.5営業日(リアルタイムチェック・試算)
新規顧問先:初日から共通ルールが稼働(属人化・引き継ぎコストを削減)
AIへ渡すのは正規化した摘要テキストのみ(口座番号・トークンはサーバー側で保管)
約80社を支える、freee5つ星アドバイザーの事務所
── 田村さん、まず自己紹介をお願いします。
公認会計士・税理士の田村直大です。千葉の出身で、2023年に独立し、新宿区の愛住町で事務所を構えています。
いまは顧問先が80社ほどです。スタートアップから中堅企業まで業種はさまざまで、会計と税務を日々サポートしています。
── freee認定アドバイザーでもあると伺いました。
そうですね。freeeの5つ星認定アドバイザーを務めています。クラウド会計をしっかり使いこなすところは、うちの強みのひとつです。
もともと、会計はブラックボックスになりがちです。中で何が起きているか見えないまま、数字だけが出てくるんです。そこにずっと問題意識がありました。なんとかしたいと思い、クラウド会計の普及支援や、会計人材の育成に取り組んできました。RuleHubにも、その現場感覚を持ち込んでいます。
RuleHubとは——freeeの自動登録ルールを一元管理する
── RuleHubは一言で言うと、どんなサービスですか?
ひとことで言うと、freeeの自動登録ルールを一元管理する、専用のオーケストレーターです。社内ではRuleHubと呼んでいます。
たとえばClaude CodeのようなAIを、freeeのMCPにそのまま繋ぐとします。すると、繋いだ瞬間に、誰でも書き込みも削除もできてしまいます。コストもかかりますし、情報が漏れるリスクもあります。
ですからRuleHubを間に1枚かませて、そこを通す形にします。あらかじめ決めておいた仕訳ルールだけをAIに渡し、推論で勝手に仕訳させません。それで精度もコストも抑えられる、という考え方です。
── もう少し具体的に教えていただけますか?
いちばんよくある誤解が、「繋げばAIが勝手にうまくやってくれる」というものです。正直、これは幻想です。推論まかせだと、精度が日によってブレますし、毎回AIに判定させるのでコストもかさみます。
結局、「AIを置いただけ」では、どこかで破綻します。ルールをまとめて管理し、権限を絞り、承認を通し、ログを残す。そこまで仕組みとして作らないと回りません。
RuleHubは、そこを段階に分けて処理しています。まず、複数の事務所のデータ——60社ほどで、20万件近い仕訳です——そこからよく出てくるパターンを集めた共通ルール、いまは500件近くありますが、それに照合します。次に、その会社ならではのルールに照合します。それでも引っかからないものは、過去に同じような判定をしていないか、キャッシュを確認します。最後に、どうしても残ったものだけ、ClaudeやGPTに判定させます。
ポイントは、最後のAIまで来るのは、ほんのわずかだということです。
「ルールで動かす」仕組み——共通ルールと例外判断
── 「共通ルール」は、どうやって作るのですか?
ひとつひとつ手で書いているわけではありません。実際の仕訳データを大量に集めて、そこから「この摘要なら、この勘定科目」というパターンを、統計的に抽出しています。たとえば、ある決済代行サービスからの入金は、どの事務所でもだいたい同じ科目に落ちます。そういう、業種をまたいで共通するものを、最初から土台として持たせてあります。
そのうえで、会社ごとに事情は違いますから、事業所固有のルールを重ねます。「この取引先は、うちでは雑費ではなく支払手数料で処理する」といった、その会社の決めごとですね。共通ルールが土台で、固有ルールが上書き、というイメージです。
ルールは一度作って終わり、ではありません。運用しながら、外れたところを直して、精度を上げていきます。
── どんな取引が自動で確定して、どこが人間に回るのでしょうか。
定型的なものは、ほぼ自動で確定します。毎月のサブスクリプション、家賃、通信費、決済手数料、給与の振込——このあたりは、摘要を見れば科目が一意に決まりますから、人が触る必要はありません。
人間に回ってくるのは、判断が要るものです。たとえば、同じ「振込」でも、それが外注費なのか、資産として計上すべき支払いなのか、摘要だけでは決められないことがあります。あるいは、新しい取引先からの、初めてのパターン。こういうものは、確定させずに、必ず人の確認を挟みます。
要するに、機械的に決まるものは機械に任せて、迷うものだけ人が見る。その仕分け自体を、RuleHubがやってくれるわけです。
── 記帳の約95%を自動化できるとも伺いました。
ええ。とはいえ、いきなり95%は難しいです。最初は50〜60%くらいから始めて、少しずつ引き上げていきます。
人間は、例外の判断と、最後の承認に集中すればいいんです。そこが本丸だと思っています。あと、地味に大きいのが、新しい顧問先でも初日からルールが効くことです。引き継ぎは本来とても大変ですが、そのコストが大きく下がります。
── 新規の顧問先でも初日からルールが効く、とは?
ここは、地味ですが大きいところです。普通、新しい顧問先を引き受けると、まず「この会社はどう仕訳しているのか」を一から把握しないといけません。前任の担当者の頭の中にしかルールがない、ということも珍しくありません。
RuleHubだと、共通ルールが最初から効いているので、初日から大半が自動で片付きます。あとは、その会社固有のクセを、固有ルールとして足していくだけです。
担当者が代わっても、ルールは事務所に残ります。「あの人が辞めたから、もう分からない」ということが起きません。引き継ぎのコストが、本当に下がりました。
税理士事務所の3つの課題に効く
── 税理士事務所が抱える課題という観点から整理していただけますか?
大きく3つだと思っています。
① 記帳作業の属人化
担当者ごとに、使う勘定科目や仕訳のクセが違います。その人が辞めると引き継げません。これが、事務所経営で一番つらいところです。RuleHubは、共通ルールと、会社ごとのルールを、ひとつにまとめて管理します。まさにここに効きます。
② 事業所が増えたときの負荷
顧問先が増えるほど、手間がそのぶん増えていきます。うちで試したときは、月次に5営業日かかっていたものが、リアルタイムでチェックできるようになり、0.5営業日まで縮みました。
③ AIをどこから入れればいいのか、判断の軸がない
「とりあえずツールを入れました」で終わっている事務所が、けっこう多いんです。RuleHubは、その前の業務改革——BPRが前提です。業務の流れや、規程や、承認の仕組みを作り直したうえで、AIを載せます。結局そこが、他と差がつくところだと思います。
── 顧問先が増えてもコストが膨らまない、という点も気になります。
ここは、設計で工夫したところです。顧問先ごとに、データもルールも、AIの利用コストも、きっちり分けてあります。A社の処理が、B社のコストに混ざることはありません。
さらに、事業所ごとに予算の上限を決められて、そこに達したら自動で止まります。AIに直結していると、知らないうちに利用料がふくらむのが怖いところですが、上限で止まるなら、その心配がありません。
そもそも、取引の大半はルールで確定してAIを呼ばないので、AIにかかるコスト自体が、かなり小さく抑えられます。顧問先が増えても、コストが比例して跳ね上がらない——これは、事務所を続けていくうえで効いてきます。
セキュリティと統制——間に「統制を1枚」はさむ
── セキュリティ面での懸念はありませんでしたか?
そこが、最初に一番気になりました。Claude Codeで直接freeeを叩く形だと、口座番号やトークンが外に出かねません。情報が漏れるのも、間違った仕訳が本番に入ってしまうのも、起きてからでは遅いんです。
RuleHubがAIに渡すのは、正規化した摘要のテキストだけです。口座番号やトークンは、サーバー側で保管し、画面にも手元にも出しません。そもそも取引の大半はルールで自動的に確定するので、AIのところまで行きません。送る情報も、コストも、最小限で済みます。
あとは、誰がいつ何をどう判定したかが、すべてログに残ります。これは、監査でも、顧問先への説明でも、そのまま使えます。ここまで作り込んであるなら信頼できる、と感じました。
なぜ「AIまかせ」ではなく「ルール」なのか
── 突き詰めると、なぜ「AIまかせ」ではなく「ルール」なのでしょうか。
会計は、説明できないといけない世界だからです。なぜこの科目にしたのか、税務調査でも、顧問先に対しても、根拠を示せないと困ります。AIが推論でなんとなく出した仕訳では、その「なぜ」に答えられません。
ルールなら、「このルールに従って、こう処理しました」と、はっきり言えます。誰がいつ何をどう判定したかも残っています。AIは、ルールで決められない、ほんの一部を補助するだけです。主役はあくまでルールで、AIは脇役なんです。
税理士の仕事も、これで変わると思っています。手を動かして仕訳を打つ時間が減り、その会社の経営をどう良くするか、税務をどう組み立てるか——そういう、本来やるべきところに時間を使えるようになります。
これから検討する税理士の方へ
── 最後に、これからRuleHubを検討している税理士の方へ一言。
「AIを入れれば変わる」というのは、やはり幻想だと思います。業務の流れも、規程も、承認の体制も、きちんと整理し、そのうえでAIを組み込む。その順番が大事です。
AIを「とりあえず使わせる」のではなく、「事務所として、きちんとコントロールした形でClaude Codeを使う」。その体制づくりを支援するのがRuleHubです。
RuleHubはそのための道具ではありますが、本当に大事なのは、ツールを入れる前の設計のほうです。顧問先ごとに、データもルールもコストも分けてあり、予算の上限が来たら自動で止まる仕組みもあります。そこまで整えてはじめて、AIは安心して任せられる相棒になります。
公認会計士・税理士。千葉県出身。2023年に独立し、新宿区愛住町に田村直大公認会計士・税理士事務所を開設。顧問先約80社。freee5つ星認定アドバイザー。クラウド会計の普及支援や会計人材の育成にも取り組み、RuleHubには税理士の立場から開発に協力している。
- 顧問先数・規模は取材時点の実績。
- オーケストレーター=ルール照合・キャッシュ・AI判定など複数処理を制御・統合する仕組み。MCP(Model Context Protocol)=外部AIと業務システムを接続する規格。
- 最小権限・承認・ログ=情報統制の基本要素。
- 共通ルール499件・仕訳19.5万件・60社はRuleHub構築時点の数値(本文では概数で言及)。
- 自動化率は顧問先・業種により幅があり、導入初期は50〜60%から。
- BPR(Business Process Re-engineering)=業務プロセスの再設計。
- 月次決算リードタイム(5営業日→0.5営業日)は田村事務所での試算値。
取材・構成:Aurant Technologies/本記事は田村直大公認会計士・税理士事務所 代表 田村直大氏へのインタビューをもとに構成しています。RuleHubは Aurant Technologies が提供する、freee自動登録ルールのオーケストレーターです。