SaaSコストとオンプレ負債を断つ。バックオフィス&インフラの「標的」と現実的剥がし方(事例付)
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SaaSコストとオンプレ負債を断つ。バックオフィス&インフラの「標的」と現実的剥がし方(事例付)
前編では、営業やマーケティング部門にはびこるSaaS(Salesforce、kintone、MAツール等)のコスト構造と、その「泥臭い剥がし方」を解説しました。
続く後編では、企業予算の最大のブラックホールである「バックオフィス(経理・労務)」と「データ基盤・レガシーインフラ」にメスを入れます。
「システムを入れたのに、結局経理がExcelマクロで加工して手動アップロードしている」「昔からあるOracleやAccessだからと、ベンダーに言い値で保守費用を払い続けている」。通常の開発会社(SIer)は、こうした既存システムの解約や運用見直しの提案はしてくれません。
我々アーキテクトが、現場の反発を抑えつつ、データ連携を用いて裏側から具体的にどう配管を繋ぎ変えて止血していくのか、その現実的なアプローチを完全網羅します。
💡 どこからメスを入れるべきか?「IT負債・コスト削減4象限マップ」
コスト削減インパクトの大きさと、移行の難易度(現場の反発リスク)から、着手すべき優先順位を視覚化しています。
1. バックオフィス・ERPの負債:「手作業の分断」を滅ぼす
フロントオフィス(営業)とバックオフィス(経理)のSaaS化がバラバラに進んだ結果、「システム間の連携コスト」と「高額なライセンスの二重持ち」という新たな負債が生まれています。フロントとバックオフィスの分断
標的:Salesforceからの手動請求書作成 と 高額BI(Tableau)
フロントの営業はSalesforceで商談管理をしているが、バックオフィスの会計・請求システムと繋がっていないケースです。
毎月、経理担当者がSalesforceから商談データをCSVで抽出し、それを元に手打ちで請求書を作成・発行するという非効率な作業が発生しています。さらに、経営陣へのレポート報告のためだけに、全社で高額なBIツール(Tableau等)を契約してしまっている二重の無駄が存在します。
「営業がSalesforceで受注した案件を、経理がCSVでダウンロードし、月末に丸3日かけて請求書を手打ちで作成している。また、予実管理のために導入したTableauのライセンス費用が年間数百万円にのぼる。」
まず、Salesforceの商談データをクラウド会計(freee等)へ自動連携させ、請求書の発行作業を完全に自動化します。同時に、高額なTableauをGoogleが提供する無料のLooker Studioへ置き換え、ライセンスコストを劇的に削減します。
そしてここからが重要です。削減して浮いた予算を使い、「バクラク」等の最新の支出管理・稟議SaaSを導入します。無駄な作業とコストを削ぎ落とし、現場の使い勝手と生産性を高めるシステムへ「予算を移し替える」鮮やかなアーキテクチャ再構築です。
経費精算SaaS と オンプレERP の併用
標的:楽楽精算 / Concur と 勘定奉行 等の分断
現場の利便性のために「楽楽精算」等の経費精算SaaSを全社導入したが、本社の基幹システム(勘定奉行やOBIC等)の仕様が古く、仕訳データのフォーマットが合わないケースです。
SaaS側で柔軟なカスタム項目を作れないため、毎月末に経理の「Excelマクロ職人」が、SaaSからCSVをダウンロードし、勘定科目をVLOOKUPで自社仕様に変換し、エラーを修正してから基幹に手動アップロードするという見えない莫大な人件費を払い続けています。
「社員500名の企業で経費精算SaaSを導入(年間ライセンス300万円)。しかし基幹システムと連携できず、毎月初に経理3名がかりで丸3日かけてCSVの変換と突合作業を行っている。入力ミスによる差し戻しも頻発。」
オンプレERPをいきなりSaaSへリプレイスするのは危険すぎます(経理部門が猛反発します)。そこで、フロント(SaaS)とコア(基幹)のシステムは現状のまま残し、その間を「BigQuery」で繋ぎます。
経費精算SaaSのデータを自動でBigQueryに流し込み、そこでdbt(SQLモデリングツール)を用いて「基幹システム専用のCSVフォーマット」へ自動変換(マッピング)する処理を組みます。経理の「手作業によるCSVリレー」を裏側でこっそり滅ぼし、圧倒的な工数削減を実現します。
オンプレミス型 勤怠管理
標的:TimePro-VG / Tomas 等の独自カスタマイズ
「うちの会社は特殊だから」と、自社独自の複雑な就業ルールに合わせて、オンプレミスの勤怠システムをゴリゴリにカスタマイズしている状態。法改正(働き方改革や有給義務化など)のたびに、数百万単位のシステム改修費用がベンダーから請求されます。
「昔ながらのオンプレ勤怠システムを利用中。有給の取得義務化など法改正への対応として、ベンダーから『カスタマイズ部分の改修が必要』と500万円の見積もりを出された。テレワーク時の打刻のためだけにVPN維持費もかかっている。」
「今の複雑なルールをシステムで再現する」という発想を捨てます。SmartHRの勤怠オプションや、マネーフォワード勤怠といったSaaSに、自社のルールを「標準化(SaaSの仕様に合わせる)」させて移行します。法改正対応やサーバー維持をすべてSaaSベンダー側に任せることで、将来の負債を断ち切ります。
2. データ基盤・連携インフラの罠:重厚長大な「土管」を捨てる
データを一箇所に集めるための「土管」そのものが、高額な維持費とベンダーロックインの温床になっています。高額な CDP(統合基盤)パッケージ
標的:Treasure Data / Tealium 等の持て余し
「顧客データを統合してパーソナライズする」という崇高な目的で導入した高額なCDPパッケージ。しかし導入後、高度なAIや分析機能を使いこなせる人材はおらず、実態は「一部のマーケターが、メルマガの配信先を絞り込むためだけに(ただのハコとして)使っている」という企業が後を絶ちません。
「Web行動履歴とCRMを統合するため、年間3,000万円でCDPを導入。しかし、データスチュワード(管理者)が退職し、現在は週に1回、MAツールへ送るメールリストをSQLで抽出するだけの巨大なゴミ箱になっている。」
自社で既に利用しているDWH(BigQueryやSnowflake)を、そのままCDPの「データの置き場所」として活用します。データの抽出と配信ツールへの連携は、Hightouch等の「リバースETL」ツールに任せる『コンポーザブル構成』へ移行します。これで、ブラックボックス化した高額なパッケージ維持費を全額削減できます。
重厚な EAI・ETL ツールと連携バッチ
標的:DataSpider / ASTERIA Warp 等と専用サーバー
オンプレミス時代から使っているデータ連携ツール。Salesforceと基幹システムを「直接繋ぐ(Point-to-Point)」ためだけに稼働していますが、連携先が増えるたびにバッチがスパゲッティ化し、「エラーが起きるとどこが原因か分からない」状態に陥ります。さらに専用Windowsサーバーの維持費や保守費用が高止まりしています。
「Salesforceと基幹システムを連携するためだけに、EAIツールと専用サーバーを維持。Salesforce側にカスタム項目を1つ追加して連携させるだけで、ベンダーから『スクリプトの修正とテストが必要です』と50万円の見積もりが来る。」
システム間を直接繋ぐのをやめ、FivetranなどのクラウドネイティブなETLツールで「全データをまず生のままBigQuery(DWH)へ抽出・ロード(EL)」します。データの変換(T)はすべてDWH内のdbtで行うハブ&スポーク型へ移行します。サーバー保守が不要になり、特定の連携ベンダーへの依存(ロックイン)から完全に解放されます。
3. 業界特化型レガシー・オンプレミスの罠
「昔から使っているから」という理由だけで、2025年の価格改定(値上げラッシュ)の直撃を受ける、最も闇の深い領域です。オンプレミス データベース / 独自DB
標的:Oracle Database / SQL Server / Microsoft Access
2025年以降、Oracle Databaseの保守料金の値上げや、SQL Serverの料金改定が相次いでおり、ただシステムを維持するだけでコストが増大します。また、部署の片隅で生き残っているAccessの独自DBは、作った社員が退職して誰も手を出せない「ガラパゴス化」した手作業の温床になっています。
「基幹の裏側で動いているOracle DBのサポート期限切れに伴い、ハードウェアの刷新とDBのバージョンアップで総額4,000万円の見積もりが来た。また、営業事務が長年使っているAccessの顧客DBは、作った人が退職して誰も直せない。」
要件を見極め、データ本体(バックエンド)はAmazon RDS等のマネージドDBaaSやBigQueryへ移管します。現場が入力するフロント画面だけを、kintoneやAppSheet等のノーコードツールを使って1〜2週間でサクッと再構築します。これにより、特定ベンダーへの高額な保守費用やライセンス値上げの脅威を永遠に断ち切ります。
ターミナル型 POSレジ(小売・飲食)
標的:東芝テック / NECプラットフォームズ 等の専用ハード
小売・飲食業において市場を席巻してきた旧来のターミナル型POSレジ。専用機器の導入費用と、専用保守員による維持費用が経営の大きな重荷となっています。さらに売上データがサイロ化し、クラウド会計とシームレスに繋がりません。
「飲食店を10店舗展開。店舗を増やすたびに、レジ専用機とサーバーの導入で1店舗あたり100万円以上かかる。しかも売上データは夜間バッチでしか本部に送られず、リアルタイムの在庫管理ができない。」
スマレジやAirレジといった「タブレット型(クラウド型)POSレジ」へ移行します。市販のiPadを利用して初期費用を劇的に抑え、安価な月額料金でクラウド会計SaaS(freee等)やDWHとAPIで直接連携させ、バックオフィスの業務も同時にスリム化します。
医療機関向け オンプレ電子カルテ
標的:Medicom / HOPE シリーズ 等の院内サーバー
クリニック内に高額な専用サーバーを設置し、日々のバックアップ運用や、5年ごとのハードウェアリプレイス(買い替え)に数百万単位の費用が発生するオンプレミス運用。災害時のデータ喪失リスクやランサムウェア対策も自前で行う必要があります。
「開業時に導入したオンプレ電子カルテ。5年目のリース切れに伴い、サーバーとPCの入れ替えで800万円の見積もり。さらに、院長自らが毎晩USBメモリにバックアップを取るという非効率な運用を続けている。」
シェアを急拡大している「M3デジカル」や「CLIUS(クリアス)」など、院内サーバーが一切不要な「完全SaaSモデル(クラウド型)」の電子カルテへ移行します。ハードウェアの更新コストと、セキュリティ・バックアップの不安を完全にベンダー側へオフロードします。
まとめ:開発会社は「引き算」の提案をしてくれない
前編・後編を通じて、フロントオフィスからバックオフィス、インフラに至るまで、企業のIT予算を食いつぶす「IT負債」とその現実的な剥がし方を見てきました。 システム導入において、機能を追加(足し算)することは誰にでもできます。しかし、既存のシステム構成図を俯瞰し、「このツールはオーバースペックだ」「このバッチ処理は連携ツールで安価に代替できる」と見抜き、解約(引き算)を提案し、浮いた予算を『バクラク』等の最新の生産性向上ツールへ移し替える提案ができるプレイヤーは限られています。 通常のSIerや開発会社は「新しいものを作ること」で利益を得るため、既存のSaaSの断捨離には踏み込みません。だからこそ、我々のようなプロのデータアーキテクトが第三者の視点でシステム構成にメスを入れ、不要な配管を断ち切り、無駄な作業を自動化するアプローチが求められているのです。
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「システム維持費が高止まりしている」「Excelでの手動連携が限界」
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